新しいシスターの名前はのじゃシスさん
「んっ……うっ……うん?」
小さくうなり声を出しながらクロノは目覚めた。
どうやら、クロノはベッドに横向きで寝ていたようで、髪が右側だけ押し潰されていた。
「ふぁあああ……」
クロノはまだ眠気を残しながらゆったりと体を起こして伸びをした。
その時に体に痛みが走り「いててて……」と言いながらと顔をしかめた。クロノの体は、アーロンとの戦いによってあちこちが悲鳴を上げていた。ただでさえ馴れていない戦い方をしたので当然といえば当然の状態であった。
それでもクロノは何とかベッドから出て、覚えている限りの曖昧な記憶を思い出す。
記憶を辿ると最後は確か床に倒れていたはずだが、無意識でベッドまでやって来たのかとなるとなぜそうなっていたのか分からなかったが、始めに着ていた服から軽装になっているとなれば、誰かがここまでしてくれたことになるのだが、今のクロノには思い当たる人はいない。
少し考えていると、部屋の外からいい匂いが漂ってきて、クロノはその匂いを辿りながら、軋む体を動かして歩いていくと、
「あっ! ぬしよ、やっと起きたのじゃな! 心配したんじゃよー」
部屋に入ると突如現れた、シスター服を着た大きな蒼い魔石のような目をもった少女が心配そうにクロノを見つめていた。だが、クロノはこの少女の事など知らず一体誰だと思っていた。
「どうしたのじゃぬしよ? あーそうじゃな。まだわらわの事を教えておらんかったの。わらわは教会からおぬしのお世話をしに来たシスターじゃ」
シスター。その言葉にクロノは、ちくりと胸の奥に痛みを感じた。
「わらわは、そうじゃな。のじゃシスさんと、でも言ってくれ」
のじゃシスと名乗った少女はぽんと胸を叩いて言う。
「僕はクロノ。教会から来てくれたんだね。ありがとう」
「礼にはおよばん。シスターの仕事じゃからな。それにわらわがここに来たらクロノがぶっ倒れておったからこれはいかんと思って急いで処置をしたのじゃよ」
のじゃシスはえっへんと言わんばかりに胸を張る。
だけど本当に、のじゃシスがいなければ、今頃クロノはどうなっていたのか分からないと言えるほどクロノは感謝していた。
「それよりもおぬしよ。腹は減っておらぬか?」
そう言われると、急にクロノはお腹が空いていることに気が付く。
「えっああ、そうだね。ぺこぺこかな」
「それじゃ、一緒に食べるぞ」
のじゃシスさんが、用意してくれた朝食は、いつもよりも質素な感じがしたがそれでも、誰かと一緒に食事をとれていることがクロノをそれ以上に満たしてくれた。
朝食を食べ終えたクロノは、のじゃシスさんが淹れてくれたお茶を飲みながら、昨日のあの後に起きた出来事を聞いている。
「なるほど、僕が倒れてからそんなことがあったんだね」
のじゃシスの話によると教会から戻って来たクロノは全てが擦り切れていた。
そんな、クロノを介抱してくれたのは目の前でお茶を飲んでほっこりしているのじゃシスであり、ベッドへの移動なども全てしてくれたようで、クロノはその事に感謝するしかなかった。
「おぬしはそれほど傷を負っておらんかったから、とりあえずわらわの力ででベッドまで運んだっていうわけじゃよ」
両手で容器を持ちながらちびちびと、お茶を飲むのじゃシスさんに、クロノはもう一度お礼をいうと、
「おぬしよ。わらわはシスターじゃ。むしろ当然のことをやったまでじゃよ」
のじゃシスにとってクロノの治療はシスターの仕事であるので、普通の事となるのだが、シスターというものがどのような人を言うのかが、分からなくなっているクロノにとっては、れっきとした恩人である。
「それで、のじゃシスさんは、これからどうするの?」
「そうじゃなー、とりあえずぬしはまだ完治って訳ではなさそうじゃから完治するまではいるつもりじゃよ、それにわらわには目的があるしの」
「そっか、それならのじゃシスさんも部屋はいっぱいあるから好きな所を使っていいよ」
「そうしたら、今貸してもらっておる部屋をそのまま使わせてもらおうぞ」
どうやら、のじゃシスさんは、すでにどこかの部屋を使っていたようだが、今使っている部屋となるとしたら、どこの空き部屋を使っているのかな。
この家ははっきり言って一人では大きすぎるので、クロノでもまだ部屋をすべて把握しきれていないところがあった。
そしてフィリアが居候をする事と家賃が安いのもあってこの家を借りたのだが、フィリアがいなくなってしまったので、これからこの家も、どうするか決めないといけないが、急ぐことでもないのでのじゃシスさんがいる間はとりあえずいる間はここを借りておくとしようと、この時クロノは決めた。
それにフィリアの部屋も、どこかで片づけをしてあげて荷物を持っていってあげないと。
「それで、どこの部屋にしたの?」
「んーとじゃな。女がいたと思われる部屋じゃよ」
「ごっはぁ!」
笑顔で、教えてくれたのじゃシスさんの言葉に、飲んでいたお茶をクロノは吹き出してしまい、そしてお茶で汚れてしまった机をのじゃシスさんは布巾で拭いてくれた。
「おやおや、大丈夫かの」
「ごめんね。のじゃシスさん。でもなんで、その部屋にしたのかな?」
「そうじゃなぁ。あの部屋はいろいろと揃っておったし、他の部屋は掃除をしないといけないぐらい埃もすごかったしのー」
のじゃシスさんはあくまでクロノの世話をしに来たのであって、お手伝いをしに来た訳では無いのである。
正直、フィリアの部屋はどうすればいいのか迷っていたが、まさかのじゃシスさんが使っているとは思ってもいなかった。
「ちなみにぬしと一緒にいた女は、どんな人じゃったのかの?」
「どんなって……」
のじゃシスさんは、首をひねりながら聞いてくるのに対して、その返答にクロノは言葉に詰まった。フィリアと過ごしたのは短い日々だったが、一日一日が今まで経験したことがないぐらい、濃密で忘れられない日々であった。
だからこそ思ってしまう。あの時僕が強ければここにフィリアがいたはずなのに、と。
「そうだね。一言では、言えないかな」
クロノは結局その言葉だけを言うだけで精一杯であった。
しかしのじゃシスさんは、うんうんと頷きながら、
「そうか、そうか。それ程しかわらわには言えぬか。まぁ仕方がないじゃろう。だが、そうすると、分かっている情報は、大きな果実ほどの大きさの乳を持った女だったということぐらいじゃろう」
「ちょっ、ちょっと、のじゃシスさん何を言って……」
「いや、部屋に入っていろいろ漁ったのじゃが、見つけたのは、それはそれは大きな乳パットでな、その大きさにわらわもびっくりしてもうた」
あっはっはと、のじゃシスさんは楽しそうに笑うが、クロノはその事を聞いて顔が青ざめたり赤くなったりしていた。
「確かにフィリアの胸は大きいけど……って、そんなことを言っている場合じゃないよ。のじゃシスさん、あんまり部屋の中にあるものを触らないようにね!」
今度フィリアに荷物を持って行く時に、何かあったら言われるのはクロノである。
そしてそのクロノ言葉に、のじゃシスはぴたっと笑うのを止め、申し訳なそうにうつむき、しょげこんでしまう。またその姿を見たクロノは、
「のじゃシスさん、ごめんよ。少し強く言いすぎた」
「すまん。わらわもやりすぎた……許してくれるかの……?」
うるうる、とのじゃシスは大きな目を潤ませてクロノをじっと見た。
その、のじゃシスの姿を見たクロノは、「もちろんだよ!」と言い、それを聞いたのじゃシスは、にやりと口元を緩めると、
「では、お詫びにこれを渡そうかの」
そう言って、のじゃシスさんはポケットから何かを取り出して、クロノに手渡し、クロノはその手渡された物を見ると、
「ふぉぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ‼ これはちょっと! のじゃシスさん!」
「あっはっはっ! いいー果物入れじゃなぁー。大事に使うのじゃよぉ!」
のじゃシスは先ほどの姿を微塵も見せずに、ひょいっと、クロノにフィリアの持ち物である黒のフリルのついたブラジャーを手渡し、それを受け取ったクロノは顔が真っ赤になり狼狽するのであった。
「どれ、下も持ってこようかのぉ?」
にやにやと笑いながらのじゃシスさんはクロノの表情を見て、終始楽しそうだったのに対して、クロノは、
「のじゃシスさん……これ以上はやめてください……そして、これを元に戻しておいてください……」
クロノはフィリアに続き、のじゃシスにも振り回されるのであった。
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