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フィリアに会う、それだけが今の僕を突き動かしている


 シスターが持つ特殊特性の加護による能力で、イフルは火に対しては最早無効に等しくなっており、イフルは全くと言っていいほど傷を負っていなかった。

 

 この目の前で起きているこの事象にクロノは、この状況はかなりまずいことであると悟った。また、イフル以外のシスターが奇跡で生成した火を放っているのも、この理由があってのことだろうが、クロノはそれでも諦めず、力を振り絞って教会の入り口を目指すが、イフル及びシスター達がクロノの行く手を妨げた。

 

 仮にイフルの攻撃を防いだとしても、暗雲の空には、これから降り注ごうとしている火に埋め尽くされていた。


 また火球を防げば、イフルと対峙しなければならず、クロノは常に全力で、全ての攻撃に対処するが、それでも徐々に防ぐことが出来なくなってきてしまい、少しずつ教会から遠ざかってしまう。だが、力を込めた一歩ずつの進行で、一瞬見えてしまった絶望を振り切るようにして、イフルと対峙する。


「ほらほら、どうした! どうした! 中にいるフィリアに会うんじゃなかったのかぁー!」

「うるさい! 黙れ!」

 

 イフルの甲高い声が耳障りに思いながらも、引くことなく食らいつく。だがやはり、クロノの劣勢は変わらない。

 

 この状況でさらにクロノを不利にさせていたのはコクウが、イフルの扱う大鎌とも相性が悪いことであった。クロノが使う短剣では、リーチの長い大鎌相手では対抗することは出来るが、それ以上に攻め込むことが出来ないでいた。

 

 また教会との距離を詰められれば、その場所には火球が降り注ぎ火の海と化したがそれでも、クロノは必死になってその日の海に潜り込んでも、火の耐性があるイフルが待ち構えているので、悠長に戦えば、確実にその海に揉まれて焼き焦がされるだろう。

 

 そんな絶望を見せつけられても、クロノは諦めない。逃げない。食らいついてでも、フィリアに会う。その誓いを忘れずにそしてそれを糧に、この場にいる。


「フィリア―‼ 絶対に会いに行くから待っていてくれ‼」

 

 力強く叫びながら、それだけを一心に思い、戦い続ける。しかし、戦況はますますクロノが劣勢となっていき、


「ほらっ! ほらほら! いい加減諦めなさいよ! なんで、フィリアなんていうクソ女なんて好きになるのよ。あいつはモンスターなの。人を人とも思っていないモンスターと同じなのよ!」


「違う! そしてフィリアを悪く言うな!」

 

 口の中が切れてしまっているかその口腔内は、血の味で充満し、体は何度も地面を転がり、打ち付け、引きずられた為、所々傷だらけで血と砂で汚れていた。それでも、震える腕を抑えながら何度も立ち上り、残った力全てを握り締めるコクウに注ぎ続けた。


 また、コクウの柄の部分はクロノの血で赤く染まっていたが、それでも、……それでも、クロノはコクウを強く、更に強く握り締めた。

 

 だが、最早それは最後のあがきに近いものであった。そして、一部のシスターは、そのクロノの悲惨な状態に目を背ける者もいた。だが、この場所を絶対に死守しなければならないという厳命により、火球を放ち続けられることにより、クロノは次第に追い詰められ、体から力が抜け始めていた。それを、イフルは感じ取るとクロノを突き飛ばし、倒れ込んだクロノの腹部に馬乗りし両手を踏みつけた。


「くそっ、そこをどけよ!」

「あらあら。二人して口が悪いこと。どういう教育を受けて来たのかしら」

 

 イフルはごみを見るような目で、クロノとフィリアは蔑すんだ。そして、その侮辱にクロノは怒りを爆発させたが、もうその擦り切れた体には力が入らなかった。


「諦めなさいよ。ここまであなたは良くやったわ。それに私達はあなたを殺せとまでは言われていないから、殺しまではしないけど、あなたがこのまま抵抗すれば死ぬわよ」

 

 死ぬ。イフルのその言葉に、思わず笑いが込み上げて来た。僕が今までどれだけ死ぬかもしれないかもしれない場所で戦って来たと思っているんだ。いつも安全な場所で、過ごしているお前らには分からない死と隣り合わせの戦場だぞ‼


「……僕が死ぬ。ははっ、今までどれだけ戦って来たと思っているんだよ!」

 

 クロノは、疲労とここまでの戦いで負った傷によりいつも以上に言葉を荒げて、イフルを否定した。だが、その否定はイフルには何もかも、全く届かなかった。


「あら、本当のおバカさんだとは思わなかったわ。あなた、そういえばフィリアと一緒にいたんですってね。まぁ、あいつと気が合うということは、あなたも同類ということね」

「そうだ! お前らと違ってな!」

 

 イフルはクロノの嫌みを受け止めると、先ほどまで嫌みを言っていた口を閉じて、黙り込みんだと思うとすぐに、顔を歪ませ言い放った。


 「それならば、ざまぁないわね。馬鹿とモンスターが、お互いに気が合って片方の最後は、ボロ雑巾のようになって無様に相方に会えず、それを知らない相方も、そうとは知らず自分勝手にどこかに行ってしまうのだからね。残されたあなたは惨めね! はっははははははははは!」

 

 イフルは声高く笑い、それに合わせるように、後ろのシスター達も惨めなクロノの姿に対してくすくすと、笑い声が聞こえてくる。


「……黙れよ」

「あん?」

「黙れって、言ってんだよ! それでも、お前ら仲間かよ! なんでそんな悪く言えるんだよ!」


 クロノ叫びに、イフルは、きょとんとした顔をする。そして、クロノの言葉に呆れるように、


 「はぁー。これだから、何も知らない奴はウザいんだよな。確かにフィリアは同じ教会にいるけど、あいつは私達とは違って恵まれ過ぎているんだよ。見た目もそうだし、奇跡も加護もな」

 

 イフルは嫌味のみで構成した言葉を吐いた。そしてそれを受け止めたクロノは、このシスター達のフィリアに対する感情を見抜くと、傷だらけの顔を緩ませた。


「おい、何がおかしい? あなたはこの状況を理解出来ないほどの馬鹿なの?」

「嫉妬を聞かせてもらって、フィリアがお前らと仲良くしない理由が分かったよ」

「はっ! 勝手に納得していろよ!」

 

 イフルは、立ち上がりクロノを蹴飛ばすと、クロノは、そのまま地面を転がり、目を開けるとそこには殺意に満ちたイフルがいた。


「哀れね。あなたは、死ぬはずで無かったのに、自分から死を選んだのよ」

 

 イフルは大鎌を振りかぶりクロノの、首めがけて振り下ろす。

 

 遠くの方では悲鳴も聞こていたが、急いでこの場を離れないといけないのに、体はとうとう絶望の闇に引きずり込まれ、その体は急に鉛の様に重たく感じ、どうやら限界を迎えていたようだ。

 

「死にさらせ‼」

 

 悔いは残るが全てを諦めるようにして、クロノは目を閉じた………が、大鎌がいつになってもクロノの首を切ることはなくゆっくりと目を開けると、目の前にはイフルが顔を歪めながら大鎌を振り降ろしたまま、静止していた。またイフルだけでなく、周りのシスターや近くの木も動きを止めていた。

 

 何が起こったと、疑問に思っていると、後ろから、聞きなれた声がする。


「おぬしよ。こちらにくるのじゃ」

 

 聞こえた声に振り向くとそこには、のじゃシスさんが白い長椅子にちょこんと腰かけていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます! 

引き続きブックマーク、評価、感想をお待ちしております!

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