セラの新しい力
「うげぇぇええ。ぐぢの中に砂入ったぁ……きぼぢわるぅ」
とてつもない轟音に死を覚悟したセラは、その後暴風にさらされ軽く吹き飛ばされた後に砂を頭からかぶってしまい、全身砂まみれとなってしまっていた。
ふらふらになりながら立ち上り、服も髪も砂まみれになっていたのですぐにでも落としたかったが、とにかく口の中がじゃりじゃりして気持ちが悪いので、まずは奇跡で生成した水で口の中を洗い流してスッキリさせると今度は加護を使って服や髪を吹き飛ばされる前と同様になるまで整えた。
「こういう困った時って本当にリフィア様の力が役に立つわね」
セラは与えられている力に感謝したのだが、この力の使い方をリフィアが知ってしまったとしたら、きっとその心境は複雑だっただろう。
「さて、なんとかセラも無事のようだし、怪我もしていないから良かったわ。本当にセラは運だけは見放されていないのかも」
運に見放されていないと信じていると、なんだか気持ちもスッキリしたので、またさっきの轟音が起きる前に部屋に戻ろうとすると、足元に何かがあたって少しだけ蹴飛ばしてしまった。
セラは蹴飛ばした何かを拾い上げてまじまじと見る。
「これって、短剣かしら?」
形からして短剣のように見えたが柄の部分を引っ張ってもなかなか剣が抜けない。周りも暗いため良く見えないので、目に近づけて見たところかなり年期の入った短剣のようだった。
見た目からして古そうなので、中の剣は錆びてしまっているのかもしれない。
でも、見た目は悪くないので、綺麗にして部屋の飾りにでもしておけばそれなりに雰囲気が出ていいかもしれないし、このような古びた武器は一部の人には価値があってそれなりに売れるかもしれないので、とりあえずもらっておこうとしたその時だった。
「嬢ちゃん。体が小さい割には、いいもん持ってんじゃねぇか」
急に声がしたのでセラは周辺をキョロキョロと見渡したがそこには誰もいなかった。
「え? 誰かいるの?」
「いやいや、嬢ちゃん。ここだぜ。ここ」
「いやだからどこなのよ」
「だからずっと俺は嬢ちゃんの手の中にあるぜって言ってんだろ」
セラは言われて視線を下に向けてみる。
「え? まさかこの短剣からなの?」
「おいおい、ずっと言ってるじゃねぇか。それに嬢ちゃんが力を欲していたようだし、俺も最近になってようやく力を貸してやってもいいかなって思ってきたところなんだよ……ってなんで俺を投げるんだぁああああ‼」
セラは出来るだけ遠くに短剣を投げ飛ばし、手を前に突き出して警戒した。
「そりゃそうよ! セラは確かに力が欲しかったけど、こうしてすぐに手に入って喜ぶほど単純じゃないわ! それに悪い奴ほど弱っている相手につけこんでくるって知っているんだからね」
「いやいや、俺は本当に人族に力を貸すかわりにいろいろと他の世界を見たくなっただけなんだよ! だから嬢ちゃんを騙すとか一切考えていないんだ! 信じてくれ!」
「ほらやっぱり見返りを求めているじゃない! それにどうせ力を貸して欲しければもっと要求をしてくるに違いないわ!」
セラは短剣に照準を合わせて奇跡をいつでも放てる準備をする。
「おいいいいいいっ! 嬢ちゃん待て! 早まるな! 確かに要求はしたが俺はしっかりと約束は守るし変な契約も一切しない! 普通に嬢ちゃんが俺に魔力を流してくれれば、それだけで充分なんだ!」
「嘘よ! そういって騙すに違いないわ!」
「いやいやいや。信じろって!」
必死に短剣が説明するので、セラは少しだけ警戒を緩めて、短剣に話かける。
「それじゃあなに? 本当にセラと一緒に行動するだけで力を貸してくれるの?」
「初めからそうだって言ってんだろ」
「それであんたは強いの?」
「自分で言うのもあれだが俺は強いぞ。だがな、その強さを引き出すのは嬢ちゃんの腕次第だ」
「なるほどね。でも強いならそれだけまずは充分だわ。今のセラはお金も力もないから、それだけがセラが一番に欲していたものだもの」
セラは短剣を拾い上げて、両手で包み込むようにして持つ。
「それで、あんたはどうやったら力を貸してくれるの?」
短剣なら少しの間なら使っていたし、ちょうどクロノも短剣使いだったので、またあの時と同じように教えてもらうこともできる。
「力に関しては、いつでも貸せる状態だ。ちなみに俺はただ住処としてこの短剣を気にいっているだけだから、この短剣は短剣として使えないぞ」
「え? それじゃどうやって戦うの?」
「試しにやってみるとするか。嬢ちゃん。目の前を斬るように俺を横に振ってみてくれないか」
「こうかしら?」
セラは短剣に言われた通り横に振ってみると雷撃が放たれ、この力にセラは目を丸めて驚いた。
「どうだ。俺の力はすごいだろ」
「ええ、すごすぎて言葉が出ないわよ」
まさかこの短剣にこれ程の力が備わっているとは思っていなかったセラはこの結果に驚きを隠せずにいられなかったのと同時に、失われていた自信が取り戻されようとする前兆のような期待が体中を巡っていた。
「これでもまだまだ出来は悪い方だ。これから嬢ちゃんとなんども調整して技にしていかないとな」
「ええ、そうね。セラもそう思うわ。あとそういえば契約とかしないの?」
「だから言っただろ。変な契約とかもしないって。あとは嬢ちゃんが俺の約束をちゃんと守ってくればいいだけだ」
「約束ってさっき言っていた。色々見たいっていうあれのこと?」
「そうだ。俺は基本引きこもっているのが好きだったが、さっきの空震で砂から出てきて俺が知っていた姿と変わっていてな。少し外の世界に興味を持ったのだよ」
すでに疑ってはいないがどうやら本当にこの短剣に宿る妖精はこの世界のことが気になっているようだ。
「それなら名前を教えて。これから一緒に行動するのに名前を知らないのはよくないでしょ」
「そうだな。おまえはセラっていう名前だろうと分かっていたが、俺の名前を教えていなかったな。俺の名前はトールだ」
「トールね。分かった。覚えておく。あとはトールを約束通り毎日散歩に連れて行けばいいのね」
「確かにそうかもしれないがその言い方はだけはやめてくれ」
セラは新たな力である妖精トールが宿った短剣を手にして、行きとは違った足取りで学園へと戻って行くのであった。
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