のじゃシスさんの叱咤激励をうけてみよー!
「いやー。笑ったのぉー。腹の皮がよじれるかと思ったわ。こんなに笑ったのは久しぶりじゃぞ」
「……それは、良かったですね」
クロノは、新たなシスターであるのじゃシスに遊ばれてしまっていたが、今はなんとかやめてもらっている。
そして、のじゃシスは、その大きな蒼い魔石のような目から、涙を流しながら笑い泣きするのを止めたのだが、のじゃシスは、クロノの狼狽した姿が余程ツボにはまったのか、それでもちょいちょい、プクククと一人で思いだしてはその整った顔をほころばしていた。
そして「おっほん」と言って気持ちをなんとか落ち着かせてから、のじゃシスは、クロノを愛おしく見ながら言う。
「しかし、ぬしはその女のことが好きだったのじゃな」
その言葉にクロノは、のじゃシスのいじりに、少々精神が疲弊していながらも、
「えっ……いや、そうじゃないよ。好きとかそういう訳じゃなくて――――」
クロノはこの時、のじゃシスの言葉を否定しようとしていたのだが、のじゃシスは、そのクロノの言葉を否定した。
「好きでもない女を、家にいれておくなどということを普通せぬじゃろ。みたところ本当に何もせず、泊めてやっていたようだしの」
「確かに、のじゃシスさん言う通りかもしれないけど、フィリアは自分でも言っちゃうぐらいの美少女だし、そんな凄い人を僕が好きになるなんて迷惑だと思うよ」
その言葉を聞いたのじゃシスは、一瞬驚いたような表情をしたがすぐに、その顔を真っ赤にして怒りだす。
「バカかおぬし! そんなくだらない考えで諦めるというのか!」
のじゃシスは、その小さな体からは考えられない大きな声で、クロノを叱咤しその言葉が心に突き刺さっていた。だが、もうフィリアとは会えない。だから諦めるしかないし、この気持ちをこれ以上動かしたくはないと、勝手にクロノは結論づけていた。
そのクロノ情けない姿を見たのじゃシスは、更に声を荒げて言うのでなく、優しく語りかけるようにクロノに向かって言う。
「おぬしは、その女に口も聞けないほど嫌われておったのか」
その言葉にのじゃシスから、クロノは顔を背けて言う。
「……いや……違うよ」
「なら、おぬしが嫌ったのか? おぬしの愛を示す言葉を、一つぐらいはその女に言ったことはあるのか?」
のじゃシスの言葉にクロノは何も言い返すことは出来なかった。そして、クロノはその言葉から言い逃れるように、
「やめてくれのじゃシスさん! もうこれ以上この気持ちを動かしたくないんだ……僕のせいでフィリアをこれ以上困らせたくないんだ! ……それにフィリアとはもう……会えないんだよ……」
クロノは膝から崩れ、苦しみのあまりぽろぽろと涙を流して泣いてしまった。そして泣き沈むクロノのその姿を見たのじゃシスは「それは違うぞ」とハッキリとした口調でクロノに向かって言い切った。
その言葉を聞いたクロノは顔を上げて、すすり泣きをしながら、すがるようにして、のじゃシスに聞き返す。
「……何が……違うの……?」
「おぬしはまだ、その女に会える」
その、のじゃシスが言った言葉に、クロノは光を感じた。そしてクロノはその光を手中に収めようと、のじゃシスを凝視しながら問いかけた。
「どうすれば、またフィリアに会えるの?」
「それは簡単な事じゃ、あの教会に行けばよい。もちろん、今のままのおぬしが行けばまた追い返されるじゃろう。じゃがな、強くなってそれこそおぬしを必要とされれば、あちらもおぬしに助けを求めるじゃろう。それにおぬしがあの方の奇跡や加護をもっておらずともあの方は気にせんよ」
のじゃシスの白い歯を見せた満面の笑みを見たクロノは目を奪われ、心の中にあった闇をかき消した。そして、クロノは目を腕でこすり涙を拭き、目を腫らしながらも、その表情は先ほどとは違い、はれやかとなっていた。
「ありがとう、のじゃシスさん! 僕だってあんな別れ方なんて嫌だ! だから、絶対にもう一度フィリアに会ってみせる!」
完全復活したクロノは声を高らかにして宣言するのであった。
「そうじゃ、その顔じゃ! おぬしはやはりそうでなくてはならない! 大化けしたおぬしのその姿をあいつらに見せてやろうぞ!」
「……でも、どうやって大化けすればいいのかな?」
「それは、シスターであるわらわが、導いてやるから安心するのじゃ!」
のじゃシスは腕組みをし、ふふんと鼻を鳴らして、自信がありそうに言う。そしてクロノは待っていていましたとばかりに、のじゃシスの言葉に耳を傾けて聞こうとして、のじゃシスは言っ放ったのは、
「モンスターといっぱい戦うのじゃ!」
「やっぱりそうなりますよね」
経験第一であるとは思っていたが、もしかしたらと期待していたクロノはその言葉に肩を落としたが、
「でも、フィリアに会う為なら僕は頑張りますよ!」
「そうじゃ、今のおぬしはひたすらにそうすればよい。そうすれば、おぬしを見ている誰かも応援してくれるぞ」
クロノも、のじゃシスの言葉にこくんと、頷きながら
「そうだね。そうしたらまずはクエストに行くとするよ」
「そうじゃな、まずはそこからじゃ」
そう言って、クロノは部屋から出て外に出る準備をするが、すぐにどたどたと足音を立てながら戻って来て、その慌てぶりを見た、のじゃシスは、
「おぬしよ。いったいどうしたのじゃ?」
「そういえば、短剣折られたままだったの、忘れてた」
クロノのその手には、持ち手の部分しかない剣が握られており、その剣を見たのじゃシスは「あちゃー」と声を漏らすのであった。
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