戦闘開始!……あれ?
草原の坂を上り、勢いそのままでその剛腕を振り上げ地竜は二人に襲い掛かる。
だがその一撃をクロノは上手く回避し、体勢を整える余裕すらあった。
そのまま攻勢に出ようとしたクロノであったが体勢が整っているのは、地竜も同じであった。
地竜はすぐに二撃目を狙うが、今度の攻撃は勢いが先ほどよりもない為、これもクロノは回避する。三撃目はさすがの地竜も息が上がり、それに合わせて動きが止まったのを逃さず、クロノは地竜の後肢を狙い切りかかった。
そしてクロノの短剣による、斬撃は動きを止めていた地竜の後肢を切り裂いた。
「ギャアアアアアアアアア‼」
切り裂かれた痛みに叫び暴れる地竜。
すぐに、クロノはその場を離れて次の好機を狙う。
クロノはまだ体も動くし、息も上がっていない。さらにもう一撃狙おうとするが、地竜は尻尾を振り回しているので簡単には近づけない。
そしてそのうねる尻尾は、草原をえぐるほどの威力である。
クロノは焦らずに地竜のすべてを視野に入れて対峙した。
地竜は後肢から血を流しながら、クロノを睨みつけ、まるでここに僕しかいないかと思える程、その視線はクロノから外さないのであった。
地竜も息を荒げながら、体勢を整えている。
今か。いや、まだか。
クロノもどこで攻めるかタイミングを見極める。
一人と一体はお互いに相手の出方を見ている。
そして先に動いたのはクロノであった。
地竜の息が整えば、間違いなく劣勢になるのはクロノである。
地竜を翻弄しながら間合いを詰めて、相手が動くのを誘いだす。
大きな動きや動作から、隙があると思えばすぐに攻める。
少しでも危険があると思えば後退する。
この繰り返しによりクロノの攻撃は少しずつだが、確実に地竜の活動能力を奪っていった。
しかしその戦い方は地竜にとって小賢しいものでフラストレーションが溜まる一方である。
そして、ついに激昂した地竜は暴れ狂う。
その大きな体を最大限に動かしまわり、周辺を破壊していく。
クロノはそれでも焦らず、見極めて回避する。
だが、さすがに、攻撃の威力と速さが今までよりも違うので、クロノの息も徐々に上がる。
そして収まらない地竜の怒りが終わるのを待っているのだが、未だに収まる気配がない。
その時だった。地竜の尻尾で破壊した岩の破片が巻き上げられ降り注ぐ。
予想していない落石は、クロノの判断をさらに難しくする。
回避するにも、下手に動けば地竜の餌食になる。
そしてクロノがとった選択は落石を耐えながらでも、地竜の動きを待つであった。
「ぐっ……くそっ!」
痛む体に耐えていると、地竜の動きが少しずつ鈍くなる。
その瞬間をクロノは逃さず攻めに出ようとしたが、それを察知した地竜は尻尾で砂を巻き上げた。
視界が、砂煙で見えにくくなるのと、同時に反射で顔を手で覆ってしまい、一瞬地竜を見失ってしまう。
そしてその一瞬を見逃さなかった地竜は、残った力でクロノに襲いかかる。
大きな前肢である剛腕を振り上げ、クロノめがけて振り下ろす。
クロノは、その攻撃に打つ手なしとなり、動きを止めてしまう。
一瞬、村のみんなの事を思い出した。
そして、死を覚悟した。
しかし、その剛腕は、クロノを切り裂くことはなかった。
急に視界が、揺れたクロノはいつの間にかフィリアに抱えられていた。
「大丈夫? クロノちゃん?」
「フィ、フィリア……助かったよ」
フィリアに降ろしてもらい地竜を見る。
地竜も残り少ない体力を振り絞ったのか、息を乱して苦しそうにしている。
「クロノちゃん。私が援護するからあいつ倒しちゃおう」
「わかった! 援護お願い!」
フィリアは、地竜に石を投げ地竜の注意を自分に向ける。
「こっちよ!」
地竜は鈍いながらも体をフィリアの方へ向ける。
その隙にクロノは能力向上魔法を詠唱し、全てを出し切り地竜に向かう。
地竜が僕から油断しているうちに頭に飛び乗り、角にしがみ付き、そして短剣を強く握り締め頭部に何度も突き刺す。
「ああああああああああああッッ‼」
叫びながら一心不乱に短剣を頭に何度も突き刺す。
地竜も断末魔を叫びながら抵抗しクロノを振り落とそうとするが先にとどめの一撃が、地竜の動きを完全に停止させる。
そして息絶えた地竜が倒れると、同時に力が抜けたクロノはその衝撃で頭部から落ち、
「いててって、うわっ!」
目の前には地竜の顔があり、驚いて後ろに下がった時に、つまずいて体を倒して空を見ると、そこにフィリアがひょこっと顔を覗かせ、クロノの隣に座るのであった。
「頑張ったね。クロノちゃん」
「ははっ、なんとか死なないで済んだよ」
まさか本当に、地竜を倒せるとは思っていなかった。
そしてさっきまで入っていた力は、ほとんど抜けてしまっている。
「クロノちゃんは疲れただろうから、そのまま寝ていてね」
「うん。わかったよ」
フィリアは、討伐を報告するためのタグを地竜に着ける。
このタグには、発信機のようなものが付いており、後でギルドの職員が回収にやってくるのだ
そしてタグをつけ終えたのでこれで、確認が済めば同時にクエスト完了となる。
クロノは今回のクエストは多少の傷は負ったが、最低限の傷と思えるほどであった。
「クロノちゃん。怪我とかしてない?」
「少しだけかな。でも少しだけでほとんどないよ」
「見せてみなさい」
「えっいいよ。本当にあんまりないから」
「いいから見せろって、言っているの!」
このままだと、何をされるか分からないから服を脱いで傷の場所を見せる。
主に擦り傷と打撲、上半身から腕にかけてその傷はある。
「ちゃんとダメージ負っているじゃない」
「でも、それほど痛くないので平気かと」
「しっかり治すときは治しておくの!」
そう言ってフィリアは力を込めると少しずつ体が温かくなる。
そして少しかゆい。
「あのフィリア……」
「もう少し我慢していなさい」
そして治療が終わり、フィリアにゆっくり立ってみるように言われ、立ってみると。
「おお、凄い。体が軽い」
「それなら良かったわ。さてクエストも終わったし、帰るとしましょうか」
「あっ、ちょっと待って」
クロノは、一人で草原に散らばった石を手に取って確認している。
そして、その中の一つを手に取って戻って来る。
「フィリアこれ見てよ! 地竜があの大きな岩を砕いてくれたおかげで、取り出せていたよ」
クロノは嬉しそうに、フィリアに伝える。
あれだけ怖がっていた地竜を倒したというのに、これだけ嬉しそうにしている。
他にも思い当たる点はいくつかフィリアの中にはあるがそれらを一切クロノは言わない。それならば、もう少しだけいいのかなとフィリアは思ってしまう。そして一旦それらは心にしまって、
「クロノちゃん。帰ろっ!」
「うん。帰ろう!」
手を取り合って、二人はワープポイントへ戻って行った。
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