イフルが持ってきた道具たち
なんとかイフルをクロノから引きはがした二人は、クロノの意識がどこかに行ってしまっていることに気付くと、今度は二人でどちらが意識を戻すか争っている途中にクロノの意識が戻り、二人は何も無かったかのように振る舞っていたので、クロノもそれ以上先ほどのことを聞くのは野暮であり、せっかくイフルが来てくれたので質問を続ける。
「ええっと、とりあえず凶になると基本的には心の内に秘めているものが増幅してしまうのか」
「はい。恐らくは。私も気になってメイオール様とアーロンさんにも尋ねてみたところ同じようなことを言っていましたし」
「ということは、その心の内に秘めたものが凶になった者の強さとなるのか。それって普段から危ない奴がなってしまったらかなり危ないんじゃないか」
クロノはイフルの体験談を聞き終え、考えられる最悪の事態を想像し、もしこの事が起きてしまったらその時は、覚悟を決めなければならないと思っていたが、その事にセラは首を捻り疑っており、
「確かにそうなってしまえば、危険と判断しますが、そうなれば冥獄凶醒によって凶になってしまえば出処が分かるでしょうし、大人数及び、それなりに目立った人間がいなくなれば、ある程度騒ぎになるでしょうから」
「しかも、セドナ王国はそれなりに警備の厳しい国だから、そう簡単に姿を完全に消すのは難しいし、入国だって管理されているわ」
「そっか。それなら、まだ事態はそれ程急を要していないだろうけど、警戒は怠らずに何か王国内で起これば調査をするってところかな」
「そうですね」
「ええ、そうね」
フィリアとセラはクロノに賛同する形で頷いたのだが、イフルだけは目を目いっぱい広げていつもよりも大きめの声を出す。
「ちょっと待って下さい! この王国に冥獄凶醒が潜んでいるのですか⁉」
その声に、フィリアはやれやれといった感じで、
「そうよ。まだほとんどの人が知っていないけど、実は――――」
「それならば、早速私が持って来た物が役に立ちそうです!」
フィリアは話をしている最中に割り込まれるようにイフルに遮られたので、恨めしそうに横目で睨んでいたのだが、余程イフルは興奮しているのか気にせずに勢いのまま続ける。
「私達の過ちが唯一報われる機会がもう来ているのですね! ありがとうございます。リフィア様! すいませんが、一度自室に戻って来ますね!」
そう言ってイフルは一度部屋から出ていくと、すぐに戻って来る。
「お待たせしてすいません。それでは……セ、説明をさせていただきます……」
余程急いで戻って来たのかぜぇぜぇと息を切らして説明を始めようとしたので、セラが落ち着くように促しながら、水を差しだすとありがたく頂戴したイフルはゆっくり飲み干し息を整えると、その手に持ったものを三人に見せながら説明を始めた。
「見苦しい姿を見せて申し訳ございません。それでは説明を始めます。まずはこちらが凶及び冥獄凶醒に反応する光石になります」
クロノはイフルから装飾が施された光石を手渡されるとまじまじと見つめていると、魔石に近い様な気がしてこのままずっと見てしまいそうになっていると、
「クロノちゃん。私にも見せて!」
興味を持ったフィリアが横から話かけてきたので、光石を手渡すと、「綺麗ねー」と言いながらフィリアも興味を持ったようだ。
「次にこの光石が凶に出会うとどうなるかと言うと、現在は淀みなく輝いていますが、凶や冥獄凶醒が近くいると淀み始めます。そして、黒くなるのが早ければ早いほど冥獄凶醒に近いとなります」
「へぇー、それは凄いね! これなら見つけるのも簡単になるし、イフルさん達のおかげだよ!」
「そう言って頂けると私達も救われます」
イフルはようやく胸をおろすことが出来て、ようやく本来の表情にも明るさが見え始めてきた。またその目は赤くなっており、それ程イフルは被害者であるが責任を感じていたようだった。
「あとはイフルさん達のおかげで出来たこの光石で、冥獄凶醒から脅威を少しでも防げるようにみんなで頑張ろうね」
「ええ、そうですね」
「そうね。頑張りましょう」
「セラも出来ことがあるならやってみせますよ」
イフルは涙がこぼれる前に目を擦り、涙を拭うと、
「あともう一つ持ってきたので、よろしければこちらも紹介させてもらいますね」
イフルは手に収まるぐらいのケースから取り出したのは指輪であった。
「へーこれって、もしかして指輪かしら?」
「そうですけどこれを中指に……ってフィリア勝手に!」
フィリアはイフルの説明の途中にさっと指輪をかすめ取ると、
「ねー、クロノちゃん。これを私の指に着けてくれないかしら?」
「あっちょっとフィリア、ズルいわよ! セラだってしてほしいのに!」
「セラは私の後に着けさせてあげる。さ、クロノちゃん。おねがい♪」
「いいけど、イフルさん、いいの?」
「こうなったら着けて見て下さい、そのほうが説明しやすいですから」
「ほらっ、クロノちゃん。早く、早く!」
「そんなに急かさないで」
クロノは片膝をついてフィリアの右手の中指に指輪をはめ、その瞬間にフィリアの表情から喜びがはじけていた。
「はぁ~! クロノちゃんに指輪をもらっちゃったわ。うふふ。本当は別のが一番だけど今はこれでも充分幸せだわ」
幸せに浸っているフィリアに対して、イフルはいつも変わらない口調で指示を出す。
「幸せのところ悪いけど、白剣を出してみてくれないかしら?」
「え? 剣を出せばいいの? 仕方がないなぁ」
イフルの指示にいつもなら簡単に応じないフィリアだが気分が余程いいのか、今はすんなり受け入れ、言われたとおり白剣を出現させると、フィリアの表情が曇った。
「フィリアそのまま軽く振ってみてくれない?」
フィリアは表情を曇らせたまま白剣を軽く縦に振ってみると、更に表情を曇らせた。
「どうしたの。フィリア?」
心配になってセラが声をかけると、
「剣が……少し重い?」
フィリアはいつもと違う感触を疑問に思っていると、
「その指輪は力を制限するもので、力の使いかたをより上手くするために作られたのよ」
イフルはフィリアに向かって説明し、その説明を聞いたフィリアはどこかげんなりとしていたが、隣で聞いていたクロノは悩みの打開策を見出すのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます! ブックマークをしていただいた方ありがとうございます! 引き続きブックマーク、評価、感想をお待ちしております!