霧氷熱波の激闘
開始の合図と同時にフィリアとイフルはお互いに得意な奇跡を発動し、遠距離からの壮絶な互いの奇跡を打ち消し合う攻撃を開始した。
フィリアの得意な氷の奇跡は、常にイフルに向かって放たれ続け、対するイフルも負けずに得意の火系の奇跡で焼き払っていた為、お互いに一歩も譲らずに怒涛の攻めを展開していた。
二人の奇跡の応酬により、演習場内は熱気と冷気が立ち込めており、熱いのか寒いのか分からなくなるほどお互いに拮抗した攻めを続けている。
「クロノ様こちらです」
ちょいちょいと袖を引っ張られ、その方へと振り向くとセラがそのまま引っ張るようにして安全な場所へとクロノを案内され、安心して椅子に腰かけた。
「ありがとうセラさん。おかげで助かったよ」
「いえ、セラもあの中にいるのは嫌でしたし、ここなら安心してみていられますから」
今でも演習場では二人共変わらずに、遠距離から奇跡を放ち続けていたが、その表情からして二人共余裕は無さそうであった。
「うーん。やっぱりこの模擬戦はやれてよかったね」
「そうですね。これでフィリアももっと力の扱いが上手くなれればいいのですけどね」
「あれ、セラさん気づいていたの?」
「もちろんですよ。セラはフィリアとの付き合いは長いですし、フィリアも強くなっていくのと同時に、少しずつ刻印を隠すようになりましたし、急にあの教会に向かった理由のことだって、おおよその予想はついていましたから」
「二人共、仲いいんだね」
「もちろんです。フィリアの友達基準は厳しいですが、それでもセラは上位にいると確信していますよ」
セラは表情を緩ませて話す姿からして、疑っていた訳ではないがどうやら本当に仲が良いようだ。
「あ、クロノ様。二人が動きますよ」
お互いに奇跡を打ち合っていたが、一向に距離が詰められない為、戦法を変えたのはフィリアであった。
フィリアは氷弾を撃ち込み続けていたが、それはイフルの火球を抑えるためのものとして放っていたものであり、フィリア自身は少しずつ移動を開始すると同時に氷壁を展開しながら火球を回避し、その距離が縮まるとイフルも後ろの壁との距離を確認しながら後退し、限界まで火球を放ち続けていたが、その焦りなのかイフルの眉根が動いたことを見逃さず、その行動が限界に近いものと結論付けて、動いたのはまたもフィリアであった。
距離が縮まることによりイフルの奇跡が威力を劣らせることなく放たれているが、すでにフィリアは迎撃として放っていた氷弾を放つのを止めており、その代わりの氷壁を作りつつ火球を防ぎ、猛禽のような鋭い眼光で獲物であるイフルを捕らえながら数十メートルの距離を一気駆けし、その距離を手の届く範囲までに詰めたのだ。
対してイフルは、そのフィリアの行動に遅れを取り、それでもすぐに態勢を整えようとするが、間に合わない。イフルの知っているフィリアは確実に仕留めにくる。
そう。いつものフィリアであれば仕留められた。
だが、今は違う。
「き、危機一髪だったわ」
「ちっ、仕留め損ねた」
イフルは回避姿勢を取りながらフィリアの白剣による一振りを寸前で、自分の武器である大鎌で受け止めることに成功すると、少しでも離れるように体を動かして距離をとり、フィリアも体勢を整える為に跳躍しながら距離を取り直す。
その刹那を眺めていた二人は声を出さずにはいられなかった。
「すごいな。フィリアのあの行動」
「さすがAクラス。と言ったところでしょうか。でも指輪の効果がある中でどこまでやれるのか」
「でも、あのフィリアを見ていると、それほど指輪を着けているから制限されているようには見えないけど」
「そうですね。確かに制限を受けているようには見えませんが、フィリアなりにあの一回で何かを掴んで戦っているのでしょう」
「さすが、フィリアだね。でもそれに対抗しているイフルさんも凄いな」
クロノはそのフィリアに対抗しているイフルに対しても、尊敬しておりフィリアが指輪を着けて戦っているとはいえ、格上であるフィリアと戦えているのだ。
クロノはイフルと戦い追い詰められた過去を思い出しながら、フィリアと同等の応援を密かに送っているのはここだけの秘密だ。
お互いに肩を動かしながら息を整うのを待っている瞬間すらも、緊張感が漂うこの模擬戦に息を飲んでクロノとセラは見入っていると、次に動いたのはイフルであった。
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