久しぶりの縦ロール
次の日は、昨日の続きから勉強会は始まった。今はフィリアが礼儀ついて教えてくれているのだが、その最中でもやはりリフィアから聞いた話がどうも気になってしまう。
フィリアは力の扱いがまだ上手く出来ていない。そのことが離れずにぐるぐる頭の中で回っている。
僕もまだ言えるほど強くないけど冥獄凶醒も凶も強い。それに僕は奴らによって苦しんだ人を何人も見ている。だからこそ僕たちは少しでも強くなっておかなければならないと思うが、どうしてもフィリアに伝えるということが僕にとっては難題なのだ。
「クロノちゃん。どうかした?」
「ん。いや。何でもないよ」
どうやら意識が傾き過ぎてフィリアの授業を怠ってしまい、中断させてしまう。
今だってこうして教えてくれているのだ。それなら今は授業に集中して受けなければ教えてくれるフィリアに申し訳ない。
「そう。それならいいけど。もしかして何か悩んでいるなら相談にのるわよ」
「大丈夫だよ。だから続きをお願い」
「わかったわ。それで次は――――」
口ではいいように言っているがこれでは駄目だ。
だが、何と言ってフィリアに聞けばいい。リフィアとフィリアの仲のことだってある。それにフィリアが気づいているのであれば性格を考慮してでも伝えるべきなのか。
どうすればいいか分からずに、焦燥感だけが高まっていき、どうするか悩んでいると、クロノの額にコツンと何かが当たった。
「あ、いた」
「クロノちゃん。全然集中してないよ」
目の前には頬を膨らましたフィリアが不機嫌そうに僕を見つめており、僕はその視線に観念して、
「ごめん。やっぱりちょっと休憩しよう」
「わかったわ。そうしましょう」
クロノの休憩の申し出により始まったばかりだが、早めの休憩を取ることになった。
「はい。クロノ様。こちらをお飲みください。気持ちが落ち着きますよ」
「ありがとうセラさん」
クロノはカップに口を当てて香りを嗅ぎながらゆっくりと口へと運ぶ。
確かにセラが淹れてくれたお茶は心が少しだけ安らいだが、根本的に問題が解決していないので、どうも落ち着かない。
いっそのことこの気持ちを晴らすためにも、言ってしまったほうが楽になるかもしれない。よし、それなら、
「ね、ねえ、フィリア……」
「どうしたの、クロノちゃん?」
「あのさ……聞きたいことがあるけど、いいかな?」
「いいけど、今日のクロノちゃんやっぱり何か変よ」
「そんなことないって、それよりも――――」
さぁ言え! フィリアは自分の力の扱いが上手く出来ているのか聞くんだ!
意を決して出ようとしている言葉は喉まできているのだが、やっぱり言葉が出ない。なんで、なんでだよ!
クロノの言葉を待っているフィリアがなかなか言ってこないことに心配そうに見つめ、セラも気になってしまっている。
ダメだ。やっぱり言えない。諦めて他の事を言おうとしたその時だった。
コンコンと扉が二回ほど小突かれると、部屋の中は静かになり、ゆっくりと扉が開かれるとおそるおそる中を覗き込むように一人のシスターが入ってくる。
「あら、あなたはもう平気なの?」
先にセラがそのシスターに向けて声をかけると、姿勢を正して深々と頭を下げると両頬の辺りに綺麗に整えられた縦ロールが揺れる。
「お久しぶりです。クロノ様。フィリア。あの時は我々を助けて頂きありがとうございました。教会一同を代表してお礼を申し上げます」
一通り述べたイフルは縦ロールをゆらゆらさせながら、ゆっくりと顔を上げるのであった。
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