審査結果
その頃試着室で着替え終えたクォンもフィリアの姿を見て表情を歪めた。
「あいつ、普段なら絶対にあの選択はしないでしょ……」
フィリアが可愛さを取り入れた理由はただ一つ。クォンが選びそうな水着の種類を選ぶことによって水着での評価を同等にさせることであった。
水着が似ていればあとは評価するところはその着ている本人たちとなる。
肌の露出は頑張ればどうにかなるが体つきついてはクォンの方がフィリアよりもやや劣ってしまう。
そこをついたフィリアは、クォンが選びそうな水着の種類を選択することにより状況を優位にして勝負を決めにいったのだ。
またクォンが選んだ水着もフィリアとは少し違ったタイプなのだが、根本的な造りが同じ可愛めなのは間違いない。
「どうしよ……。あの女に勝ちたいけどこの状況どうすればいいのよ……」
せめて先に見せておけば状況は変わっていたかもしれないが、すでにそれは後悔にしかならない。
それにこれ以上可愛さを追求してしまうとどうしても子供っぽくなってしまうので、それを着た姿を想像するだけで、背筋が寒くなった。
でもこれでは負けてしまうので、クォンは今からできる手段を考えてみて、思いついたのは、可愛さを捨てて別の何かにする、マニアックなところで意外性をつく、露出を増やす。……ダメだ。これでは勝負に勝ってもあたしが社会的に死ぬ。
クォンは水着を着たまま頭を抱えてうずくまり、頭をひねって考える。それにもし今の選択肢で、もしクロノに好かれるようであれば、クロノもそれなりに特殊な性癖を持っている可能性が考えられることになるので、いろいろな視点から見ても良くないので考えなおそう。
だが、どうすればいいか考えがまとまらない。
「ねぇ、ちょっといいかしら?」
フィリアが試着室の前に来ており扉を軽くノックして中にいるクォンに話しかける。
「……なによ」
「いいから。扉を少しだけ開けてちょうだい」
フィリアに言われて警戒したが、ここはまだ店内なので何かしてくることはないだろう。
「はい。開けたわよ」
「ありがと。ふーんちゃんと水着は選んだようね。それで勝負するの?」
「い、いやまだだ。まだ……決まっていない」
「なるほど」
するとフィリアは試着室の中に入ってクォンの着ていた服を全てかっさらってしまう。
「ちょっと! あんた何すんのよ⁉」
「だって遅いからこうでもしないと、勝負が出来ないでしょ。それに悩んだって勝負はついているんだから、諦めて出て来なさいよ」
「それはわかったから、服を返しなさいよ! ああもう! 下着とか見えるって! ちょっと待ちなさいってば!」
クォンの悲鳴じみた声に気にすることなく、クォンが着ていたものを観察する。
「へー、下着もこういうの履いているんだ。ほんと、予想通りね」
「ちょっと見んな! いいから返しなさいよ!」
「やーよ。ほら、取り返したいなら出て来なさいよ」
「この……待ちなさい!」
フィリアを追いかけていると、クォンは水着を着たままクロノの前に出て来てしまう。
「ほら、クロノちゃん。あいつも出来て来たから審査を始めてね」
「う……ぐ……」
余裕な表情のフィリアとどこか悔しそうにしているクォンを見ているとその姿は対照的であった。
クォンが着ている水着はフリルのついた水玉柄で、右の太腿に着けている黒のシュシュが白い肌をより鮮明にさせていた。
フィリアは持っていたクォンの服を自分の服の上に置いてご自慢の胸を抱くようにして腕組みした。
「さぁ審査開始ね」
「……そうね。よろしく」
二人の審査を開始したクロノであったが、二人共水着を上手に着こなしており、お互いにとても似合っているからこそ、甲乙つけ難い状況となっている。
フィリアについてはいつもの通り自身が持つ全てに自信を持って見せつけ、さらに今回は可愛さを追加しその容姿は小悪魔のように感じられた。
それに対してクォンはいつもの感じとは違い、手を前で組んで小さくしている姿から感じられる愛くるしさのようなものがあり、本人に言ったらそうじゃないと言って怒ると思われるが、それがとてもよく思えたのだ。
しかし、こうして選んでみると二人共とてもいいので引き分けにしたいのだが、絶対にそれだけは許されないだろう。
クロノは二人が着ている水着もう一度を見て、そっと目を閉じて数舜考えると、その答えに辿り着き声を出す。
「まずは二人共ともとっても似合っていて良かったよ。本当は引き分けにしたかったけどそれだと二人は納得しないと思ったから僕なりに答えを出したよ。僕が良かったと思ったのは――――クォンだ」
「……ふぇ?」
「ええええええええええええええええええええええっ⁉ なんでよクロノちゃん! どうしてよ!」
負けると思っていたクォンは予想と違った展開に頭が追いついておらず、放心状態のようになっているのに対して、納得がいかないフィリアはクロノに言い寄っていた。
「落ち着いてちゃんと説明するから」
フィリアを落ち着かせている間に、クォンもようやく自分が勝ったことに気がつき始めるとその表情は少しずつ緩んでいた。
「それはね。クォンの方が可愛かっだぁあああああああああああ、フィリア……苦じぃいんだけど……」
「へぇ、クロノちゃんは私が可愛くないっていうんだ……。これは躾が必要ね」
魔神のような殺気を放ちながらフィリアはクロノの両手で首元を掴んだ。
「ちょっと! クロノが苦しんでいるでしょ!」
それを見ていたクォンがすかさずクロノを救出する。
「ありがとうクォン。助かった。それでね。本当に僅差だったんだけど、その差がついたのは可愛い水着を着て似合うのはクォンかなって思ってさ。フィリアももちろん可愛いけど、どちらかと言うと、フィリアは凛とした感じが似合っていると僕は思っているから、もしいつも通りであれば、フィリアを選んでいたかもしれない」
「そんなぁ。嘘でしょ……まさか負けるなんて……」
フィリアはクロノの言葉を聞いて自分がしてしまったミスを悔やんだ。
「さて、あたしが勝ったからまずは謝ってもらうとするわ」
クォンもいつもの元気を取り戻すと今度は馬鹿にしたフィリアに謝るよう要求する。
勝負には負け、更にクォンにまで頭を下げなくてはならないと思ったフィリアはその姿を想像し、その悔しさで奥歯を噛みしめた。
「ご……」
クォンは待っていたその一言が出てこようとした時、表情を緩めた。
「ご? その次は?」
「ご……こんなの絶対に認めないんだからー‼」
「あ、ちょっと! あたしの服まで持って行かないでよ!」
フィリアは自分の服と一緒にクォンの服まで一緒に持って水着のまま走り去ってしまった。
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