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フィリアの策その一


 静まり返った部屋でクロノの隣に寄りそうに体を横に倒してしたセラは今ではクロノを撫でていたその手を止めて夢の世界に入ってしまっていた。

 

 二人共すぅすぅと寝息を立てて気持ちよく寝ていると、セラは、自身の身体に触れる何かによって夢の世界から戻りつつあったのだが、まだ重い瞼を開けられる程ではない為そのままにしておいた。

 

 この部屋には現在クロノとセラしかいない。その為、この状況でセラの身体に触れられるのはクロノしか考えられない。

 

 クロノは相当疲れていた様子であったことともあり、セラとしてもなるべく休めるうちに休んでいて欲しいので多少体を触れられても気にはしなかった為、そのままにしておいたが、離れていってしまったのか、セラの身体には触れられるような感触は一切無くなってしまった。

 

 その事にセラは少しだけ残念な気持ちとなったが、それはそれで仕方がない。それにさっきのだって事故のようなものだし、なんならここで寝てしまっているセラも悪いのだ。

 

 ここから離れるのは少しだけもったいない気もしたが、これ以上は良くないと思ったセラは体を起こそうとすると、体が動かせない。

 

 金縛りのような状態にセラは焦って勢いよく先ほどまで重たかった瞼を開けると、目の前にはせっせと何かをするフィリアがいた。


 「あら、セラが起きちゃった。まぁいいか。もう作業は終わったし」

 

 フィリアがいつの間にか部屋の中へと来てしまっていることに、セラは戸惑いを隠せなかった。


 「フィ、フィリア⁉ もう検査は終わったの?」


 「ええ、とっくに。それでクロノちゃんとお茶でも飲もうと部屋を探してようやく見つけたと思ったらクロノちゃんの背中にくっ付いているセラを見つけちゃったから、驚いたわ」

 

 フィリアの口調はいつも変わらず、一見穏やかな風にも感じられるのだがセラにとってはむしろこのことが不気味過ぎた。

 

 セラは身体をもう一度動かそうとしたがやはり動かない。それに、感覚も薄っすらとした感じしかなく、まるで身体中が麻痺したような状態である。


 その状態で身体に少し寒さを感じるということにセラは嫌な予感がすると、シスター服どころか下着すら剥がされて生まれた時と同じ姿にされてベッド上に寝かされていた。


 「フィリア! ちょっとこれはどういう事よ‼」


 「どうもこうも、まだ素っ裸にしただけよ」

 

 フィリアはやれやれといった感じにセラに対して言い放つと更に、


 「そんなに大きな声を出すとクロノちゃんが起きちゃうわよ」

 

 セラはその言葉に反応しすぐに口を紡ぎ、ひそひそとフィリアにだけ聞こえるような声で戸惑いと怒りを含めながら問いかける。


 「フィリアこれはどういうことよ。説明しなさい」


 「だって、部屋に入ったらセラがクロノちゃんのことを寝取っているのよ。さすがに仲がいいセラだとしてもこれはないと思ったから、罰を与えることにしたのよ」


 「それで………セラをぜ、全裸にして満足したわけ?」


 「いえ、まだよ。仕上げは残っているわ」

 

 フィリアは座っていた椅子から何かを持って立ち上がると、セラの股間の辺りにじょぼじょぼと何かを撒いた。

 

 その液体がセラの身体にも触れると、明らかに嫌そうな表情をしてフィリアを問い詰める。


 「ちょっと! フィリア何をしてくれているのよ!」


 「何ってお茶を撒いているだけよ」 

 

 フィリアが撒いたのは先ほどまで飲んでいたお茶の残りである。撒き終えてもまだ中身が入った容器を机に置くと、


 「さて、これで準備は完璧だわ。後はクロノちゃんを起こすだけね」


 「まさか………フィリア本当にそんなことをするつもりなの⁉」


 「ええ、もちろん」


 「やめなさいよ! というお願いしますからかやめてください! もしクロノ様がこの状況で今のセラを見たら変態としか思わないわ!」


 「それでいいのよ。それで。私だって全裸で寝小便をしたセラと仲良くするのは抵抗があるけど、仕方ないからそのままでいてあげるわよ」


 「いっそのこと、今からでも許してくれませんか⁉」


 「それはダメよ。クロノちゃんにセラは変態女だったという設定を覚えさせて、近づきにくくしておかないと、またこうなったら私も嫌だし」


 「終わった………完全に終わったわ………女としても終わったし、これからの生活も死んだのも同然よ」


 「安心して、私はずっとセラの基本味方だから」

 

 味方のはずであるフィリアにセラは社会的に処刑されようとしていることに反論しようとしたのだが、とにかく今は状況の打破をいち早く見つけなければならない。


 「さーてと、クロノちゃんを起こすとしますか」

 

 フィリアの行動にセラはいよいよ追い詰められた。このままだと全裸で小便を漏らす変態女として認知されてしまう。それだけは絶対に嫌だ‼

 

 追い詰められたセラは右目に宿す刻印を輝かせて、これはセラの今後を左右する戦争なのだと、自分に何度も言い聞かせ全身全霊で状況の打破に全てを注いだ。


 「あれ、フィリアだ。もう検査は終わったの?」


 「うん。終わったよ」 

 

 フィリアはニコニコの満面の笑みでクロノに寄り添うように話しかける。

 

 クロノはそのフィリアの表情を見て検査が無事に終わったのだと思いながら、近くにいるはずのセラを探したがどこにも見当たらず、ベットの端にある丸い湿った場所に気がつき、手を当て確認すると、


 「あれ、フィリアお茶こぼしたの?」


 「え、まぁ、実はそうなのよ」


 「ダメじゃないか。すぐに外して洗濯しないと。ほらっフィリアも手伝って」


 「あ、うん。ごめんなさい」

 

 フィリアはバツが悪そうにクロノの手伝いしているのだが、肝心のセラが消えていることに疑問を抱いていた。


 (セラったらどこに行ったのかしら)



 「危なかった………あともう少し遅れていたら死んでいたわ」

 

 セラはフィリアとわざと話を長くして時間を稼ぎ、自身の加護を全力で発動して、危機を脱したのだ。

 

 今は、毛布を体に巻いて廊下に出ているのでまだ安心は出来ないが、とりあえず危機を脱したことに安堵している。


 「フィリア~。覚えていなさいよ~!」

 

 セラはその今回の借りは必ず返すと心に誓ってから、急いで着替えを出来る場所を探すのであった。


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