中間管理職シュメルさんの苦悩
「疲れたみゃ~。クォンちゃんはみゃー達では結局見つからなかったみゃし、戻って来てから仕事に追われるなんて最悪な一日だみゃ~」
「そうっすね。クォンが普通に帰って来てたらしいっすし、クロノ様特に怪我も無かったようっすし、とりあえずは何もなくてよかったっす」
「でも、それでお姉さんたちが仕事に追われるなんて聞いてないわよー」
「タルティーさぁはとにかく手を動かしてほしいどん。これじゃ終わらないどん」
クォンが持ち出したグローブが、不良品と知ったタルティーとアビッソは、学園内を探している途中にブツブツと何かを口ずさんでいたシュメルを見つけて一緒に捜索を手伝ってもらいながら学園中をくまなく探したが、見つからなかった為、外に出ていることに気づいた時には、すでにクォン達が戻って来ていたのだ。
シスターから聞いた話によるとクロノも特に怪我をしている様子はなく至って普通と聞いているので安心したが、気づけばたんまりと溜まった仕事がシュメル達を待っていたのだ。
「いーじゃない! スラドンは探していないんだから! お姉さんたちなんてこの仕事と捜索をさせられているのよ!」
「そんなこと知らないどん。おいどんは自分の仕事を終わらせたのに、巻き込まれたどん」
「そー言わないでほしいっす。ほら、スラドンが困った時にはうちらが助けてあげるっすから」
「それはそれで、きてほしくないどん」
てきぱきと仕事を片付けていると、ようやく終わりが見えてきたことに、四人の表情は明るさを取り戻していた。
「あと、もう少しで終わりっす」
「ようやく終わるのね。お姉さんとっても疲れた~」
「もう少しだどん。気張るんだどん」
そして最後の一枚が終わると四人は一斉に声を上げた。
「終わったみゃ~!」
「長かったっす」
「お姉さん、もう無理~」
全ての仕事をやり終えて四人はようやく安息の時間を手にすることができたのだ。
「それでは、おいどんはお暇させてもらうどん」
「助かったみゃ。スラドン。ありがとうみゃ」
スラドンは仕事を終えるとゆっくりとそのプニプニした体を震わせながら部屋から出て行くのであった。
「それじゃ、お姉さん達も部屋に戻るとしますか」
「そうっすね。シュメルお疲れっす!」
「ちょっと待ってほしいみゃ。二人にも聞いてほしい話があるのみゃ」
シュメルが両手を合わせて懇願する姿に二人はただ事ではないと思い、心配そうに声をかける。
「どうしたのシュメル。なにか悩み事があるならお姉さんが聞いてあげるわよ」
「そうっすよ。うちらはどんな困難があっても一緒に乗り越えて来た仲間っすよ」
「二人共……ありがとうみゃ」
「それでその聞いてほしい話って?」
「うん。それはだみゃ。二人はクォンちゃんが立派な母親になれると思うかみゃ?」
『……え?』
シュメルの悩みを聞いた二人は揃ってその質問に疑問を感じた。
「シュメル。ちょっと待って……クォンちゃんが母親になるっていったいどういうこと?」
タルティーは仕事の疲れもあるのか、シュメルが言った言葉が整理出来なかったため、額に指をあてて考え込んでしまった。
「シュメル。一応確認しておきたいっすけど。それはあれっすか。将来クォンが誰か好きな人が出来たらとかいう話っすか?」
アビッソは質問に対して間違った認識をしない様に注意して問いかける。
「言ってしまえばそうみゃ。それで二人から見て今のクォンちゃんが母親になれると思うみゃか? ……って二人共どうしたのみゃ?」
「どうしたって、お姉さんはクォンちゃんがいつの間にか子供をお腹に宿しているとおもっちゃったじゃない!」
「うちもそうっす! あのクォンが子供を作るなんて相手も知らないのに驚いたっす!」
「そうじゃないみゃ。もしかしたらの話みゃよ!」
「なーんだ。たらればの話だったのね」
「良かったっす。もし急にクォンが知らない内にいろいろと育んでいて、言われた時には驚いて何を口にしてしまうか予想もつかないっす」
二人が胸を撫でおろしている姿を見て、とある事情を抱えているシュメルは複雑な気持ちになった。
「それでその事についてもしもの話だけど、もしそうなったらその子の為にも母親になるしかないんだから、なってもらうしかないと思うけど、クォンちゃんの相手になる人次第だしちょっとお姉さんにはわからないなー」
「うちもタルティーと同じっすね。それにこの間も話したっすけどクォンはまだそういう恋とかには興味ないって言っていたっすから、子供うんぬんよりもまずは相手を探すところからだと思うっす」
「そうなのかみゃ。クォンちゃんもそう言っていたのかみゃ」
「でも考えてみれば、クォンちゃんと釣り合うような男なんてそんなにいないんじゃないのかしら?」
「意外とあの第一学園から来たクロノ様と特訓していたら仲良くなっていろいろとしてしまうんじゃないっすか」
「えーそれならそれで驚いちゃうわよ」
「そうっすね」
二人はけらけらと笑っていたが、シュメルの表情は固かった。
「でもとりあえず、クォンちゃんも子供を作る気もないし、相手もいないのみゃな」
「そうだと思うけどクォンちゃん大好きシュメルならその結果は嬉しいんじゃないの?」
「確かにそうだけどみゃ……」
シュメルには二人が知らないある指令を受けていた為、その結果に素直に喜ぶことができなかった。
「しかし、なんでそんなことを聞いたっすか?」
「それはだみゃ……」
マズい。理由を考えていなかったみゃ。
シュメルはなんて言おうか、考えようとした次の瞬間だった。
窓の外が白くなったと思ったらズッドッォォオオオンと遠くの方で音がした。
「おー。今日の空震は響くっすね~」
「今日は一日中天気も良かったから空中に魔力が溜まっていたのかしらね」
ヴィゼン王国の海岸はその特殊な形状により海上に魔力が集まりやすいのだ。
そしてその魔力が集まり摩擦を起こすことによって、空震と呼ばれる魔法となって魔力が消費されながら海に魔力が注がれるのだが、空震は魔法の形が整っていないので、途中から崩壊し海面に到達するときにはすでに消滅しているのだ。
だが、発動した時の衝撃波は残っているので、強風となって海岸に吹き荒れるので、こうした一日中天気の良い日は海岸に行かない方がいいのである。
その空震が発生したおかげで、時間が出来たのでシュメルはその間に返事を準備することができた。
「さっきの話だけどみゃ」
「ああ、もういいっすよ。さっきの話はクォン大好きなシュメルの妄想ってことにしておくっすから」
「でもシュメルもそんな妄想ばかりしているとクォンちゃんに嫌われるかもしれないから気をつけないといけないわよ」
「ううっ。分かっているみゃ」
「それならよし。それじゃまたね!」
「お疲れっす!」
「二人共お疲れみゃ」
シュメルは二人を見送り一人だけになった部屋で小さくため息をついて、椅子に腰かけるのであった。
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