アルチベータとぬいぐるみ
「セラさん。今度はこちらとこちらも持ってみて下さらない?」
「え、ええ。分かったわ。でも一度にこれはちょっと……」
「あら、私ったら、つい」
一度に数体の人形を渡されたセラは抱えきれず落としてしまいそうになってしまうのでぬいぐるみを一旦アルチベータにも持ってもらおうと預けると、意外にもその姿が似合っていることに思わず声にして漏らしてしまいそうになるのをギリギリ耐えた。
セラにぬいぐるみを持たせようとするアルチベータは肌が白いため着ている黒いドレスのような服装がよりその白さを際立たせており、話口調は柔らかい口調だがやや暴走してしまうところもあるというのも見られたが、基本的には気遣いをしながら接してくれているので、セラもなあなあで接してしまっている。
結局、渡されたぬいぐるみから一つ選ぶと、それをアルチベータに預けて、残りを棚に戻してから選んだぬいぐるみを再度受け取ると、
「じゃあとりあえず、この子から持つから……」
「ええ、そうですねセラさん。あ、もう少し顔を近づけていただいて、そ、そうです。そのままでいてください」
「こうかしら?」
「セラさん! いいっ! いいですわよ! そのまま、そのままで!」
アルチベータはセラとぬいぐるみが合わさった姿を余すことなく見る為に体を動かして位置を変えながら食い入るように見続け、セラはその行動に引き気味ではあったが、アルチベータが熱心に見続けてくることに不思議と悪い気にはならなかったので、微笑をしながらその要求に応えていた。
「セラさんはとってもぬいぐるみが似合いますね」
「そうかしら。それはセラにとっては嬉しいけど、他の人から見たら子供っぽく見えないかしら?」
「いえいえ! そんなことは無いですよ! それに誰だってすぐに大人になれる訳ではないですし子供時の方が良かった大人だっていっぱいいますから!」
「そうですかね……。でもセラは早く大人になりたいですから」
「そうしたら、体は大人で心は子供でもいいのではないのでしょうか⁉」
「ちょ、ちょっと、アルチベータさん⁉」
急にアルチベータはコツコツと履いている靴を鳴らしてセラの手を包むように取ってしまったので、セラはその予期せぬ行動に対応するのが遅れぬいぐるみを落とさないように何とか両肘でぬいぐるみを挟むが、ずるりとぬいぐるみは地面に落ちてしまう。
それでもアルチベータはぬいぐるみのことなど全く気にしないで、そのままセラの手を離さずその刻印の入った右目を含んだ両目を見つめていた。
「セラさんは、きっといい人なれますよ。だから今はそのままでいてください」
ただセラだけ見つめた視線を集約して、最早穴が空きそうなぐらい見つめたアルチベータのその視線と言葉は温かみを感じられるものであったが、この時セラはこのままだとアルチベータから離れにくくなると先に感じていたので、包まれた手をすっと抜いて、
「ごめんさない。待たせている人がいるのでこれで失礼します」
セラはそっと足元に落ちてしまったぬいぐるみをさっと棚に戻して、クロノ達を探しにいつもよりやや早い足取りで探しに出た。
その姿を右頬に手を当てながら惜しむようにして見送ったアルチベータは、セラの姿が見えなくなると、セラが抱いていたぬいぐるみをそっと棚から取るとそのまま、抱き寄せて微かに残った温もりを感じながら、何かをボソッと呟いたが何を言ったのか聞こえた者は誰もいない。
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