いい夢みてね
「ただいまー。って言っても誰もいないか」
いつもの癖で挨拶をしてしまうのはきっと治ることは無いだろう。しかしたまに来訪者が来ていたりもするので必ずしも無駄になるわけではない。
それにまだその可能性だってないわけではないので、部屋中に入って荷物を置いてから台所や、居間などを見て行くが今のところ誰もいない。
最後に来訪者が来ている可能性が最も高い寝室に向かうがその場所にも誰の人影も見られなかった。
「本当に誰もいないのか」
フィリアはともかく、リフィアが来ている可能性はあったので、それなりに準備はしていたのだが、誰もいないのであれば、それはそれでゆっくりさせてもらおうと椅子の背もたれに手をかけた時にかちゃりと鍵が差し込まれ開く音がする。
この時玄関から鍵を開けてやって来るとした考えられる人物はただ一人だけなので、その姿が見えるよりも前にその人物の名を呼ぶ。
「フィリアでしょ。こっちにおいでよ」
いつもであれば誰もいないはずの部屋なので、特に警戒をしていなかったが、クロノに呼ばれることが予想外だったのか、扉の奥の方でガサガサと慌てたような音がしてから少してゆっくりとその顔を覗かせた。
「クロノちゃん、もう帰っていたの?」
フィリアは珍しくおどおどしたような声音で話かけてくる。
「さっき帰って来たばかりだけどね。とりあえずこっちに来て座りなよ」
クロノに手招きされると大人しくフィリアは隣に腰を下ろした。
「クロノちゃん。迷惑かけてごめんね。私ったらあの女に絶対に勝てると思っていたから悔しくて……」
歯切れの悪い話口調とその姿を見るからにどうやらその言葉はフィリアの本音のようだった。
どんな時でも常に自分らしさを出しているフィリアにとってあの勝負では珍しくクォンに対抗する戦いを望み、負けてしまったのだ。
「やっぱりそうだったんだ。でも、クォンには迷惑をかけてしまったからそれは、よくないよね」
「そうよね。だから頭が冷えてからちゃんと手紙を用意して、服も返してきたわ。それに本来の私を出していたら圧勝していたからに違いないんだから」
その自信を持った声音に、クロノはいつものフィリアであることに安心したが、フィリアにはまだ悔しさは残っていた。
あの勝負の判断基準はクロノの独断によるもので人数や人を変えればフィリアだって勝利していた可能性は充分にありえると断言できる。
しかし、そのような勝利などフィリアにとって無意味であった。
クロノだけに見てもらって勝利する。
しかも、それはクォンが有利である中で勝ちたかったのだ。
またその気持ちが芽生えたのは、あの戦いの中で生まれたものではなく、それより前であった。
「そっか。それならよかった」
「それでね、最後に仕上げをすれば問題ないと思ってあの後に買い物もして来たの」
フィリアは立ち上がって玄関の方へと向かってからすぐに何かを抱えて戻って来る。
「フィリアなにそれ?」
「これは私が選んだお酒よ! あの忌々しい記憶を消すためにもこいつを飲みましょう!」
フィリアが、どん、と音を立てて置いたのは酒がたっぷり入った瓶であった。
「これもしかして全部飲むの⁉」
「もちろんよ。これだけ飲んで気持ちよく寝れば明日には全部忘れて楽しく過ごせるわ!」
一人で笑っているフィリアは見て、やっぱりまだ根に持っているようだしどんな酒なのか気になって見てみるといつもよりキツめの酒であった。
それにこのお酒の名前が神殺しって。シスターがこれを飲んでもいいのかと思ったが、今の状態のフィリアを止められそうにないので、ここは付き合うしかないのだろう。
「さて飲むわよー!」
張りきっているフィリアからたっぷり注がれたお酒をもらって二人は飲み始めるのであった。
クロノがその後、気がついたのは飲み始めてからそれなりに時間が経ったあとであった。近くには神殺しと書かれている酒瓶が空になって転がっていることからどうやら本当に二人で全部飲み干してしまったようだ。
そのかわりに今もズキズキと脳を圧迫されるような頭痛が響いており、すぐにコップに水を注いで飲む。
コップを片手に部屋を歩いているとフィリアが床に仰向けになって寝ていたが、その服装はいつものシスター服ではなく、なぜか水着姿であった。
しかもそれはフィリアによく似合うクール目の水着であり、酒を飲んでいる間に披露されていたようだ。
うずくまって寝ているフィリアは気持ちよさそう寝ているので問題は無さそうだが、このままだと体が冷えてしまうので、コップを机に置いてから、毛布を引っ張って持って来てからフィリアを包み込むようにかけてあげると、自然と毛布を自分の方へと寄せていた。
それを見届けていると、クロノもあくびをして眠くなったのでベッドで寝ようかと思ったが、フィリアをおいて寝るのは嫌だったので、毛布にくるまったフィリアを起こさない様に抱き上げてベッドへと向かうのであった。
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