二人だけの内緒の話
夜のしんと静まりかえった教会で、アーロンは気を入れて見回りをしていた。その静けさは自分の足音が聞こえる程の静けさであり、また夜の教会は周りの明かりも少ないのと、教会の厳粛な雰囲気と合わさって、最早、不気味に思える程であったのだが、この状況に馴れてしまっているアーロンは、特に気にすることも無く見回りを続けた。
「今日も異常無しであるな」
いつも通りアーロンは見回り台帳に、異常がなかったことを記録し、手に持つ灯りを消そうとした時だった。
「あら? アーロンさんではないですか。こんな夜更けまでお仕事、お疲れ様です」
「その声はイフルであるか」
アーロンの元に、その両側にある縦ロールを揺らしながら、やって来たのは最近この教会にやって来たシスターであるイフルであった。以前は別の教会にいたのだが、その才能と奇跡と加護を見込まれこの教会に移動して来たのだ。
「この都市は、夜になると、昼間の賑やかさが嘘の様に静かになりますね」
「そうであるな。おかげで、今日も皆よく寝られるであろう」
「そういえば、アーロンさんは、今日も長い時間特訓をされていましたが、急にどうしたのですか?」
「それは、強くなるためである」
アーロンはクロノとの戦いに結果的には、勝ったのだが、実際は負けていたと心の奥で思っていた。そして、このままでは、メイオールの期待に応えることが出来ないと、感じたので、更に特訓を重ねていたのだ。
「でも無理はしてはなりませんよ」
イフルは、ほほ笑みながらアーロンの事を思って言う。
「そうであるな。あとはフィリアのこともどうにかなればよいのであるが」
「あー、確かにそうですね」
イフルは、そのアーロンの言葉に頬をぽりぽりと掻きながら同調する。
フィリアはこの教会に来てから早速、他のシスターやモンクの中で、話題となっていた。
以前からこの教会でも、フィリアの事は知られていたのだが、その美貌や、疑う余地のない才能を、実際に見た者達は驚きの声を上げていたのだが、同時に聞いていた通りの難のある性格により、寄り添う者はおらず、フィリア本人も拒絶していた。
その為、フィリアはいい意味でも悪い意味でも話題となっているのだ。
「まぁ、元から知っていたことなので、仕方ありませんが、いつまでおられるのでしょうかね」
「我も分からないのである」
アーロンはこの時イフルに対して嘘をついていた。本当は、メイオールが言っていた例の場所に行く時に連れて行くと言っていたが、この事は極秘であると言われていたので、知らないふりをしたのだ。
「そういえば、アーロンさんは、メイオール様がどちらに今いらっしゃるか、知っておられますか?」
「ん? 我は知らぬが、いないのであるか?」
「アーロンさんも知らないとなると、どこかにお出かけですかね」
イフルはメイオールに何か用事があったようで、眉を寄せ困ったような表情をしていた。アーロンも口に手を当てて頭を働かせてみたのだが、思い当たることは無かった。
「また、明日の朝にでも伺ってみるとよいのである」
「そうですね。また朝にでも探してみます」
イフルは、そう言って自分の部屋に戻ろうとしたが、何かを思い出したようにくるりと周って、口に出す。
「そういえば、アーロンさんは、メイオール様の例の噂をどう思いますか?」
「例の噂……とはなんであるか?」
何も知らないアーロンは、首をかしげた。
「あれ、知りませんでした」
そして、イフルは辺りをキョロキョロと見渡してから、周りに聞かれない様に目を細めてアーロンの耳元で囁くように声を出した。
「メイオール様が最近すごく色っぽくなった話ですよ」
「なっ⁉」
アーロンは顔を赤くしてイフルから離れた。しかし、そんなアーロンの事などイフルは気にすることなく話を続ける。
「一部のシスターから聞いた話なので、まだ確証はないですが、あのメイオール様がそんな姿になるとは思えませんし………まぁ、様子を見ましょうか」
「そっ……………そうであるな……」
アーロンは表情をあまり変えないのだが、珍しく目を大きく開き、未だにイフルが言った事を信じられないでいた。
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