その核を穿て‼
「はっははははは…………、ないわ。ありえねぇよ。この俺が追い詰められているなど、ありえ……ない」
ヴェドは渇いた笑いを続けた。
ようやく復活して、優位に立ち、大好きな人間遊びをして楽しんでいただけなのに、なんだよ、これ。俺のお楽しみを邪魔スル奴が、イルナンテ。
「ヴアアアアァアアアアアアアアアアアアアッッッ‼ 殺ス‼ 殺ス‼ 全てを消し去ってやる‼」
ヴェドは、地に伏しているゴブリンの死骸から、黒い虫のようなものを呼び起こし、飛び立った虫たちは吸い込まれるように、ヴェドの口へと入っていく。
一匹残らず全ての虫を食いつくすと、ヴェドの身体に体が、膨張するように肥大していき、その大きさは元の身体から数倍程の大きさになっており、すでに巻かれているベルトのようなものがその身体に食い込んでいた。
「これが俺の真の姿だ。そして、おまえを潰し、破壊してやる」
クロノは、そのヴェドの姿を目の当たりにしても、一切動揺することはなく、たった一言、「でかいな」と口にするだけであった。
「お前を殺ス‼ 今の俺はそれだけで充分な理由なんだよ‼」
ヴェドの剛腕はクロノ目掛けて打ち込まれるが、クロノは直撃する寸前で回避し、距離を取り足に力を込め、長剣となったコクウを構えて、ヴェドに斬撃を繰り出すが、ヴェドの腕の防御により、腕を切りつけることは出来たが、クロノの狙いの場所にはその斬撃は届かなかった。
「ハハハハハハッッ! どうした! 俺様にそんな攻撃など効かぬ!」
ヴェドは、クロノの剣を振り払って、腕から離すとすぐに剛腕を振り上げ、勢いよくクロノ目掛けてその拳を振り下ろされた一撃を、クロノはコクウで受け止めた。
「くっ!」
「どうだ! 諦めろ! これが、俺様の力なんだよ! テメェが俺様にした事全てを後悔させてやる‼」
クロノはコクウを使って滑らせるようにして、体を逸らすと同時にヴェドを狙って斬りつけながら回避を続けたが、ヴェドもそのクロノを追うようにして、攻撃を繰り出していた。
ヴェドの身体は切りつけても霧散し、その個所はすぐに修復する。だが、クロノは、それでも攻撃を替えながら、ヴェドに対して果敢に攻め続けた。
「おい、いい加減諦めたらどうだ。もう理解しただろう。俺は倒せない、傷をつけることすら出来ていない。仮に出来たしてもすぐに修復するんだ。お前の行動は無意味なんだ。もう一度言うが諦めろ」
ヴェドはクロノに警告したが、クロノはそれでも、ヴェドに再度斬りかかり、ヴェドはその攻撃をその剛腕で防いだ。その攻撃は既に百は超えており、遠くでその戦いを祈るように見ていたフィリアも、どうすればヴェドに勝てるか考えてしまう程であった。
クロノの攻撃は、悪あがきかそれとも無謀を承知で挑んでいるのかともとれるものであったが、ひたすら攻撃を続けているクロノは、確信を持ち続けてヴェドに挑んでいたのだ。
その攻撃を勝利へと導かせるために、クロノは後ろに後退するようにして一瞬だけフィリアの傍により、フィリアに一言だけ声をかけると、フィリアは少し驚いた表情でその言葉を聞き取ったが、すぐに頷いて了承した。
「おいおい、ここに来て力を借りるつもりか? それだとしても無意味だぞ」
クロノはそのヴェドの嫌味を全く気にすることなく、額に流れた汗を腕で拭いヴェドを見る。
「確かにおまえとの戦いは拮抗しているけど、僕はおまえに攻撃は与えられているから、一応、僕の方が優勢だと思うけどな」
「ほとんど、何も出来ていない奴が偉そうなことを言うんじゃねぇよォッ‼」
ヴェドは、クロノを狙い続け殴りかかるが、クロノはその攻撃を的確に捌き、その流れから狙い済ました様に、ヴェドのある部分を今までのどの攻撃よりも早く打ち込もうとしたが、その狙いを本能で察知したヴェドは、跳躍してクロノから距離を取り、その姿を見たクロノは、その行動により確信した。
また、その自信に満ち溢れたクロノの表情を見たヴェドは、心の底から気にいらない為、吠える様にクロノを挑発した。
「なんだよ、テメェその顔は! まだ何変わってねぇ―――――――」
クロノは、ヴェドの言葉を遮り静かに宣告する。
「さっきから、うるさいんだよ。これで準備は整った―――――――懺悔の言葉は用意したか‼ ヴェド‼」
「ウッルセッェェェェエエエエのはぁあああああ、テメェェエエエエエダァァアアアアアッッ‼」
ヴェドはクロノを打ちのめしに両腕に大きく開き、その腕に最大まで力を注ぎ続け力を込め終えると、クロノのみを一点に定めて狙いをつけた。
また、そのヴェドの姿に呼応するように、クロノも、膝を少し曲げて足を開き、コクウの柄に指を一本ずつ当てるように握り締め、漆黒の輝きを放つコクウの切っ先をヴェドに向けて構えると、その空間は一瞬の静寂となり、
「ヴェドォオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼」
「死ニさらセェェェェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエ‼」
クロノとヴェドはほぼ同時に動き出し、お互いに全身全霊で臨んだ最後の必殺技を繰りだしていた。
ヴェドはその剛腕から考えることも出来ないほどの速さの連撃をクロノのみを狙い、重低音と共に怒涛の勢いで駆け出したのに対して、クロノはその場に留まり、その凄まじい勢いで近づいて来るヴェドを待ち続けた。そして、ヴェドの拳がクロノを捉えようとしたその時だった。クロノは、全力の一振りを繰り出しヴェドを両断した。
「ガッアアアアア……」
ヴェドは、上下に両断されたことにより態勢を崩し、その体を地に叩きつけ転げまわり、すぐに態勢を立て直そうとした時、その一つ目に映ったのは、ヴェドが苦しめた者達の怒りを全て受け取ったクロノが凄まじい剣幕で、ヴェドにトドメを刺そうと、そのわずかな距離まで近づき、その姿を見たヴェドは、思わずその言葉を発していた。
「やめろ…………、やめてくれぇぇぇええええええッッ‼ 俺は、まだ消えたくない!」
しかし、クロノはその言葉に一切耳を傾けず、再度剣を構え、
「お前がみんなに与えた苦しみは、許せるものではないッ‼」
その構えからクロノは、コクウを握りしめ一撃、更に一撃と、重ねるようにヴェドの、ただ一点だけを狙ってコクウを打ち込み続けた。
「やめろ! やめろって言っているだろう‼ 分かった! もう俺様は何もしねぇ! 本当だ! 信じてくれ‼」
ヴェドの懇願にもクロノは一切、耳を傾けずひたすらにその、ヴェドの身体を裂き続け、その目的である紅の色をしたヴェドの核をその目に映した。
クロノはすぐにその核を打ち砕く為にコクウを握りしめ、核めがけてその切っ先を突き立てようとした時だった。
「やめろって言っているのがぁぁぁあああああ、聞こえねねねえぇぇぇのかアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」
ヴェドは最後の力を振り絞り、クロノの持つコクウをその手で握りしめると、更に首を伸ばしクロノの首を噛みちぎってやろうと動いた時だった。
「クロノちゃん‼ 受けとって!」
フィリアが投げたのは自身の持つ白剣が込められたリングであった。そして投げられたリングが空いたもう一つのクロノの手に収まると、その想いに応えるように純白のリングは、形状を変化させ白剣へと変化する。
「やめっ―――――――」
クロノは、一瞬もためらうことなく、その目前にある紅のヴェドの核に向けて、フィリアから受け取った白剣突き刺し、ガギッと、鈍い音と共に砕け散った核と共にヴェドの身体は、白い粒子状になり、消え去るのであった。
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