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名前は覚えてあげよう


 「君、もしかしてあの時の」

 「はい。今日はお礼と謝罪をしにこちらの部屋に来させて頂きました」

 

 そのイフルの姿はあの時のような乱雑な様子は全く感じさせず、むしろ凛としたその佇まいは見違えるほどであった。


 「フィリアもそうですが、特に私はクロノ様にお礼と謝罪を一刻も早く伝えたく、急で申し訳ありませんが、来させて頂きました」

 

 イフルはクロノとフィリアに向かってもう一度深々と頭を下げる。

 

 この時、フィリア以上にイフルに対して特別な感情を持つのがクロノであった。


 クロノとイフルは過去に壮絶な戦いをしたことがあり、凶になっていたとはいえ、殺される寸前までクロノは追い込まれ、その戦いの記憶は鮮明に思い出せるほどだ。

 

 結果として使徒となったクロノが圧勝したのだが、あの記憶と出会い方が凄まじく強烈であった為イフルはよく覚えてはいるのだが、印象はあの時のまま止まっている。


 「イ、イフル……さんだよね」

 「そうです。クロノ様、あの時は本当に申し訳ございませんでした。私が(まがつ)となりまだ使徒になっていなかったクロノ様に対してあのような事をしてしまい、私は今でもあの時のことを後悔して欠かさず懺悔をしております」

 

 イフルの言う通り、僕は殺される寸前にリフィアによって使徒になったため生きていたようなもので、もしリフィアがいなければここに僕はいないし、フィリアもどうなっていたか分からない。


 「ピプルだっけ。元気にしていたの?」

 「ピプルではございません。イフルです。フィリアは私と少しの期間は一緒にいたのだから知っていてほしかったですね」

 「まだ三文字合っているあるだけマシじゃないの」

 

 自分で言うのかとクロノでさえ呆れそうになってしまうが、フィリアらしいとも思える一面であることに、懐かしさを感じるぐらいだ。

 

 それでも、ピプルはないだろう。

 

 言われたイフルも口角をピクリと動かしたぐらいで、なんとか押し留まったが、フィリアの一言により、空気も緩んだ気がしたので、


 「イフル…さん。立ち話もあれだから座ってよ」

 

 クロノはぎこちなくイフルの方へと椅子を向け座るように促すと、イフルも応えるように椅子へと腰かける。


 「今は皆さん勉強中だと聞いておりましたが、私がいてもよろしいのですか?」

 

 イフルは三人に問いかけ、それに即座に不気味な程にこやかに反応したのはフィリアであった。


 「出来れば――――」

 「うん。今は休憩中だから問題ないよ。ねぇセラさん」

 「え、ええそうですね」

 

 急に振られたセラは驚いてしまっていたが、巻き込んだことを気にせず、言葉を遮ったクロノはいつも以上に頭を回転させイフルに対して聞いておきたいことが浮かんでおりその一つ目である質問を問いかける。


 「イフルさんは凶になった時のことは聞いても平気?」

 

 その問いかけにイフルは一瞬表情を曇らせるが、すぐに何かを決心し問いに答える覚悟を決める。


 「ええ、もちろんです。何でも聞いて下さい」

 「それじゃあ、遠慮なく聞かせてもらうけど、凶になって時の記憶はどれぐらいあるの?」

 「実際ほとんどのことを覚えています。あの時のクロノ様との出来事もそうですし、高まりきった感情も忘れられません」

 「ねぇ、イップル。今のどうゆうこと」

 

 フィリアはどうやらクロノとの出来事というワードに引っかかり、イフルに冷ややかな声で問い詰める。


 「イフルです、いい加減覚えて下さい。あの時は悔しいことにヴェドの命令を従順に受けてしまっていて、クロノ様を排除しようとしたのです」

 「ふぅん」

 

 フィリアはその言葉にすかさず反応し、イフルに対して敵意を向けビシビシと伝わるぐらいの殺気をはなっているが、イフルはその殺気に怯むことなく、ただただ姿勢を崩さず動じずにいた。


 「フィリア、敵意を向けちゃダメだよ。それにイフルさんは操られていたから仕方がないし、僕も気にしていないから」

 「クロノちゃんが言うなら……」

 

 クロノは優しくフィリアを諫めるとフィリアもすごすごと敵意を向けるのを止めるのであった。


 「ねぇ、イフル。セラも聞きたいんだけど、(まがつ)になると感情が高ぶるの?」

 「それは私の場合はそうだったとしか言えないけど、私の場合は野望が叶った気がしました」

 「野望が叶ったってどういうこと?」

 「普段から意識はしていなかったのですが、自分の意のままに従わすことだったようです」

 

 イフルは神妙な面持ちで答え、それを聞いたセラはさらに問いかける。


 「イフルは従わすことがしたかったの?」

 「結果としてはそうだったのかもしれません。私自身普段はなるべく率先して仕事をしていたつもりですが、手伝いや指示をする事もないと言っていいぐらいですし、出来ないことは最初からやりませんから」

 「それなのになんでイフルさんは、従わせることが、野望だったって分かったの?」

 「一番初めに(まがつ)になった時に部屋を出ると一人のシスターを見つけたのです。それで私はそのシスターに向かって集合をかけるように言ってそれで一つの部屋に集めさせて、自分の役目を果たす為にシスター達に催眠のようなものをかけ従わせました。その後は私の言葉に何一つ口答えせずに任せた仕事をやらせて、結果としてあのようなことをしてしまったのです」

 「その行為が、良かったっていう訳ね」

 

 セラはやや呆れながらイフルの(まがつ)状態について聞き終える。


 「恥ずかしいことに支配することに快感を抱いてしまった私はその後、あまりにも情けなくて今日も懺悔をしております」

 

 イフルは申し訳ないと言わんばかりに声をだす。


 「確かに起こしてしまったことは、反省しないといけないけどイフルさんだって被害者だし、今までが無理をしてしまっていたからそうなった訳だし、今度から困ったことがあれば僕に声をかけてよ」

 「クロノ様……。こんな私を気遣ってくれるなんてなんとお優しい。さすが使徒様ですわ!」

 「あ、こら! 離れなさい。クロノちゃんを抱きしめていいのは私だけよ」

 「セラだってまだクロノ様にほとんど触れていいないのよ!」

 

 イフルは感極まってクロノを抱きしめ、イフルを剥がそうとフィリアとセラが更にクロノを挟み込みこむように抱きしめ、三方から感じる柔らかい感触といい匂いに包まれた優しい世界に揉みくちゃにされ、終始クロノは戸惑い続けていたが、途中から諦め身を任せるのであった。



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