嫌なものは嫌なの
セラがクロノに学園内を案内している間、フィリアは検査室にて大人しく検査を受けており、今は検査室の天井を眺めながら安静にしている。
「フィリアさん、何かあったら右側に置いてある呼び鈴を鳴らして下さい。鳴らしたらすぐに私達が駆けつけるので」
「ええ、分かったわ」
「それでは、そのまま安静にしていてくださいね」
検査室までフィリアを連れて来たシスター達は、検査着に着替えたフィリアを置いて部屋から退出し部屋にはフィリア一人となる。
検査機の音がよく聞こえる程静かな部屋は、フィリアにとってもどかしい環境であったが、ここで検査を終えておかないとまた再検査となり単純に面倒である。
セラには見事にやられてしまったが、これは防ぎようがないと結論づけ、せっかくクロノちゃんに学園内を案内出来ると思っていたが、これも残念だったと割り切った。
フィリアは、ふぅと小さく息を吐き軽く不満を露わにして、ここに来るまでの出来事を思い出していた。
今回の検査は聞いた話によるとこの体に貼られた薄い吸盤によるものだけのようで、時間は要するが痛みを伴うような検査は一切ないと検査担当のシスターから笑顔で伝えられた。
その言葉により、勝手に想像していた検査に怯えていた私は一気に気持ちが楽になった。
セラのあの雰囲気から、勝手に辛い検査があるのかと思ったが、どうやら思い過ごしのようだった。というかそれなら、セラから説明してくれればクロノちゃんの前であんな恥ずかしい姿を見せなくて済んだのに。
…………というか、そうなるとセラがやったのってただの嫌がらせではないのか。
普通に、寝ているだけだから~、全然辛くないから~とか言ってくれれば身構えることもなかったのに。
おかげで検査をするシスターに「注射は無いのですよね?」とか、「苦い薬とか飲まないですよね?」など、自分でも驚くぐらい丁寧に質問したものだ。その質問に対して優しくシスターから、「フィリアさん。今回は寝てもらって検査するだけだから安心してね」と言われた時は、本当に安心したけど、同時に恥ずかしくてそのシスターの事を見られなくなってしまったのはここだけの話である。
べっ、別に痛いのとか苦いのが嫌だったんじゃないからね! 本当に本当だからっ!
……………今の、なんだったのだろう。自分が自分じゃないようだ。
私は一度頭の中を空っぽにすると、とあることが思い浮かんだ。
そういえば、セラはやたらとクロノちゃんに話かけていたし、セラも興味のないものに対して興味があるように演技が出来る訳ではない。
別にクロノちゃんが使徒になったからといって、そんなにセラが喜ぶ理由があるのか。確かに戦力が増えたと思えば喜べるかもしれないが、あそこまでなるのかは疑問であるし、珍しく男がこの学園にいるからとしても別に教会に行けば男に会えるし、セドナ王国にも男はいる。
あれ? そうなるとこれはもしかして、もしかするかもしれない。
急に胸の奥の方でモヤモヤが広がっていく。
今日は学園内に人はそれ程いない。それはクロノちゃんが行動するのには適しているが、邪魔が入りにくいとも言い換えることも出来る。
そうなるとしたら、この状況はセラにとって追い風となり予定を滞りなく実行出来るはずだ。
セラがクロノちゃんに好意を抱いている?
いや、それは考えにくいだろう。というか考えたくもない。
それにそうであれば私が困る。クロノちゃんは私が見つけたのだから。
セラは昔から付き合いもあるから普通の人よりも仲良くしているし、間違いなく友達補欠には充分該当している。だから面倒事はやめてほしい。
そうこうしていると、検査機の終了の合図が鳴ると担当のシスターがやって来てフィリアに貼られていた吸盤を取り外す。
体に薄っすらと跡が残ってしまっており、それに気づいたシスターは謝ってきたが、フィリアはこの跡がいずれは消えるだろうと思っていたのでそれほど気にはしていなかった。
それよりも気になることがあったので、フィリアは検査室を出るといつもよりも早い足取りでクロノがいる部屋を探し始めるのであった。
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