これじゃ、気になってしまうじゃない
ワープポイントからアクアミラビリスに戻って来てギルドに向かうと、クエスト完了の通知が来ており、クエストを受けたフィリアが報酬を受け取った。
「はいクロノちゃん。これどうぞ」
「いやいや、これって報酬の全部じゃないか」
「うん? そうだけど?」
「ダメだよ。フィリアも一緒に戦ったんだからフィリアももらわないと!」
「でも、私何もしてないよ」
「そんなことないよ! ちょっと待っていて、今半分に分けるから」
クロノはそう言って、小袋をもらいに受付さんのところに向かって行ってしまったので、残されたフィリアは近くの椅子に腰かけクロノが戻って来るのを待つことにした。
「本当に、クロノちゃんは変わっているなぁ…。まぁそれを言ったら私もね」
そして少しすると、クロノは両手に小袋を持って戻って来る。
「はい。フィリア。ちゃんと半分に分けてあるからね」
クロノはフィリアに小袋を渡そうとするが、
「ありがと、でもこれはやっぱり受け取れないから、クロノちゃんが持っていていいよ」
「えっ、でも……」
「いいから、いいから。……そうだ、ほらっ。それが私の宿代ってことで」
「それなら、いいけど」
「はい。それじゃあご飯でも行きましょうか。私お腹すいちゃった」
「うん。そうだね。行こうか」
フィリアに押し付けられる形で地竜討伐の報酬を全て受け取ったクロノだったが、クロノはそれでも納得出来ていなかったので、村への仕送りで余った分を酒場でフィリアにご飯を奢ることにしたのだ。
そして二人は現在宿近くにある昨日二人が出会った酒場に来ているのであった。
「クロノちゃんもちゃんと飲みなさいよ!」
「僕は自分のペースがあるので、フィリアさんは好きに飲んでもらって構わないですよ」
今日も変わらず満員の酒場でフィリアは昨日と変わらない飲み方をしている。
しかし、その飲み方は豪快のようで上品さもあるので、汚いとは言えないところがフィリアの食事のスタイルである。
そして今日も、最高に美味いご飯を食べているのだが、クロノはどこか落ち着かない。
昼食時と同様に周囲を警戒するクロノだが、今のところ昨日いた人はいない。
「クロノちゃんそんなに、周りをキョロキョロしてどうしたの? あっ、さては可愛い女の子を探していたわね!」
「いやそうじゃなくて―――」
「目の前にこんなに可愛い美少女がいるのに、他の女を探しているなんてクロノちゃんはひどいわっ!」
「他の女の人なんて探していないし、フィリアとお酒を飲めて僕も楽しいよ!」
「そうなの?そうしたら、クロノちゃんは私だけを見ててね」
「はいはい。わかりましたよ」
クロノは機嫌がよさそうなフィリアと食事をするのは楽しいし、実際気にしていても、来たらもはやどうしようもない状況なので、ここは割り切ってご飯を楽しむことにした。
そんな二人の席から遠く離れた奥の席で二人を見る三人の男たちの姿があった。
「なあ、あそこにいるのって昨日の子とその小僧だよな」
「そうだな。あれ程の子は滅多にいないからな。よく覚えているぜ」
「あの小僧。嬉しそうに飯を食っていやがるナァ」
三人の男達は賑やかな酒場の端の方の席で静かに酒を飲んでいた。
三人の視線の先には、楽しそうにしているクロノとフィリアがいる。
あの二人には、少しばかり因縁がある。
男達もこの酒場をよく利用しているのだが、手持ちの金が減り続け現在は懐が寂しいのである。
そして現在金も少ない三人は、金を出し合って安いメニューで腹と喉を満たしていた。
「金もねえし、ちょっくら幸せを分けてもらうとするか」
「ウバウヨー。ゴッソリウバウヨー」
二人は席を立つが、残りの一人はその腰を上げなかった。
「ちょっと待て、二人共!」
「なんだよ。お前もしかしてビビッているのか?」
「ダサイヤツダナー」
「とにかく、俺の話を聞け!」
「あ? お前にしてはえらく弱気だな」
「今日ギルドで、聞いちまったんだが、あの小僧一人で地竜を倒したらしいぞ」
「「マジか⁉」」
「ああ、しかもだ。昼に出て暗くなる前に帰って来たそうだ」
「早くねぇかそれ」
「ああ、ありえねぇよ。しかもあのナリでしかも女を連れてだぞ」
「あの子は恐らくシスターだからそれ程戦闘向きじゃないだろうし、となるとあいつ一人でやったってことになるな」
「あんなナリで。恐ろしいな」
「一部からじゃ、その速さと姿からブラックスターと言われているらしいぞ」
「関わらない方が身のためだな」
「撤退ダナ」
「そういうことだ。ほらっ行くぞ」
男たちは、フィリアに肉を押し付けられて、食べさせられているクロノに気づかれない様に、静かに酒場を出て行くのであった。
☆
「はぁー食べたわー。最高のただ飯だったわ。」
「満足そうで良かったですよ」
食事を終えて、二人は宿に戻って来ていた。
結局何事もなく食事を終えられて安堵するクロノであった。
そして今は今日手に入れた魔石の原石についている岩を器用に砕いている。
地竜討伐はあまりしたくないと思っていたが、この魔石を手に入れられたのはこのクエストに行ったからだともクロノは思っていた。
フィリアはそんなクロノを眺めていたが、まだ体を清めていない事を思い出しベッドの上で昨日同様白い光に包まれる。
そして今日は念のため自分でも確認してから、
「クロノちゃん。ちょっとこっちに来てー!」
「はいはい。今行きますよ」
呼ばれて作業を止め、フィリアに近づき臭いを嗅ぐ。
今日も昨日と同じで酒の臭いはしない。
「特に問題ないよ」
そしてクロノは確認し終えると、すぐに作業に戻ってしまう。
フィリアはその後、黙々と作業をしているクロノを眺めていたが、少し飽きてしまったので、自分の今日買ったものでもあさってみたが、暇な気持ちが満たされることはなかったのでベッドに仰向けで寝て見たが、やはり気持ちが収まらないので、
「ねークロノちゃん。明日はまたクエストに行くのぉ?」
「明日は、初めはその予定だったけど、お金が集まったから家を探したいと思っているよ」
「クロノちゃん家を買うの⁉」
フィリアはガバッと体を起こしてクロノを方を見る。
「借りる家だけどね。買うには、まだまだお金が足りないよ」
「なーんだ。でも面白そうだから私も一緒に行っていい?」
「いいよ」
「明日は家選びかー。面白そうね」
クロノは楽しそうなフィリアを横目で見てからまた作業に戻ろうとしたら、急に眠気に襲われる。
そういえば、今日は一日中濃い内容だったが、それを忘れられるほど体が動かしており、当然と言えば、然の疲れがある。
「フィリア、今日はもう眠いから先に寝るね」
クロノはそう言うと。片づけをして床に丸まって本当に先に眠ってしまった。
余程疲れているのか、すぐに寝息を立てて眠ってしまっている。
それを確認したフィリアは、クロノの為に部屋を暗くして、月明りで照らされる部屋でフィリアはベッドの上でうずくまる。
今日のクエストは正直フィリアにとっても予想外であった。
からかうつもりで、選んだのにクロノは最後まで戦いきった。
結局、本当に一人であれ程、怖がっていた地竜を討伐したのである。
さらに耳を疑うほど驚いたのは報酬を二人で分けると言い出したことである。
私は何もしていないし、文句を言われても仕方がないのに、クロノちゃんは私に何も言わなかった。
むしろ、一緒に戦っていたというぐらいだ。
偶然、出会っただけなのに、クロノちゃんの事がこれ程気なるのか自分でも分からない。
困ったなぁ。
私はやるべきことがあるのにどうも、こっちも気になってしまう。
ベッドから降りてクロノちゃんが、寝ていることを再確認する。
くそっ。可愛い寝顔で寝ているなぁ。
思わず触れてしまいそうな寝顔だが何とか押し留めた。
フィリアはもう一度クロノが寝ているかを確認してから、身に着けているものを全て脱いで、裸になって現在の状態を確認する。
自分の体に刻まれた刻印はまだ残っている。
問題ない。まだ余裕がある。
確認を終えてフィリアは安心して、ベッドに体を倒した。
時間はあとどれだけ残されているか分からないけど、それまでに絶対に見つけ出してあげるから待っていてね。
秘めた思いを抱きながらフィリアもゆっくりと瞼を閉じてそのまま深い眠りにつくのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
引き続きブックマーク、評価、感想をお待ちしております!