刻印持ち。使徒。その役割
リフィアが帰る寸前にクロノが呼び止める。
「聞きたいこととはなんじゃ?」
「リフィアは昔冥獄凶醒と戦ったことがあるなら、王国内にいる冥獄凶醒について何か情報はないの?」
今日のデート中も言っていたことだが、もう少し詳細が分かれば更に探し出すのが容易になるだろう。
「クロノ。すまんがわらわはその事を覚えておらぬのよ」
リフィアは、ぽすっと今度は枕に頭を預けると、天井を眺めながら消え入りそうな声で小さく呟く。
「覚えていないってどういうことなの?」
「正確には失ったと言ったところかの。わらわ達は三人。対して冥獄凶醒及び凶の数は正確に分からないほどであった。ヴェドはわらわが倒した記憶があるからまだ答えられたが、今回の相手は不明じゃ。恐らくわらわ以外のどちらかが倒したのじゃろう。それにヴェドについても覚えていたのはわずかばかりであったし、気がつくにもあれ程時間がかかるとは思っておらんかった。情けない」
珍しくリフィアの声に元気が感じられず、心配になり覗き込むように確認しようとすると、勢いよくリフィアが体を起こしてしまい、頭がぶつかりゴチンと音がする。
「っ————いったー。リ、リフィア。大丈夫?」
「わらわは平気じゃよ。どれ見せてみよ」
リフィアはそっとクロノの頭に手を当てて、患部を撫でるとゆっくりとだが痛みが消えていく。
「おっ、おお。痛みがなくなった」
「それは良かったのじゃ」
リフィアは微笑みながら、手をクロノの頭から手を離し、改めて患部を触れても痛みはない。
「ついでに伝えておくと、先ほどフィーちゃんの話に続きがあって、わらわはフィーちゃんを含んだシスターやモンク達が毎日行う祈りにより力を得ているのじゃ」
「あの祈りにはそんな役割があったのか」
何度か見ていたあの祈りの効果について知ると、あの祈りはやはり重要だと改めて思う。
「刻印持ち力の回復は各自しておるのじゃが、別格に回復が早いのが使徒であるのじゃ。使徒は神の代行者であり、刻印持ちと神との中継役としての役割があり、与えることも出来る大切で重要な役割なのじゃ」
「でも、そんなに大事な役割なのにリフィアの使徒は今までなんでいなかったの?」
「まずは、使徒として適応出来るかが重要じゃし、今度は刻印持ちとの関係も良好でなければならないから選出するには簡単に出来ないのじゃ」
「僕の場合はギリギリその条件を満たしていたってわけか」
「まぁ、クロノは当初の実力は冒険者としては期待されるほどであってもそれでも力がまだ足りなかったが、そう言っていられる状況で無かったのと刻印持ちの上位者であるフィーちゃんがあれほど好意を寄せておれば問題ないと思ったのじゃ」
「実力については、自分でもよく分かっているよ。でもそういう経緯で選んでいるとは知らなかったよ」
「この事については別に伝える必要のない事じゃからな。それに本来冥獄凶醒を倒すのはわらわ達、神の使命じゃから。各使徒には迷惑をかけてしまって申し訳ない」
「そんなことないよ。僕だってまだまだだけど、選んでもらったからには使命を全うしてみせるよ」
「ふふっ。その言葉を聞いただけでクロノにして良かったと思えるぞ。さて、それでは今日はこれで帰るとするかの」
「長引かせちゃってごめんね」
「いいのじゃ。わらわも楽しかったからの。では、またの」
「うん。またね」
リフィアは空間をなぞることによって扉を出現させその扉の奥へ戻るのであった。
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