涼やかで穏やかな草原地帯に岩がありました
食事を終えて、クロノは、のじゃシスと手を繋いで、涼やかな風に吹かれながら、静かで穏やかな進草原地帯を、ゆっくりとした足取りで歩いていた。
クロノは歩きながら、以前も地竜が簡単に現れず、魔石掘りをしていたら、地竜が現れたのを思いだしていたのだが、今回は辺りを見渡しても地竜どころか魔石がありそうな岩すらなかった。そして、歩き疲れた二人は、現在水辺で休憩を取っていた。
のじゃシスさんが、透き通った湧水をばしゃばしゃと蹴って、楽しそうに遊んでいるのを見ながら、僕は原っぱでそよ風に吹かれながら寝ころんでいると、急に睡魔に襲われ、うとうとしてきたと感じていたら、そのまま眠り込んでしまった。
その後、しっかりと熟睡した僕の体を、何かがゆさゆさと、揺さぶるが、僕は夢と現実の境界での、感覚が気持ちよくて、もう少しだけこうしていたかったのだが、途中で揺さぶりが止まり、それが気になり薄目を開けて見てみると、その小さな手を、空に向かって上げ、今にも腕を振り降ろそうとしていた、のじゃシスさんのその大きな魔石のような深い蒼色の目と、僕の目が合った。
「あれ? 起きてしもうたか。もう少しでわらわの目覚めの一撃を馳走してやろうと思っておったのに、残念じゃな」
のじゃシスさんは、目を細めて口を一文字に結びつまらなそうにしていた。
目覚めの一撃なんていう物騒な技を食らわずに済んだのは良かったと、ほっとすると、以前の僕であれば、恐怖でいつも周りを警戒していたぐらいなのに、こうして寝られるまでになったとは自分でも驚きであった。
クロノはゆっくりと体を起こし、両手を組んで空へ向けて体を伸ばす。また、後ろ髪が頭の重みで潰されていたので、くしゃくしゃと掻きながら整えて、のじゃシスに現在の状況を教えてもらう。
「さてと、地竜探しを再開しないとね。のじゃシスさんは、僕が寝ている間に地竜を見たりした?」
「うん。見たのじゃよ」
さて、見てないようだし、また探さないと……って見たの!?
「どこにいたの⁉」
「えっと。すぐそこじゃ」
のじゃシスさんが、指を指した方向にあったのは、最初は岩だと思い込んだが、目を凝らして、よく見ると、かすかだが動いている。
「最初はわらわも気づかなかったのじゃが、気づいてからすぐに、おぬしを起こそうとしたのじゃ、でも全然起きぬからわらわの一撃を繰り出そうとしたんじゃよ!」
のじゃシスは、自分の小さな胸の前で、両手をぐっと握りながら、クロノに言い寄っていたのだが、クロノは、のじゃシスの、奥にいる存在から目を離せなかった。
「のじゃシスさん、お願いだからそんな大きな声を出さないで――――――」
クロノは焦りながら、のじゃシスに静かにするように言うのだが、しかし、その忠告は間に合わず、先ほどまで動いているかもわからなかった岩のような外皮がゆっくりと動き出し、あらわとなった地竜の目がクロノの目と合うと、
「ギャアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオンンンンンッッ‼」
地竜は周辺に響き渡る轟咆で、クロノを威嚇した。そしてクロノは両手で耳を塞ぎ、その轟咆をどうにか凌いだ。すぐに、のじゃシスの事が気になり確認しようとしたが、
「のじゃシスさん! 早く逃げ…っていないしっ!」
「おぬしー! わらわはこっちで見ておるからのー!」
目の前を見ると、すでにその小さな姿はいなくなっており、声がする方を振り向くと、のじゃシスさんは、僕に言われるまでもなく、先に高い岩場に移動して元気にぶんぶんと両手を振っていた。
その距離は地竜から遠く離れているので、クロノも安全だと思える場所であった。
「いつの間に……」
その移動の速さに驚かされたが、のじゃシスの安全が確信出来て安心すると、残されたクロノは新しい相棒である、コクウを手に持ち構える。
「――――――さぁ! かかって来い!」
クロノは、すぅと息を吸い、地竜を睨みつけ、覚悟を決めるのであった。
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