模擬戦の中で試愛も開始
演習場にやって来た三人は、部屋で確認した内容通りの試験を行うことになった。
その内容はクロノとフィリアとの模擬戦を行うことである。
お互いに注意を怠らず行う予定だが、模擬戦の中でも何が起こるか分からない為、もしもの場合はセラが仲裁に入る事となっている。
更に今回の模擬戦では制限が追加されており、フィリアは氷の奇跡のみを使いクロノも出来るのであれば、氷の能力のみを使うというものである。
先に確認してみたところクロノも氷系能力は使えたので、あとは実戦でも使えるのかどうかを確認しながらしてみるだけである。
「さて、そうしたらお互いに準備はよろしいかしら」
「問題ないよ。いつでも始められる」
「私もいつでもいいわ」
「二人共準備完了ね。それでは模擬戦開始!」
セラの開始の合図に二人は同時に動いた。
「さてと、私はいつも通りやらせてもらうとしますか」
フィリアは無数の氷弾を生成し目の前にいるクロノに焦点を定め、距離が離れている間はこの生成した氷弾をクロノ目掛けて打ち込み続けクロノの様子を見る戦法を取った。
対してクロノは、怒涛の勢いで狙いをつけて飛来してくる氷弾を回避しながらフィリアと距離を詰め徐々に接近し、手に持つコクウを強く握りなおした。
フィリアは今のクロノが氷弾ぐらいで止まることが無いと確信していたので迷わず、突撃するクロノをじっと見つめて、その瞬間がきたと同時にフィリアは即座に腕に通しているリングを白剣へと変化させ、クロノを迎え撃つ態勢を整える。
構えた姿勢は常に迎撃が狙える非常に慣れた姿勢ではあったが、使徒という未知の力を持つクロノに対して、少しばかり脳がこれでいいのかと疑問を出し、その自身の答えに不安がよぎるのだが、フィリアはそれらをすぐに振り切り培ってきた自分の力に自信を持って構えを崩さず、手に力を更に強く込める。
いつもと違う興奮と恐怖による高揚感にフィリアは口角をピクリと動かしてその感情のままに吠える。
「いいわ! クロノちゃん! かかって来なさい!」
「行くぞ! フィリア!」
白剣とコクウは勢よく衝突し、その衝撃でフィリアは半歩下がったことに、今までにない感情が胸の内に宿ったがその感情を相手する時間などなく、ただ目の前にいる最も好きな男にどれだけやってやれるのかそれだけを測ってやるのだと自身を鼓舞した。
「はぁああああああああ‼」
「ふっ、はぁあああああ‼」
フィリアは力比べではクロノには敵わないことを理解しているつもりなので、自分の技術を信じて剣を振るい続ける。
一瞬の遅れが致命傷となり、お互いを敗北へと招くその一撃が戦況に優劣をつける剣戟はお互いに一歩も譲らない拮抗した白熱する試愛と変化していた。
二人は出会ってまだそれ程時間は経過しておらず、共に戦ったことも指で数えられるほどで、それでもお互いに興味を抱く二人はこの模擬戦で相手を倒すだけではなく、別の何かを確かめるような剣戟となってしまっており、荒々しい殺意のある斬り合いではないと遠くで眺めるセラにも伝わるほどであったためこのままでは、情報が手に入らないと感じセラは大声で、
「イチャイチャしていると、情報が手に入らないのでしっかりしてください!」
試愛を続けていた二人はセラの言葉に反応し、すぐに動いたのはフィリアであった。腕に最大まで力を込めクロノを弾き飛ばして、距離を稼ぐと追いつかれない様に先ほどよりもクロノに対し集中させて氷弾をばら撒きながら少しずつではあるがクロノから距離をとる。対してクロノも氷弾を生成して打ち込むがフィリアの慣れが戦況を有利にさせクロノは対処に手を焼いた。
その瞬間を逃さなかったフィリアは充分な距離を取り終えたと、確信すると、反転し更に氷弾の数を増やしクロノめがけて更に怒涛の連射を開始した。
「受けきれるかな。クロノちゃん♪」
「まだまだ。僕を止めるには足り無いよ」
クロノに目掛けて打ち込まれた無数の氷弾を、クロノは目を凝らし距離を測定し辿り着いた最善手でくぐり抜ける。
その予想以上の速さで接近して来るクロノに対してフィリアは焦ることなく、それでも冷静を保っていたのは、クロノの事を一番よく知るフィリアだからだったからかもしれない。だが、よく理解しているからこそ次の手もすぐに浮かび上がり、現在出来る全力で対処を開始する。
「次はこれどうかなっ!」
フィリアは片手を地面に当てると、その場所から氷壁を出現させ、二人の間にそびえ立たせるがクロノはそれでも変わらずフィリアに向かって更に歩を進める。
「フィリアもそう来るなら僕も全力で迎え撃つよ」
クロノは氷弾を弾き終えたそのままの態勢で氷壁に向かい手にいつも以上に力を込める。ギアを上げたその力に絶対の自信を持って突撃を開始し、氷壁に衝突する寸前に更にギアを上げ、クロノはコクウの切っ先に力を込め氷壁に突き刺すとその場所から打ち砕くようにして氷壁をぶち抜くと、ガラガラと音を立てて崩れ落ちる氷壁を背にしながらクロノは本来いるはずのフィリアを視認しようとしたが出来ず、どこに行ったと周辺を見た瞬間に、氷弾ががんっと背中に打ち込まれ背中を擦りながら、後ろを振り向くと目の前にはしってやったりと、フィリアが人差し指を天井に向けて表情を緩め無邪気に喜びを露わにしていた。
「あ、くそ。でも次は僕が――――――」
「はい。これで模擬戦終了―。二人共戦闘状態を解除してくださーい」
ちょうど、戦闘が一区切りついたとしてセラは二人の間に入って手をパンパンと叩きながら終了を告げるのであった。
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