山のご馳走をいただきます
「ひどい目にあった……」
「ごめん。あたしも熱くなってやりすぎた」
クォンによって川へと突き落とされたクロノはびしゃびしゃになった服を脱いで、使徒の力を解放し服を纏って火にあたりながら暖を取っていた。
服はどうにかなったのだが、川の水はそれなりに冷たかったため体を冷やしていたのでこの暖かさはありがたい。
またクォンに殴られた個所がまだ少し痛むので、その場所を擦りながら先ほどの試合について振り返った。
「さすがにクォンは強いね」
「お世辞を言ってもなにもでないわよ。それにクロノだってあたしについて来ていたんだからそれなりに強いじゃないの」
ほとんど拮抗と言っていいほど二人の力は互角であった。
お互いに使徒の力は使っていないが、どうやら今回の試合では力の下となるお互いの神による能力が関係していた。
クロノは昨日リフィアにサリメナのことについて聞いたついでにリフィアが与えている能力についても教えてもらった。
リフィアはクロノと会う前にもいろいろあって疲れていた為、面倒くさそうに言っていたが、なんとか教えてもらった時に驚くことはなくむしろ、フィリアを見れば納得できるものであった。
その力と同じ能力を持つクロノはクォンの能力『共存』に対して、若干優位であったがゆえにここまで拮抗した勝負ができたと思っていた。
「でもさ、最後の攻撃なんて結構威力あったし、あれだけ疲れていたのにあんなに強い攻撃を出来るなんてすごいよ」
「ありがと。でも最後のは本当に偶然出来たし。まぁ出来た時はそれなりに気持ちよかったけど、そのせいでクロノを川へと落としちゃったし」
「たしかにそうだね」
クォンの七連コンボをくらったせいでこうして、暖をとっているが、これもすべてクォンが一人で用意してくれたので文句もでてこない。
「それしてもクォンは、その水着とかいうやつを着ていたのは、もしかしてこうなるのを予定していたからなの?」
クォンは水着の上に着ていた上着を肩にかけており、それでも見える白い肌はどこか艶めかしさを感じさせる。
「いやいや、さっきも言ったとおり、クロノを川へと落としてしまったのは偶然。これを着ていたのは、特訓を終えた後に海にでも行こうと思っていたからよ」
クォンは肩ひもを引っ張りながら答える。また話が一度落ち着き、体が温かくなってくると同時にお腹も減ってきた。
「動いていたらお腹も空いてきちゃったから、そろそろ帰る?」
「あ! それなら!」
クォンは何かを思いついたのか、かけていた上着をクロノに渡して川へと飛び込び潜ってどこかにいってしまった。
それから少し待っていると、水の中から顔を出したクォンが手に持った何かをクロノへと投げ、クロノはそれを上手くキャッチする。
両手の中にあったのは一匹の魚であった。しかもこの魚、僕が村にいた時によく獲っていた魚に似ている。
「クロノ―! あたしもうちょっと獲ってくるから、待っててね!」
クォンは再度、潜水して獲物を探しに行ってしまったので、体も温まったクロノは、手に持った魚を見つめて自分が出来ることを思いつくのであった。
それからクォンは合計六匹目の魚を捕まえ終えると、濡れた髪を絞りながら、目の前で作業しているクロノに声をかける。
「クロノ、準備はどう?」
「うん。完璧だよ。やっぱりクォンが捕まえてくれたこの魚、僕がいた村の近くにいたやつとほとんど同じやつみたいで、調理も簡単にできたよ」
「へー、そんなこともあるものね。あとは焼き加減と味を楽しみしておくとしましょうか。もし不味かったら、今度はクロノに獲りに行かせるからね」
「下処理もできたし任せてよ。絶対に美味しいのをだすから!」
その後は下処理を終えた魚を丁寧に焼き終え、クォンへと手渡す。
魚に口をつけた瞬間にクォンが目を大きく開いて、頬を緩ませていることからどうやら上手くできたようだ。
「何これめちゃくちゃ美味しいじゃない!」
「よかった。用意している時から自信があったから、クォンが期待通り喜んでくれて嬉しいよ」
「これは冗談抜きで美味しいわよ。それにこの魚、いつもだと少し苦みがあるのにどうしてしないの?」
「それはね。この魚は生きているうちに締めちゃってから、すぐにえらの近くにある苦玉を上手く除去してさらに内臓を取り出しているからだよ。それに切っている時に、コクウに脂がつくぐらいだったから、さらに最高の味を出してくれているよ」
嬉しそうにクロノは素材の良さを生かした魚を食べる。
またクロノはこの処理を簡単そうに言っているが、この技はかなりの高難易度であり、修得するまでに何度も失敗して身に着けたテクニックなのだ。
「なるほど。そうしたら今度からこの魚はクロノに捌いてもらおーと」
クォンは満足そうに一匹目を完食する。
「クォンにも今度時間があったら教えてあげようか」
「いいわよ。あたしは獲るか食べる専門だから」
「でもそれなら尚更知っておいた方がいいんじゃない」
「じゃあ、クロノをあたし専用の料理人として雇ってあげよう。それなら問題ない」
「はいはい。その時はよろしく」
「あたしの口は簡単に誤魔化せないからねー。さぁシェフ。もう一つおかわりをちょうだい」
「はいどうぞ。ご主人様」
二人は仲良く食事を終えて学園へと戻るのであった。
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