フィリアとの思い出への追想~火竜編~
「おぬしよ! 平気か⁉」
「うん。まだ、平気だよ!」
僕たちは、火竜討伐のクエストに挑戦しており、以前は発見するのに、かなりの時間を消費したが、今回はすぐに遭遇し、現在戦闘中である。
今回の火竜の大きさはフィリアと一緒に、戦った時によりも一回り程小さいが、その力は疑う余地のない火竜であり、クロノに対しても猛烈にその力を振るっていた。
しかし、クロノも負けず劣らずで、必死に抵抗し、隙があれば攻め立てていた。そして今回も、のじゃシスさんは、安全な場所にすでに移動しているので、襲われる心配は無いのだが、その代わりクロノ一人で火竜と戦わなくてはならないので、一瞬たりとも気が抜く事はなかった。
火竜の攻撃はすべてを注意しなければならない。その中でも、剛脚から繰り出される一撃に、アギトから放たれる火球、そして薙ぎ払う尾のどれか一つでもクロノに当たれば致命傷もしくは最悪、死につながる。
その為、全ての動きに集中し、攻撃を予測し、常に好機を狙いながらクロノは火竜と対峙していた。
戦闘開始からどれだけ経過したのか分からないが、両者とも逃げることなく戦い続けた。クロノは、多少の傷を負いながらも、確実に攻め立てて続け火竜を一歩ずつ追い詰めていた。対して火竜はほとんどクロノに傷を与えられていないが、自身の持つ一撃を与えることが出来れば、勝負も決まるだろう。
お互いにすり減り続ける体力はどこで尽きるかも分からない。そして時間も進み日が傾き始めており、ゆっくりと決着の時は近づいている。
また、夜になってしまえば、戦場は暗闇となり、クロノの戦況が悪くなるので撤退しなければならないだろう。
そう感じたクロノはここが勝負所だと決心し、血の味が口の中に充満する中、歯を食いしばって火竜を狙って力強く走り出す。
そのクロノの行動に火竜も近づけまいと火球を放つが、この長時間の戦いにより火竜の体力も限界に近づいており、放たれた威力の低い火球は発射直後に、消えてしまいそうだった。
何度も火竜の火球を回避してきたクロノにとっては、その弱々しい火球はもはや火球とも呼べないほどであったので、楽々と回避し、さらに足に力を込めて加速し、その勢いで火竜に近づき、その首元を狙い一気に切りつけ、火竜が痛みでその巨体を崩した瞬間を逃さず、頭部にしがみ付き、両手で握り締めたコクウに全ての力を注ぎ込み、勢いをつけて大きく吠えながら突き刺した。
その一撃は火竜の外殻及び頭蓋骨を超えて貫き、急所への一撃を与えられた火竜は、その巨体をゆっくりと地面に着けるとそのまま息を引き取った。
またクロノは、息をするのを忘れるほどに、全てを注ぎ込み、今ではその反動により、肩で息をしてわずかに放心状態であった為、目の前にいる動かなくなった火竜を見てもこの戦いが終わった事に実感がなかったが、
「おぬし! 無事かー!」
のじゃシスさんの元気な声で我に返り、すぐに返事をする。
「うん! 無事だよ!」
一人でやれた。フィリアがいなくても僕だけで、火竜を討伐出来たんだ。これで、もう一度フィリアに会った時は認めてくれるかな。
「やってやったぞー‼ 僕一人でも火竜を討伐出来たんだ!」
戦闘が終わった後の、湧き上がる達成感に喜びが爆発したクロノは、大きく声を上げ両手を握り空に向けて突き上げ喜んだ。
いつの間にかクロノの傍にやって来た、のじゃシスもその結果に手を叩きながら褒めていた。
「おぬしよ。よくぞやりきったな。ずっと見ておったが、本当にかっこよかったぞ」
「ありがとう。それに、のじゃシスさんも無事でよかったよ」
今回も安全な場所にいたおかげで、のじゃシスさんは傷一つ負うことなかったようだ。その事にクロノは胸を撫でおろし安堵する。
「それで、この火竜はどうなるのじゃ?」
「この火竜は、回収された後に、素材として全て使われるよ」
「そっか。それならよかったの。生まれ変わった姿でみなを守ってくれれば、この火竜も喜んでくれるの」
眩しい夕日に照らされ、その小さな背中に光が当たると、後光がさしながら、息が絶えた火竜を慈しむ、のじゃシスさんはまるで女神の様に思え、討伐したからには、しっかりと役立って欲しいのは僕も同感である。
「それじゃあ帰ろうか」
「うん。帰るのじゃ」
僕と、のじゃシスさんは、仲良く話ながら家へと戻るのであった。
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