注文の品は魚でした
市場に向かうと今日も多くの人や亜人達が各店舗で買い物をしており、その賑やかさはいつもと変わらないぐらいの活気に溢れていた。
この時間帯は最も市場が賑やかな時間帯であり、クロノもその賑やかな市場で体を滑らすようにして、多くの商品を眺めながら歩き進んだ。いつもであればフィリアか、のじゃシスさんもいたので、もっと歩きやすい場所か時間帯を選んでこの場所に訪れていたのだが、今日は僕一人だけなので、冒険するような感覚でこの人ごみに挑んだのだ。
そして何度か知らない人と目が合ったりもしたが、僕の事をブラックスターなどと呼ぶ人は誰もいなかったので、やっぱり所詮は噂だろうと思い、武器屋で言われたことをさっさと忘れることにした。また教会にフィリアの荷物を届け、早く家に帰って、のじゃシスさんとお昼ご飯の準備をしなくてはいけないので、買い物を済ませてしまおうと思い、ある程度の目星を付けながら歩き続けるのであった。
クロノが市場の数ある店で立ち寄ったのはとある魚屋であった。この魚屋は種類豊富な魚が売られておりどれにするかいつも迷ってしまうほどである。また、のじゃシスさんは特に魚料理が好きで、今日も夕飯は何するか聞いたら「魚」と、短く答えたので、今日は、のじゃシスさんが香草で調理すると喜んで食べてくれる魚の香草焼きにするとした。
「お兄さん。今日の魚はどれがおススメなの?」
「ソウダネコレガ、オススメダヨ」
片言に話す店員が指を指したのは、新鮮そうで黒くて艶のある大きな魚だった。確かにその魚は腹がふっくらと膨れており、身がどっしりして美味そうであったが、値札を見るとその値段が予算を少しだけ超えていたので、すぐに買う気にはならなかった為、他の魚を選ぼうかと悩んでいると、
「オニイイサン、オニイイサン、コレがイイヨ。イマは、ブラットスター、トカイウ、ボウケンシャが、ユウメイダカラ、コレがイイヨ、ドクもナイシ、オレのオススメ」
毒があるのは論外だけど、それよりもブラックスターもいれば、ブラットスターもいるのか。なんかいろんな二つ名を持つ人がいるんだな。
「オニイイサン、ヤスクスルカラカッテイコウヨ、キットオイシイヨ」
わずかに怪しい感じもするが、確かに見た目は悪くない魚だから安くしてもらえるのであれば、買ってもいいかと思い財布からお金を出して、同じ種類の魚でもどれが一番いいか悩んでいると、
「おい! 教会の方で何かあったらしいぞ!」
「なんかすげぇらしいな! 見に行こうぜ!」
後ろを、走り通った人の声を聞いて僕の意識は一瞬で変わった。
「フィリア―――」
「オニイサン、サカナ! あとニモツもワスレテイルヨ!」
「すいません! 後で取りに行きます!」
教会で何かあったとしたらそれはきっとフィリアにも関係している。それになぜか今の僕は胸が痛み嫌な予感もして、僕はこの気持ちを抑える為にも無意識に、教会へと走り出した。
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