お転婆美少女フィリアは、教会で暇してます
「フィリア様。失礼します」
扉が軽く叩かれると同時に、声の主であるシスターが部屋に入ろうとするが、ベッドに寝転がっているフィリアは、その姿を見られたらきっとシスター内でひそひそと言われるに違いないと思ったので、入らないようにそのシスターを扉の前で静止させる。
「待って、今ちょうどいいところだから、そのまま待っていてちょうだい」
もちろん、作業中というのは嘘であるが、ベッドから起きるのが作業と言えば作業になるので嘘ではないとも言えるだろう。
ゆっくりと背伸びをして体を伸ばして、少しだけスッキリしたところで部屋の前で待っているシスターに入るように促す。
中に入って来たシスターは、フィリアの給仕係で、今はフィリア専用の昼食を運びに来たのであった。
フィリアはこの教会に残ることを決めたあの日から、全ての支度をやってもらい、フィリアのすることは食べることだけである。
ほんの数日間は、食事だけでなく待つ事すら楽しみだったが、今は全くと言っていいほどその気持ちはない。
もちろん食事には最低限の感謝はしているのだが、それ以上はない。淡々と食事を済ませて、食給仕係に食べ終えた食器を下げてもらい、今は食後の甘味を食べながらお茶を飲んでいるのだが、これも別になくてもいいと思えていた。
昨日とは、別の世界に来たと思えるほど、今の生活は怠惰で、退屈な日々に変わってしまった。
出来ることなら、今すぐにでもこの部屋を出てしまいたいが、全てはあの子と会うためだと自分に言い聞かせているおかげで、まだこの状況に耐えているが、そうでなければ何をしているか自分でも予想すら出来なかった。
早くあの子に会ってこの気持ちを早く精算して、出来る事ならまたクロノちゃんに会えればいいなと思っていると、また扉が叩かれる。
フィリアは、この静まりかえったこの部屋に来る人物に、ついてある程度予想がついていた。そして、給仕係に扉を開けてその人物を中に入れてもいいことを、許可し給仕係のシスターが、すぐに扉を開けると、
「フィリア、失礼するよ」
やって来たのは、メイオールであった。昨日は、あの後から何も話していなかったので何かを伝えにあちらからやって来たのだろう。
だが、フィリアは丁寧に対応する気などなく、むしろ部屋に入って来たことに不機嫌な態度を取る。
「急にやって来て何?」
「おやおや、ご機嫌が良くないみたいだね。それならば、早速本題だけど例の場所に行くのはまだかかりそうだから、もうしばらく待っていてくれないかな」
「いいわよ。ここまできたのなら私はいくらでも待つわ。でもね、待ちきれなくなったらどうなるかはメイオールならわかるでしょ」
じれったいのが大嫌いであるフィリアが、ここまで大人しくしているのもようやく会える手掛かりを手に入れられたからである。
また他にも手段は話のみだが希望はあるので、ここに縋る必要はないのだが、折角手に入れたこの機会をみすみす失うのも馬鹿らしいと思っていたのだ。
「では、話はこれで終わりだから、ゆっくりしていてくれよ」
メイオールが部屋を出ようとした時に、
「ねぇ、メイオール少しだけお願いがあるのだけど聞いてくれないかしら?」
「この教会から出るのはダメだよ」
フィリアはこれから言おうとしていたことを先にメイオールに言われ、目を細める。
「チッ、つまんないの」
「ははは、当たってしまったか。申し訳ないけど、もう少しの辛抱だからね」
メイオールは、フィリアをなだめる様に優しく言われ、フィリアもそのメイオールの困ったような表情にそれ以上何も言う気にならなかったがこのまま黙ってしまうのも嫌なので、
「そうしたら、市場に私のお気に入りのお菓子が売っているからそれを買って来てもらってもいいかしら?」
「分かったよ。それじゃ、お使いに行ってくれるシスターに伝えておくよ」
「よろしくね!」
フィリアのお願いを聞き届けたメイオールは急にそわそわし始め、フィリアはその事に気づかず、メイオールのぽんっと、肩を叩くと、
「ひゃあ!」
メイオールが肩をびくぅっと、震わせフィリアから距離を取った。
「どうしたの、メイオール? 珍しい声なんか出して、それに、少し顔が赤くないかしら?」
フィリアは、メイオールの思いがけない態度に目を丸くした。
「き……気にしないでくれ……とにかくフィリアはこの教会から出てはダメだよ」
そう言ってメイオールは、そそくさと逃げるように、部屋を出て行ってしまった。
「なんだったのかしら」
「では、フィリア様、私もこれで失礼します」
「お疲れ様」
フィリアは短く給仕係にお礼を言うと、給仕係もそのまま部屋を出ようとするが、床に水滴が落ちていることに気が付く。
給仕係はこの部屋に来る前にメイオールから部屋の汚れなどを、徹底的に掃除してフィリアの機嫌を損ねない様にしておくように言われていたので、汚さない様に細心の注意を払っていたが、現実に汚してしまったので、フィリアに気づかれる前に手に持っていた布で、さっと拭き取った。
給仕係が部屋から出て行くの見届けてから、フィリアは体を清める白い光に体を包み体を清めると、小さくあくびをしてまたベッドに寝ころぶのであった。
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