気になる買われた物たち
その後も何かと目移りするフィリアに振り回され続けるクロノであったが、クロノも田舎から出て来ている為、フィリアが向かう場所に多少の趣味の違いはあるけども、基本一緒にいて退屈な気分にはならなかった。
不満があるとしたらその途中にクロノが入りたい店があったとしても、フィリアの要望によりかき消され、次へと進んでしまうのでそれだけが唯一の不満だろう。
現在もフィリアは買い物を順調に楽しんでいるのだが、同時に少しずつ手荷物が増えており、フィリアも買った物を持っているが、それよりもクロノの手荷物が増え続けている。
「ねークロノちゃん。次はあっちのお店行かない?」
「まだ行く? それに今度はどんなお店なの……」
さすがにもうこれ以上は、いいのではと思いながら、フィリアが指を向けた方へ目を向けると、そこには目がチカチカするほどの装飾がされ、男には間違いなく無縁のランジェリーショップがあった。
「いや、フィリア。さすがにあのお店はちょっと抵抗が……」
「えー。平気でしょ。あ、そっか。クロノちゃんは男だったか……。でも気にしないで行きましょうか」
「え、ちょっとさすがに」
「いいから、いいから。何事も勉強よ」
「そんな勉強は――――」
クロノの抵抗も空しくフィリアに引っ張られて結局一緒に入店する。
店の中に入ると外よりも明るい店内と、慣れない甘い香り、見渡す限りの魅惑の女性の必需品が綺麗に並べられており、その見慣れない光景に少しクラつきながらもなんとか冷静を保つが、目に入るのは見慣れない物ばかりで結局くらくらする。
強いて見られるとしたら床ぐらいだが、床もしっかりと磨かれているので、反射して僅かに見えてしまう。
ずっと顔を真っ赤にして、一刻も早く店から出たいと思うクロノであったが、なぜかフィリアはこの店の滞在時間が長かった。
フィリアが商品を吟味している間も、クロノは周りが気になってしまうが、きょろきょろとすることも恥ずかしくて出来ないのでいっそのこと消えていなくなってしまいたかったが、フィリアはお構いなく相談をしてくる。
「クロノちゃん。これどうかしら?」
「似合うと思いますよ!」
フィリアは下着を見せて着てくるごとにクロノは狼狽するか、適当な返事をするのが精一杯だった。一応フィリアは軽い相談のつもりだが、クロノはそれどころじゃない。
「赤いのがいいけど、黒もいいわねー。さすが都市、いいものが揃っているわね」
フィリアはカシャカシャと下着を選び続けており、最後に提案された布地の少ない黒の下着を見て、その下着を着けたフィリアをクロノは想像してしまい、耐え切れずにフィリアに外にいるからと伝えて先に店から出てしまうと、少ししてからあれ程悩んでいたフィリアが、袋を手に持って出て来たことに驚きつつ、その表情が目に入るといつも以上に満足しているように見えた。
「クロノちゃんお待たせ。それじゃ買い物も済んだし、次に行くとしますか」
「次はどこに行きますか?」
「この都市の教会に行くわよ」
歩くこと数十分、その間フィリアは先ほどまでの興味心が嘘の様に歩き続け目的地の教会に辿り着いた。
「じゃあ、クロノちゃんはここで待っていてね。あと、荷物よろしく」
「わかったよ」
「すぐに戻って来るからねー」
フィリアは手を振りながら、教会の中に入っていく。
残されたクロノは近くの噴水に腰かけられそうな場所を見つけ座った。
フィリアと一緒にずっと歩き続けていたので、疲れた体にはちょうどいい休憩となる。
それからというもののフィリアは戻って来ない。
「すぐに戻って来るって言っていたけど、なかなか戻って来ないな」
自由気ままなフィリアだから、僕の事なんて何かに夢中になって忘れているかもしれないと思っていると、あまりにも暇になってしまったので、ぬいぐるみの手の部分をにぎにぎしながら遊んでいると、置かれている買い物袋が気になってしまう。
今日の買い物はいろんなお店でしており、クロノが商品を見ている間にもフィリアはどんどん買い物をしていたのだ。
一体何を買ったのだろうと、気になるのだが人の物を勝手に見るのはもちろん良くない。だが、この時のクロノは暇になりすぎて、気持ちが緩んでしまったのか、ちょっとの出来心でその中身が気になり見てみようと思ってしまった。
紙袋も上が折られているだけなので、元に戻すのも簡単だろう。
「いろいろ買っていたからなー。て、これは⁉」
一発目、開けた袋にはさっきのランジェリーショップで買った下着が入っていた。
しかも最後に見たあの刺激の強いあの下着だ。まさか本当に買ったとは。
それよりもまずい。この姿を見られたらフィリアになんて言われるか予想も出来ないのでとにかく急いで袋を戻して、クロノはすぐに周辺を見渡して誰もいないことを確認して一息つく。ふー。良かった。
「クロノちゃん、お待たせ―!」
落ち着いた瞬間に急にフィリアが戻って来て勢いあまって口から心臓が飛び出しそうになる。
「お、遅かったね……」
「用事が済ませられるか微妙だったけど、結局ダメそうだったから戻ってきちゃった」
「そっか、それは残念だね」
「まあね。でもまた来ればいいから今日は帰りましょう」
フィリアはクロノにお礼を言って自分の荷物を持ち、クロノも残りの荷物を持って立ち上がろうとすると、
「……クロノちゃん。何か言うことはないの?」
「……何かとは?」
「本当にないの?」
思い当たる点がありまくりのクロノは焦り始める。
確かに綺麗に戻したはずだし、見られてないはずだ。
だがこの圧はなんだ。まるで見ていたかのように、フィリアは言ってくるじゃあないか。
「ないの? あるの? どっち?」
フィリアの問いが少しずつ恐怖に感じ、その恐怖にクロノは耐え切れなくなり、
「ごめんなさい。買った下着を見てしまいました!」
九十度に体を倒して全力で謝る。
本当に出来心で二度としないと言おうとしたが、
「なんだ、そんなこと。気にしなくていいわよ」
「えっいいの?」
自分の過ちを白状したクロノだったが、予想外のフィリアの返事に思わず驚いてしまった。
「だって、クロノちゃんとはこれから同じ宿で暮らすし、下着くらい見られるのは当然ことだし」
「えっ、あ、はい」
「それにどうだったかしら、私が買った下着? 似合いそう?」
「……とても。似合いそうです」
この時僕は嘘をついた。本当はあの下着は似合う以前に刺激が強いというのが本音だ。
「なら良かった! さてお腹も空いたし、荷物も重たいし早く宿に戻りましょう」
正直、何をされるか分からない恐怖から解放されたクロノは軽い放心状態になっていたが、すぐに状態を戻してフィリアを追うようにクロノはついて行く。
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