そんなの嫉妬してしまうじゃないか
「セラさん。味はどうだったかな?」
「はい! とっても美味しかったですっ!」
「で? セラは何し来たのよ?」
フィリアはセラをじろっと見つめながら机に頬杖をついて不服そうに問いかける。
「そう慌てないでよ。セラはクロノ様が淹れて下さったお茶を味わっている途中なの。だから飲み終わるまで待っていて」
「セラぁ~、私にも我慢の限界があるからね」
フィリアはセラの態度に突っかかりそうになるが、クロノが「まぁまぁ」となだめると大人しくセラがお茶を飲み干すまで待っていた。
「さて、聞いた話によるとフィリアもクロノ様も大変だったようね。来る前に、ここの教会に寄って来たけど、メイオールも現状再起の目処は経っていないし、イフルやアーロンの回復や、影響を受けた者たちの数も相当なものね」
セラの神妙な表情で語る姿を見て、ヴェドが残した傷の大きさを二人は改めて感じていた。
「でも、なんとかあの教会は機能しているのよね」
「一応ね。イフルって子が上手くやってくれているおかげでこちらも余計な人員を用意しなくて済むから助かるわ」
「イフルってあの子か…………」
クロノとイフルは一度戦っているのだが、《凶》となったイフルしか知らないクロノは、イフルに対してそれ程いい印象を持っていないので思わず苦笑いをしてしまった。
クロノは気分を変える為にお茶を飲もうとしたが、すでに容器の中は空になっていたので、もう一度お茶を沸かしに調理場に向かったのを見届けた二人は顔を合わせてひそひそと話を続ける。
「で? なんでセラはここに来たのよ」
「それはクロノ様をお迎えしに来たのよ」
「はぁ? お迎えってどういうことよ」
フィリアは腕を組んで背もたれに背中を預け、その大きな目を細くしてセラをじろっと見る。
「言葉の通りよ。セラはその案内役として派遣されたのよ」
フィリアは顎に手を当てて考える仕草をとり、今回セラをこの場所に派遣した奴は、大方予想がついていた。また、セラを派遣したこと自体が絶妙な判断だと、セラの事を良く知るフィリアも納得せざるを終えなかった。
「でも私達が拒否するとかそういう予測はしていなかったの?」
「そんなことは予測済みよ。それに逃げようとするならば、全力でクロノ様だけは連れて来るように言われているから、正直無駄なことよ」
「…………連れて来いって言ったのは誰よ?」
「どうせ、フィリアなら見当ついているでしょ。まぁ指示を出したのは、ババアだけど元となるは、リフィア様のお告げによるものよ」
「リフィアから?」
「お告げはクロノ様についてほとんどだったけど、クロノ様はこれから私達の主軸となるから、クロノ様も私達も色々と慣れておかないといけないっていう話になっているのよ」
「それで慣れるって具体的に言うとどんな内容なの?」
「まぁ、具体的には分からないけど、とりあえずセラ達と同じ環境とか共通認識とかその他にもいろいろとあるんじゃないかしら」
「ちなみにセラ。クロノちゃんは私が見つけたのよ。そこのところは分かっているのでしょうね」
「それは関係ないわ。クロノ様はリフィア様の力を持った唯一無二の使徒よ。セラもフィリアの気持ちは分かってあげたいけど、私情は挟めそうにないわ」
「なによ、それ。私からクロノちゃんを奪うなんて絶対にさせないんだから」
フィリアは口を尖らせて、文句を口に出していたがセラは気にする事なく話を続ける。
「でも、間違いなくクロノ様が信用しているシスターはフィリアだと思うから、そこは安心していいんじゃない?」
「それは、もちろんよ!」
フィリアは、頬を紅潮させながら胸を張って自慢するように言い切ったのを、セラは物珍しそうに眺めていた。
「本当にフィリアは変わったわね」
「え? 私何か変わった?」
「間違いないと言い切れる程変わったわよ。そうねぇ、セラが見たところだと前よりも楽しそうに見えるわ」
「そうかしら、でもまだまだ足りないわ。私はもっとクロノちゃんとは一緒にいたいから」
「いいなぁ、羨ましい」
セラはフィリアが、はにかみながら赤くなっていた顔を更に紅潮させた乙女らしさ全開のその姿に同じ女として少しばかの嫉妬を含みながら呟くのであった。
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