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セラの憂鬱


 ヴィゼン王国の海は雲一つない空から差し込んだ月明りに照らされて幻想的に輝いており、昼と同様に風も波も穏やかであった為、浜辺は最高の状態と言っても過言ではないぐらいであった。

 

 そしてその最高の浜辺には一人を除いて誰も利用者がおらず、一人の利用者が独占していたのだが、その者の心情は穏やかではなかった。


「あーもー! なんでよ! なんでセラには何もいいことが起きないのよ!」

 

 その利用者であるリフィアの刻印を目に宿し輝く銀髪シスターのセラは海に向かって叫んでいた。

 

 アルチベータとの一件以降、ほとんど全ての財産を失い、さらにその財産を築こうしているが、上手く立ち行っていなかった。


「お金も全然集まらないし、それよりも昨日のあのイベントにはがっかりだわ。せっかくセラが期待するほど楽しみにしていたのに、内容は子供向けでただのお菓子がもらえるイベントだったなんて。でもおかげで学園の人にはすごく感謝されたけど、セラが欲しいのはそれじゃないのよね」

 

 セラが参加したイベントは妖精と会おうという内容のイベントであり、過去に妖精使いになった人がいたらしく、それにならって行われたイベントであるが、セラは本気で妖精と契約する気でいたのだ。

 

 妖精と言えば、単体では弱い場合がほとんどであるが、契約者と共に力を発揮する事でその力を何倍にもすることができるのだ。

 

 なのでかなり期待をしていたのだが、こうして期待が大きいほど期待外れになるとダメ―ジも大きかったのだ。

 

 また一緒に来ていたイフルは妖精役のお手伝いをすることになり、ご自慢の能力である火を無効にする能力のおかげで着ぐるみ内の熱気には対応する事が出来たが、普段使っていない筋肉を使ったのでかなり疲労していたのだ。


 ふらふらになりながら廊下を歩いていると、昨日一緒にイベントに参加していたシスターと出会って、事情を説明するとそれならば一緒に来ないかと言われてついて行くと温泉に到着し、そのシスターのおススメでいろんな種類の温泉に入って来たおかげで、夕方に戻って来た時にはすごく満足そうにしており、その弾んだ言葉とツルツルになった肌を見せつけられた気がして苛立ったのと、イフルが着替える時に見てしまった胸の大きさとその艶姿に、セラでさえ色っぽく感じてしまったことに腹が立った。

 

 はんっ! なによ。昨日は海藻の妖精役だったくせに。

 

 それで結局イフルからアクアミラビリスの温泉の違いについていろいろと話されたあとに、なんか悔しくなってこうして海を見に来たのだ。


「フィリアも順調にクロノ様との仲を進展させているし……はぁぁぁああああああ。本当にセラだけ遅れをとっちゃっているなぁ」

 

 しょんぼりと肩を落とすセラに慰める者はこの場にはいない。

 

 また、セラはヴィゼン王国に来てからほとんどクロノと会っておらず、その理由はやはり消え去りきれない後ろめたさであった。

 

 セラはリフィアの力を充分に発揮しており、奇跡と加護は並み以上の力を保持している。その中でも奇跡を応用した力に長けていたので、その力で作り出したものを使いこなしてAランクに認められていたのだ。

 

 だが、その力はアルチベータとの戦いによって全て失われた。

 

 命があるだけよかったと言えば、美談の様にも聞こえるが、その時まであった自信と誇りもあの時に失われてしまった。

 

 時間をかければきっとまたあの時の力は手に入れることは出来るだろうが、ここまで費やしてきた時間についてはセラ本人がよくわかっている。

 

 また、あの時と同等の力を取り戻した時に、今のような関係でいられる自信は全くと言っていいほどなかった。


「クロノ様もフィリアもどんどん前に行ってしまうなぁ。どうせならセラも連れて行ってよ」

 

 ヴィゼン王国で着実に力をつけるクロノと、常に自分らしさを保ちながらその隣を歩き続けるフィリアが羨ましかった。

 

 砂を指でイジリながら、悩みを口にしたことにより、悔しさが残ったが少しだけスッキリしたので、諦めて部屋に戻ろうとした時に空に流れるように落下する流れ星を見つけると、すぐにお願い事をこれでもかというぐらい必死にねだった。


「……力を下さい。力を下さい‼ 力を下さいッ‼」 

 

 すでにリフィアから力を与えられているセラだったがここでは、貪欲に更に力を欲した。だが、夜空に向かって叫んでも何も起こらず、ただただ喉が痛くなるだけだった。


「はぁ。帰ろ」

 

 そのまま部屋に帰ろうとすると、空が白く輝いたと思った次の瞬間にピキュウウウウィィィィイイイイインンンッッと周囲の空気を震わせるように何かが響いた。


「なに……何が起きているの……」

 

 何かの攻撃かと思われるその音に、周辺を見渡しセラはこのわけのわからない恐怖に涙目になっていると、ズッッドドドドドドドドドドォォォォォオオオオオオオオオンンッッッと夜空から白い閃光が海面に向かって落ちるのを見て呟いた。


「あ、終わった」


最後まで読んでいただきありがとうございます! ブックマークをしていただいた方ありがとうございます! 引き続きブックマーク、評価、感想をお待ちしております!

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