秘密の特訓場
「クォンいったいどこに向かっているの?」
「あたしの秘密の場所よ。もうすぐ着くから」
グローブも装着し早速、特訓開始と思われたが外を眺めるクォンが何かを思い出したように、場所の移動を申し出たので、クロノはクォンと共に学園内のワープポイントを使ってどこかの村の外れに到着すると、そのままクォンの案内で森の中を歩き続かされていた。
歩いている途中も周りは風に撫でられて木々がざぁざぁと音を立てており、その隙間から差しこむ日差しは温かくて心地よかった。
また、耳を澄ませば水の音がすることから川が近いのかもしれない。
「てっきり特訓場ですると思っていたけど、今日はその秘密の場所でするんだね」
「せっかく天気もいいから、外でのびのびと動くのも気持ちいいと思ったから。さて、ここを下りればその場所につくよ。滑りやすいから注意してね」
足元を集中させながら斜面を下って到着した場所は、川辺に近い開けた場所であった。
「ここがその秘密の特訓場なの?」
「そうよ。昔からあたしが使っている場所でね。ここを知っているのはクロノを入れても両手で数えられるほどしかいないわ。でも、久しぶりに来たからちょっと汚れているわね。まずは掃除からするとしましょうか」
クォンの言う通り草が刈り取られたと思われる場所は、その上に落ち葉がふり注がれて覆われており、少しだけ雑草も生えていた。
「それじゃ、僕が落ち葉をどけようかな」
「いいわよ。あたしが全部するから。ウィンドロール。ファイアロール」
クォンはクロノに自分の後ろに下がるように指示すると、魔法の詠唱を始め風の魔法で落ち葉を薙ぎ払い、続いて正確に火の魔法を放ち雑草を燃やし尽くした。その速さと正確さにクロノは「おお」と小さく声を上げる。
「さて、準備も出来たし始めるわよ」
上手く出来たことに、クォンは自然と笑顔になっていた。
☆
「特訓を始めるけど説明した通りでお願いね」
「よろしくお願いします」
始める前にクォンから受けた説明は今回の特訓で使用できる攻撃方法はグローブをつけた範囲のみで行う打撃のみ。なので、蹴りや肘打ち、頭突きもなし。
もちろん使徒の力や魔法の使用も一切禁止なので、クロノは使徒になる前に愛用していた能力向上魔法も禁止となる。
「それじゃ始めるわよ!」
「いくよクォン!」
お互いに腕を伸ばして右拳を軽く当ててから、距離を取って出方を見ながら探り合いをしていた。
攻撃しても安全と知っているので、クロノはとにかく攻めの姿勢で臨もうと決めていたためガード姿勢の構えを崩さずに左右にステップを刻みながら距離を近づけ、軽くジャブを放ってみたが、クォンの拳によって防がれるとすぐにクォンが狙いすましたように連撃を繰り出すが、まだ防げる範囲の攻撃だったので、応戦するように拳を弾き返した。
「やるわね」
「そっちこそ」
その後も二人は攻めの姿勢を崩さずに果敢に殴り合った。
クォンの打撃はダメージを軽減してくれるグローブをしていても体に当たるたびに重く響くような拳であったが、それでもクロノは怯むことなく隙があれば拳を前に強く打ち出し、クォンの腕や肩に直撃させるが、触れた感触からしてそれ程ダメージを与えていないだろう。
時間の経過と共にお互いの呼吸が荒くなり、始めにあった余裕が消費されていく。
「やるわね。でも、まだまだあたしだって!」
クォンも疲れを見せずに負けずに攻め続ける。
「僕だってまだまだいけるよ!」
クロノもクォンに劣らずに拳を放ち続けた。
その後もお互いに拮抗しながら拳を打ち込み続けるが、疲れが出てくるとようやく乱れが出始めた。
「はぁあああああ!」
「くっ」
足元がふらつきその隙を狙ったクロノだが、間一髪のところでクォンが回避して距離を取られてしまう。
「ちっ、惜しかったな」
「はぁ、はぁ。…やるわね。でも、ここからが本番よ」
クロノとクォンは流れ落ちる汗を腕で拭い、お互いに相手の行動を見逃さずに構えをとる。消費した体力からしてそろそろ決着の時が近いと感じていた二人は全力を尽くした攻撃に出た。
先に動いたクロノに対してクォンもほぼ同時に拳を突き出し、僅かに遅れたクロノの攻撃を弾くようにして距離を詰めたクォンは、すかさず打ち込まれた二撃目を左手で受け止めクロノに右頬に一撃を加えた。
右頬に先ほどよりもかなり重めの一撃を受けてよろけたクロノを逃がさずすぐに左頬にさらに二撃目を与える。
「ぐっほぁあ」
クロノの声からしてダメージ軽減をしていても、かなりのダメージを与えられていることにクォンは少しだけ嬉しく思いながら更に連撃を加えるため、クロノの体を宙へと押し上げるように膝を曲げて腹部に打ち込むと、宙を舞ったクロノに更に三連撃を与える。
「ぐっ、がっ、ごはああああああ」
いける。最後の一撃を与えて勝てる。
「はぁぁぁああああああ!」
最後の一撃は両手を組んで地面へと打ち込み、それを受けたクロノはそのまま地面へと地面に叩きつけられ、なんとか受け身を取るが、それでも威力を殺すことが出来ず、そのまま斜面を転がって川に落ちてしまった。
「ごばばばばああああっ!」
「ああッ! クロノごめん!」
着地したクォンは勝った余韻に浸ることなく、川へと落ちてパニックなったクロノを、急いで救助するために川へと飛び込んだ。
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