久しぶりの穏やかで心安らぐ休日……
次の日、前日に火竜と戦ったこともあって、クロノは今日を休息日としてクエストにも出ないで、一日休むことにすることにした。
体の状態も昨日、家に戻って来てからしてもらった、のじゃシスさんの奇跡により全快である。
今日は、珍しくのじゃシスさんは家でゆっくりしていると決めていたので、僕は久しぶりに一人で家を出ようとした時に、のじゃシスさんから、フィリアの荷物を持って行けと両手で抱えた荷物をクロノに手渡して、そのままクロノを見送った後に、静かに家の中へと入っていった。
クロノは、昨日の疲れでもあるのかと思いながら、ゆっくりとした足取りで教会に向かう前に、コクウを買った武器屋に来て、今はそのコクウの手入れをしている。
武器屋の中には、クロノしか、お客はおらず店内は閑散としており、しゅっ、しゅっと、コクウを研ぐ音がその中で静かに響いていた。
店主も、椅子に座って本を読んでいたが、区切りがついたか、それとも読み終えたのか、両腕を斜め上に伸ばして、大きくあくびをしていた。
それからしばらくすると肩を小さく回してゆっくりと椅子から立ち上がり、その顎に蓄えた髭を撫でて、せっせとコクウを研ぐクロノを眺めながら、
「それにしても、お前さん。ここ数日で見違えるほど変わったな」
「え? そうですか」
クロノはコクウの手入れする手を止めずに、店主と話を続ける。
「最初は、普通の冒険者だと思っていたけど、聞いた話じゃ今度は火竜を倒したそうだな」
「そうですけど、結構ギリギリでしたし、次は負けると思いますよ、それに今度は何と戦えばいいか悩みますよ」
クロノは片目を閉じて、光を当てる角度を変えながらコクウの状態を確認しつつ、店主の話を聞いていた。
「さすが、ブラックスターだな」
急に聞きなれない呼ばれ方をされて|戸惑って一度手を止めたがすぐに再開し、研磨を続けたのだが、ブラックスターという聞きなれない言葉がなかなか離れないでいた為、思わず問いかけてしまう。
「何ですかその、ブラックスターって」
「なんだ、言われている本人は知らないのか。突如現れた新星で、服装が黒いことかららしいが、一部の冒険者達から言われ始めているんだぞ」
「全く知りませんでした」
「それに、すごい美少女を連れていて、その少女も相当な実力者って話を聞いてな。それでな、俺はその話を聞いてお前さんを思い出した訳だが、この間一緒にいた女の子はどうした?」
「今はちょっと会えなくて……でも、元気にしていると思いますよ」
「あれほど女はそういないから大事にした方がいいぞ。それともこの間一緒にいたちびっ子の方がいいのか」
「どっちも大事にしますよ。あと、研磨が終わったので、使わせてもらってありがとうございました」
クロノは椅子から立ち上りコクウをしまうと、店主にお礼を言って入り口の扉を開く。
「はいよ。また、使いに来な」
扉を開けて、クロノが店を出ていく時に、すれ違った冒険者が一瞬、クロノを見た気がしたが、特に何もなかったので、そのまま、クロノは近くの市場で食材でも買って行こうと思い、市場へと足を進めたのだが、その後ろにある店内で店主と、先ほどすれ違った冒険者がブラックスターとやらの話で盛り上がっていることなど、クロノは知らなかった。
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