地竜との激戦を終え、そして……
クロノは、地竜と距離を取りながら最初に加速魔法をかけ、さらに地竜との距離を離すと、すぐに続いて耐性上昇、筋力上昇魔法をかけた。
これらの魔法を発動し終え、準備を整えたクロノは、逃げるのを止めて地竜の右側面へと向かい走り出す。
地竜は標的が自分に向かって突っ込んで来たので、自慢の大あごを存分に大きく開き、さらに首をめいっぱい伸ばしてクロノを一口でかみ砕こうとしたが、ひらりとクロノに避けられ、がちんと音を立てて閉じた口の中に入った物は何もなかったが、その行為により地竜は意識が全て頭に寄ってしまった為、次のクロノの攻撃の対応に遅れてしまう。
クロノはその瞬間を逃さなさないで、地竜の懐に潜り込み、自分が出来る全速力の速さで地竜を切りつける。その連撃は息をするのも忘れるぐらいだったが、無我夢中とまでいかず、ギリギリ他のことが少し考えられるぐらいの意識下で連撃を繰り出した。
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ‼」
クロノの連撃により胴体の多くの個所を切りつけられた地竜は、苦悶の声を出して、とにかくクロノから離れるようにその大きな体を動かしてその場を離れた。
クロノもその動きを先に察知したのと同時に、息が切れそうになったので、地竜の移動に巻き込まれない様に、その場を離れるように跳躍しながらお互いに距離を取った。
負傷箇所から血を流して痛みに耐える地竜と、体を使って大きく息を吸って呼吸を整えるクロノであったが、この好機をお互いに攻めることが出来なかった。
クロノはこの時もし誰かいてくれたら、ここでさらに地竜に追撃をして、戦闘を終えられたかもしれないが、今回は戦えるのは自分だけであるので、余計な事を考えるのを止めて、額から流れる汗を腕で拭う。
目の前を見ると痛みとこの状況に苛立つ地竜が息を荒げている。だが、こうなればこの戦いはもう終盤戦である。
怒りに任せた地竜は狂ったように、突撃をしてくるが、それを今まで同様に大きく距離を取りながら回避を続ける。
「グウウウウウウオオオオオオオオオオアアアアアアッッ‼」
攻撃が掠りもしない地竜はさらに苛立ち、咆哮しながら暴れ狂うが、その攻撃はもはやクロノを狙った攻撃とは思えず、まるで感情に任せた子供のような足掻きであった。
ただ、このような攻撃は長続きがしないことぐらいは、このような状況を経験したことがあれば、近づくことなくただ待つだけであり、予測通り時間が経過するごとに動きが徐々に鈍くなり、地竜の動きが止まった瞬間に地竜の首元に向かい、軽く切りつける。
息が上がって疲れてしまった地竜は、クロノ攻撃に反応出来ず、いつでもトドメを刺せることを気づかされた。地竜は本能で急に今までに感じたことのない恐怖に全身が震えあがり、逃げようとするが、クロノはすぐに追いかけ地竜の退路を断つ。
疲れ切ってヘロヘロ状態の地竜は初めに現れた時とは見違えるぐらい弱々しく感じられ、地竜はこの状況に観念したのか、その場に動きを止め、弱々しい声を出して目を閉じた。そしてクロノもこの戦いを終わりにしようと、地竜に近づくと、
「おぬしよ。この子は殺さなくてもいいはずじゃが、どうするのじゃ?」
クロノはいつの間にか近くにいた、のじゃシスに軽く驚きつつもその問いに、笑顔で答える。
「もちろん殺さないよ。この地竜はまだ悪いことはしていないし、クエストの依頼主からも出来れば殺さないで、って言われているからマークポイントを付けてこれで終わりだよ」
この地竜はこの草原地帯の主であるから、いなくなれば、秩序が変わってしまうので、出来れば殺したくはないが、それが困難な場合は討伐対象であった。
管理という点でもマークポイントも付けることが出来たし、実はこの結果だと報酬が高いのでこれはこれで僕にも嬉しい結果なのである。
地竜はその後ゆっくりと体を動かして、一瞬僕の方を見て頭を下げ、どこかに行ってしまった。
「はぁ~。めちゃくちゃ疲れたよ」
「お疲れ様なのじゃ」
地竜を見送ったクロノは、疲れ果てて、草原にばたっと倒れ大の字になって寝ころんだ。戦闘中にも吹いていた涼やか風が、僕の体を冷やしてくれるのを感じ、のじゃシスさんは、そんな僕を眺めながら膝を曲げて、僕の頭を撫でた。
「ちょっ! ちょっと! のじゃシスさん!」
「……なんじゃ?」
「その、僕今汗をかいているし、手に汗がついて汚れちゃうよ」
「気にせぬよ。それに頑張ったおぬしの汗は、汚いものではないのじゃよ」
のじゃシスさんの尊いものを見るような目を見て僕は、気恥ずかしい気持ちになった。そして、このまま甘えてしまうと、ずっと甘えてしまいそうだったので、がばっと体を起こして、
「さて、クエストも終わったし、帰ろうか」
「そうじゃの!」
僕は、のじゃシスさんの手を取ってワープポイントへと向かうのであった。
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