因縁を、過去を超えてクロノよ。前に進め‼
クロノは、教会の中に入り、息を荒げ、声を張り上げフィリアの名を呼び続けた。
「どこだ、フィリア! 返事をしてくれ!」
教会内は一人もおらず、不気味な空気が漂っている中でも、クロノはひたすらフィリア探し続け、最後にたどり着いたのは、自分でも覚えているあの部屋であった。
あの日、この扉の向こうで、僕は全てを失った。
ズタズタに引き裂かれた心の痛みは、まだ癒えてはいない。
そして、僕は全てを取り返すためにここに来た。
力強く扉を押し開け、クロノの目の前に立ちはだかる男の名前を呼ぶ。
「アーロンさん! 決着を着けましょう」
アーロンは、ゆっくりとその因縁の相手を睨みつけるように見下す。
「やはり、来たのであるな。しかし、ここに、おまえの求めるものは一切ないのである。今なら見逃してやるのである」
「アーロンさん、聞いていなかったのですか。僕はあなたと決着を着けに来たと言ったんだ。あの日の、全てを失ったこの場所で、僕は全てを取り戻す為に、ここにいるんだ!」
アーロンは、禍々しい気を放ちながら、再度警告する。
「次、戦えば死ぬであるぞ…………それでも、構わないというのであるな」
「もちろんそのつもりですから。それとも怖いですか?」
クロノが、放ったその言葉に、アーロンは鼻で笑った。怖い? そんな感情我のどこを探しても見つからないである。我は、強い、負けないのである。
殺すという、行為を好き好んで行う事は無いが、その対象が自殺志願者であるのであれば、それは救済にあたる。ならば、この矮小で小賢しく目障りな、目の前にいる存在を打ち砕いて見せようではないか。
「怖いであるか。そんなはずはないである。我は強い、我は勝ったのだぞ、そうなれば我が負けるはずなど無いである。そして我はメイオール様から力も授かっているである」
その言葉に、クロノはわずかに眉を動かしたが、それは、予測通りであった。
「アーロンさんがどれだけ強くなっているか知りませんが、あなたはフィリアから強いと言われたことはありますか?」
その言葉にアーロンは分かりやすく反応した。
「それがどうしたのである。フィリアなどの評価なんてどうとでもいいである」
「無いんですね。ちなみに僕は強いって言われたことがありますよ」
アーロンの反論を、クロノはやれやれといった感じで、アーロンに向かって言い放った。
「だから何だと……」
「もういいです。始めましょう。時間が惜しいですから」
クロノは、アーロンの事を面倒な存在のように扱い、その行動にアーロンは、少なからず、反応した。
「いちいち癇に障る言い方であるな。だが安心するがいいである。しっかりと懺悔の時間は用意してあるぞ」
「いりませんよ、そんなもの。では、行きますよ」
両者は同時に動きだし二人は力を込めた一撃を繰り出した。そしてぶつかり合った拳は、相反し二人は距離をとる。
「なぜ、剣を使わないのである?」
「今は、あの時の様にメイオールさんの魔法がありませんので、剣は使いません」
「舐めているのであれば、後悔させてやるである」
「時間が惜しいので、次行きますよ」
互いの拳撃が衝突することで生じる、重低音を教会内に響き渡らせ、二人は再度お互いの拳をぶつけあった。ぶつかり合うその拳は、常に互角であったが、その打ち出すときの表情は圧倒的にクロノが優勢だった。
「なぜっ! なぜ! そんな顔をしていられるのだ!」
アーロンは、常に自分が放てる最大の一撃を繰り出していた。だが、それでも、クロノは、それと同等の威力を誇る一撃を返してくるのだ。
そして、戦況では大きな決定的な違いが出ており、その決定的な違いは二人の顔に現れていた。
口を大きく開け、汗を流し、疲弊するアーロンに対して、今もなお力強い目でアーロンを睨みつけ、変わらない余裕の表情であるクロノは、その今にも、崩れてしまいそうなアーロンに向かって言い放つ。
「アーロンさん弱いですね」
そのクロノの言葉に、アーロンの何かが一瞬で弾け、
「舐めるなァッ‼ 何が分かるのだ‼ 我は強い! 負けないのである! ゆえに、ゆえに! ここで、この場所で、この勝負に勝つのは我である!」
アーロンは、その目に禍々しい覇気を宿してクロノを倒す一心で、渾身の一撃を繰り出した。だが、その覇気に勝るものをクロノは既に、その目に宿していたのだ。
「違う‼ 勝つのは僕だ‼」
その、のじゃシスから授かった、輝き放つその力は、クロノの背中を押すように力を与え、そして、アーロンのその拳に対抗し、その拳は、互いの身体に吸い込まれるように、打ち込まれた。
「がっ……はぁ……………っ」
「アーロンさん、僕の勝ちですね」
アーロンの拳が当たるより早くクロノは、アーロンの身体にその拳を叩き込み、その一撃を食らったアーロンは膝から崩れ落ちた。
クロノは拳を握りしめて勝利を噛みしめたが、喜んでいる時間はクロノにはない。すぐに、アーロンにもイフル同様に体から黒い虫のようなものを取り出して、それを瞬時に排除してから、アーロンの息があることを確認して、周辺を捜索すると、
「あった。ここから入ったのか」
見つけたのは、一見何もない様な場所だが、今のクロノにはこの場所の違和感に気づきその場所を、コクウで切りつけると、布が裂けるように空間が切れ、その奥に見えるのは薄っすらと見えるぐらいの世界であったが、直感的に感じるものがある。
この先にフィリアがいる。そしてメイオールさんも中にいるだろう。
もう少しですべてに決着が出来る。そう思いクロノは迷うことなくその中へと入ろうとすると、
「クロノよ。待つ……である」
アーロンは、今にも崩れてしまいそうな、フラフラな足で立ち上る。
「クロノに……伝えなければ、ならないことがあるのだ」
アーロンは、ゆっくりとその口を開いて、話始めるのであった。
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