敵
「それじゃ、特訓に行って来るわ」
「気をつけてね」
特訓場に向かうため部屋をピュリファに任せて部屋を出た。
今日も日課となったクロノとの特訓をする予定だが、最近は調子が良くて自分でも驚くばかりだ。
朝も気持ちよく起きられるようになったし、夜も明日のことを考えてすぐ寝るようにもなった、それにいつも以上に身だしなみも注意するようになったことになりピュリファに言われていた注意も少なくなったものだ。
そんな時にやって来たのはサリメナのお告げ。
シュメルがやって来たかと思えばすぐに伝えられた内容に驚くばかりであったが、シュメルを含め、その従うことが決められているその内容にいつもなら、むしゃくしゃしていたが、今日は何故かすんなり受け入れることが出来たがなぜなのだろう。
だが、その気持ちとは別に後からモヤモヤしていたので吐き出すように言葉にする。
「これから特訓って訳だけど、サリメナめ。やってくれるわね」
クォンにもクロノと同様の情報がシュメルにより伝えられたのだが、聞かされた直後から胸の内に言葉で言い表せないモヤのようなものが渦巻いている感覚があり、そのモヤのせいでその心情は複雑であった。
その複雑な心情は簡単に説明できないほどであったのはクォン本人ですら説明できないので病のようにも思えた。
だが、痛みなどはなくただただ、引っかかるぐらいのものなので経過は見られるだろうが、気になりはする。
それよりも今はクロノとの特訓に集中する為に待ち合わせ場所の特訓場に向かっていると柱に誰か寄りかかっているのに気づいたが、その姿を見た瞬間にクォンの緩んでいた表情は一瞬にして強張った。
その理由は、昨日の水着の件から続いているのだが、その理由を問い詰めでもしたらまた面倒になるに違いないので、口に出さない様に唇をきゅっと閉じた。
気づかないふりをして立ち去ろうとしてもその道を通らないと特訓場に行けない。
少しだけ早めに歩いて過ぎ去ろうとした時にやはり声をかけられる。
「ねぇ。あんた。少しだけいいかしら?」
呟かれた言葉は普段のクォンなら聞き逃してしまうかもしれなかったほど小さい声だったが、その言葉は耳のそばで言われたのかと思えるほどよく耳に入ったため自然とその足を止めてしまう。
また止めてしまったからには黙っている訳にもいかないので、共通話題でも切り出す。
「冥獄凶醒っていう敵が現れたようね。いよいよあたしも戦うのかと思うと少しばかり気が滅入るわね」
「なに? 嫌なの?」
「もちろん嫌だけど。でもクロノがいるなら悪くないかな」
クォンは表情を緩めながらその言葉を口にし、その姿を見たフィリアは残念そうにそっと瞼を閉じた。
「そっか。やっぱりあんたは私の敵のようね」
「敵って……、そんな言い方はないんじゃない。それに私達の敵は冥獄凶醒でしょ。だからあたし達は敵を倒す仲間であるはずよ」
その言葉にフィリアは首を横に振る。
「いえ、その敵ではないわ。私が言っているのは……クォン。あなたが、私の恋敵ということよ」
「ッ――――」
クォンは言葉を失った。
だが、そのフィリアに伝えられた言葉は何よりも深く奥に響いて全身に伝わった。
「やっぱり、その感じからして間違いないようね」
フィリアは残念そうに眉をひそめた。
「だからってなに? 本当にあたしが恋をしているなんてわからないじゃないの」
クォンは証拠なき言われに口を尖らせて反論する。
「そんなことは無いはずよ。クォン。あなたならもう分っているでしょ。クロノちゃんといる時にあなたは、自分と同じ境遇であるクロノちゃんに全てを理解してもらおうとしている。そして、それはさらに自然と近くにいたいと欲求を生み出し続けている。どう違うかしら?」
フィリアの話を聞き終え数秒クォンは黙ってしまうが、すぐに表情を緩めた。
「ふっふふふ。ははははははは。あーあ。あんたやっぱり恐ろしいわ。さすがクロノに最も近くにいるだけあるわね。そうよ、あたしは同じ使徒であるクロノに想いを寄せているわ。それが、どんどん大きくなっていたのも分かっているし、もっと見てほしいし近くにいたいとも思っているわ。でもだから何? 恋は自由じゃないの?」
クォンは、はっきりと隠すことなくフィリアにその秘めたる想いを伝えた。
「もちろん自由よ。でもクロノちゃんは私が最初に見つけたの。だから誰にも渡す気はないわ」
「最初がどうとか関係ないわ。最後に手にしたものが勝者じゃないの? ならまだ分からないじゃない」
フィリアもクォンも一歩も譲らない舌戦は更に苛烈に言い争われると思われたが、フィリアの一言で全てが終わる。
「だから決着をつけましょう」
「そうね。模擬戦で決着をつけましょうか」
その一言を言い終え二人はすれ違うようにしてその場を去るのであった。
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