その言葉は今も深く覚えている
「ほらっ、おぬしよ。ご飯の時間じゃよ」
「ありがとう、のじゃシスさん」
無事ワープポイントから草原地帯に到着し、すぐに目的地まで移動して今は休憩をとっていた。そして二人は横に広く平たい石の上に腰を下ろして、のじゃシスが一緒に持って来た籠から取り出した握り飯が二つ入った包みをクロノは、のじゃシスから受け取り、丁寧に包まれていた握り飯を食べながら周囲を眺めていると、涼やかな風が吹き、その風に草が揺れるこの草原地帯はとても穏やかで気持ちのいい場所であった。
「どうじゃ? わらわが握った握り飯の味は?」
「とっても美味しいよ」
「そうかそれはよかったのじゃ」
その答えに満足したのか、のじゃシスさんは、両手で握り飯を掴んで、小さな口を大きく開いて美味しそうに頬張っている。
クロノも、片手で握り飯を食べながらそののじゃシスを眺めていた。
のじゃシスさんは、見た目は七、八歳ほどだが、持っている技術はそれ以上だと僕はつくづく感じていた。脅迫やいじりも、もちろん含めて。
しかし、僕は、のじゃシスさんのおかげで今の生活があると実感している。フィリアと別れた後は、どうすればいいか考えることも出来なかったけど、この子のおかげで今はこうして目標を持って進めている。
「そういえば、おぬしはこうしてクエストに来たのじゃが、体は大丈夫なのか?」
「アーロンさんとの戦いの時にメイオールさんの、防御魔法と温泉のおかげでほとんど体に支障は無いよ」
「確かにわらわが来た時も出血とかは、ほとんど無かったしの。したことといえば、服が濡れておったから脱がして着せただけじゃから特に問題はなかったのかもしれぬな。でも、それじゃと、ちいとばかり残念じゃな。せっかく、わらわの加護で、おぬしの体を癒やしてあげようと思っておったのに」
のじゃシスは実力を披露したかったのか、その小さな口を尖らせながら呟いていた。
「でもさ、のじゃシスさん。今回の地竜との戦闘で怪我をするかもしれないからその時は、のじゃシスさんに治してもらいたいな」
「そうじゃな。おぬしが死なない限りわらわが治してあげるからの」
クロノは、死なないという言葉に、一瞬フィリアと、のじゃシスが重なった様に見えてしまい、感情が高ぶりそうになったのを堪えた。
「おぬし、急に黙ってどうしたのじゃ?」
「そうだね。死なないようにするよ」
クロノは鼻をすすって、ニッと、口角を上げるのであった。
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