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浜辺の語り合い

 さくさくと足音を立てながら浜風に吹かれてフィリアは浜辺を歩いていた。

 

 フィリアがこの場所に来たのも、特にやることがないからだった。

 

 もともとこの学園に来たのは、クロノが同じ使徒であるクォンにいろいろと教えてもらう為に、来たのであって、特に目的のないお供である三人は本来ならば学園の手伝いや交流をするべきなのだが、性に合わないので好きにさせてもらっているのだ。


 またセラやイフルもどうせやることがないのであれば一緒に来るように誘おうとしたが、とある理由によりやめることにした。


 その理由は、朝クロノと一緒に朝食を済ませて部屋に戻ると、中からどんよりとした雰囲気を感じとり、気づかれない様にそっと見てみると、頬杖をついて憂鬱そうに海を眺めるセラと、体が痛むのかゆっくりと行動しているイフルを見て、これは絡まれると面倒だととっさに思い、フィリアは必要な物だけをとって、中にいる二人と関わらない様に部屋を出て来たのだ。


 浜辺をさらに歩き進めるとちょうど座るには良さそうな流木を見つけて腰を下ろし、海を眺めながらどうして二人があのようになったのか思い返してみると、セラとイフルは昨日の夜に、第二学園のイベントに参加していたのであった。


 セラが一人でうるさいぐらいにはしゃいでいたので、覚えていたがフィリアにとってはただの子供向けのイベントぐらいにしか記憶に残っていなかった。


 イフルについてはセラに誘われたか、真面目な性格によって参加して張り切ったのか、分からないが、どちらにせよいつも以上に体を酷使したのだろう。

 

 で、結局私が朝、部屋に行ったときにセラがあの状態になったということは、あてが外れたのだろう。所詮は子供向けのイベントであるから当然と言えば当然だろうし、戻った時にまだ元気がなければ、昔のよしみで慰めてあげてもいいだろう。


 でも、とりあえず後の始末はイフルに任せておくとして、私は普段ではあまり見られない海を堪能させてもらおうとしよう。

 

 波も穏やかで、海面も澄んでいるため天気がいい今日のような日は海面までよく見える。

 

 最近にはなかった穏やかで平和な時間を堪能していると、一人の少女の声がする。


「あら? あなたは客人のフィリアさんではないですか」

 

 別の要件で浜辺に来ていたピュリファが、フィリアを見つけると近づいて来る。


「ええっとピュリファだったっけ? ここで何をしているの」

 

 ピュリファに対して、様付けしないのは特定人物だけであり、ほとんどの人が様付けして呼んでいるので、まさか呼び捨てで名を言われると思っていなかったピュリファは少しだけ驚くような表情であったが、すぐに元の優しい顔へと戻る。


「ごめんなさい。お隣いいですか?」

「いいわよ。それで何をしに来たの?」

「私も海を見に来ました」

「へー。国の象徴も暇なのね」

 

 この言葉に皮肉の類など一切なく、ただ思ったことを口にしていた。


「そうです。暇なのです。象徴といえども、現在ヴィゼン王国はほとんど鎖国状態なので、象徴としての役割は限られますし、いつもならクォンや他の人達に構ってもらっていますが、今日は忙しいようなので、誰も相手をしてくれないんです」

「そうなのね。まぁ私も同じようなものか」

 

 ピュリファは不服そうに頬を少しだけ膨らませ、フィリアは海に向かって小さく息を吐いた。


「それにこの海を見ると今日も平和なんだって思うんです。この海が荒れていた時は個のヴィゼン王国……いえ、なる前の国家がまとまっていませんでしたから」

「そうね。この国はようやく落ち着くことができたものね。長い間続いていた戦争をサリメナという神がおさめたとしても、平和を望む声は多かったでしょうに」

「フィリアさんはヴィゼン王国の歴史を知っているのですね」

「少しだけね」

「そうなのですね。たしかにサリメナ様に感謝している種族は多いと思いますし、私もその一人ですから」

「せっかく平和になったのにそこで冥獄凶醒(めいごくきょうせい)という敵がいるのは残念だけど、常に争いや戦いがあるこの世界では特に言う必要はないわね」

「その冥獄凶醒とやらの話は少しだけ聞いております。まだ情報も少なくて苦労しているところもありますが、クロノ様はその冥獄凶醒を二体も退いたそうですし、そのおかげでクォンにも情報が手に入っていますのでありがたいです」

 

 ピュリファが口角を上げて話す姿を見てフィリアは話を続ける。


「その代わりに、クロノちゃんは特訓をさせてもらっているけどね。でもあの使徒にその特訓の相手が務まるのかしら」

 

 その言葉にピュリファは反射するように反応し、思った言葉を口に出す。


「それは、クォンに何か悪いところがあるというのですか?」

「いえ、そうじゃないわ。ただ、始めて朝食で会った時の話で少しだけ感じたものがあったけど、考えて見えれば私の予想は当たっている気がするわ。それに私。勘がいいし」

 

 フィリアは自慢するように話すと、ピュリファはフィリアを見ながら声を出す。


「その予想とやらを教えていただくことは出来ませんか?」

「それは出来ないわ。まだ確証はないもの。それに」

 

 フィリアはピュリファに顔を近づけ、とっさの行動にピュリファは「あっ」と小さく声を漏らした。


「あなたも何かあるでしょ?」

 

 その問いかけにピュリファはすぐに言葉を返せなかった。それはフィリアが予想外の行動を取ったからの様にも見えたが、本当はどちらなのかはこの時にはピュリファしか分からなかった。


「フィリアさん。それは当然ですよ。私はサリメナ様によって選ばれ、各種族の王たちに認められたのですから。そしてそれがフィリアさんの答えですよね」

「うん。まぁそういうことにしておくわ。あと、度重なる軽率な発言について謝るわ」

「気にしないで下さい。私も気にしていませんから。では面白い話をありがとうございました。おかげで暇が潰せました。また時間があったら構ってくださいね」

 

 ピュリファは立ち上がり学園へと戻って行くと、周囲に感じられた気配も同時に消え去った。あの態度をとっても何もしてこなかったとなると、問題はなかったようだし、どうやら護衛だったようだ。

 

 波の音だけがする浜辺で一人になったフィリアはもう一度海を眺めながら、口にする。


「しかし、あのクォンとかいう女もピュリファもなんかありそうだけど、私には今のところ関係無さそうだから、忘れとこーと」


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