仲なおり
その後サリメナの話を聞き終えたクロノは、リフィアを見送り、その時を待つ間ひたすら読書を続けていた。
時間は周りが静まっている夜であるが用事が控えているクロノは読んでいた本を読み終え、次の本を読もうと手を伸ばした時に、二回ほど扉がノックされるとクロノは立ち上がって、扉の前にいる人を部屋へと向かい入れた。
「やぁ、フィリア。手紙を読んでくれたんだね」
扉の前に立っていたのは、フィリアであった。
「呼ばれたから来たけど、クロノちゃんどうかしたの?」
フィリアは手に手紙を持ちながら不服そうにしているが、朝の件以来二人は話す機会がなかったためクロノ側からこうして機会を設けてもらったことに内心喜んでいた。
扉の隙間から差し込まれた形で手紙が置かれていたので、それを拾ったフィリアは中を確認すると、ただ一文「夜に会いたい」としか書かれていなかった。
今日の夜はセラとイフルも用事で出かけてしまっているので、余計な邪魔が入る可能性も少なくなっているので、誰にも気づかれることなくこうして部屋に来れたのだ。
「フィリアに言っておきたいことがあって。とりあえず、そこに座ってくれないかな」
クロノは椅子に座るようフィリアに促す。
「別に座る必要なんてないわ。早く言って」
「それじゃ、言うね。フィリア。朝はごめんね。それで僕から伝えておきたいことがあるんだ」
フィリアはそれ以上声を発することなくクロノの声に耳を傾けた。
「正直言うとフィリアには隠し事をしている。そしてそれは絶対に言わない約束をしているから言えないのは変わらない。でも、僕はフィリアを一番信頼している。だから僕を信じてほしい」
クロノの言葉にフィリアは黙ってしまった。
それでもクロノは表情を変えずにフィリアの返事を待っていた。
「……わかった。それなら言える時がくるまで言わなくていいよ」
「フィリア————」
「でもね。それなら行動で示して。私を一番信頼しているということを」
フィリアらしいその一言にクロノは全身全霊で答える準備は出来ていた。
「もちろん。そのつもりだよ」
クロノは使徒の力を解放し、フィリアは抱きしめた。
「へー。それぐらいの力じゃ私は逃げちゃうよ。もっと抱きしめてくれないの」
まだまだと言わんばかりにフィリアは言ってきたので、クロノは逃がさないようにするためその両腕に力を込める。だがこの時、クロノはただただ力で引き寄せるのではなく、優しく包み込むように体を密着させ、フィリアの全てを全身で抱きしめた。
フィリアの甘い香りや柔らかい感触に加え、自分の物であるかもわからないほどの心臓の高鳴りが聞こえる程、一つになりクロノは静かにフィリアを抱きしめ続けた。
「クロノちゃんの気持ち。伝わったよ」
フィリアがどうやら許してくれたようなので、クロノはようやく安心することができたのであった。またそれと同時に今日一日の疲れが押し寄せてきてしまい、急に眠たくなってしまう。
そのこともフィリアに伝わったのか、フィリアは優しい声音で言う。
「クロノちゃん眠いの?」
「今日は一日動きっぱなしだったから眠いかもしれない」
「そうなの。それじゃ、ねよっか」
クロノはフィリアに促され、寝る前に服を着替えて寝室に入ると、ベッドにフィリアが先に入っていた。
「あれ? フィリアもここで寝るの」
「うん。今日はここで寝ていくわ」
「それなら、僕は床で寝るとするかな」
クロノは床に引く布を取り行こうとする。
「ちょっとクロノちゃん! 今日は……私と一緒に寝ようよ」
フィリアがボフボフと毛布を叩いて呼んでいるので、クロノは少しだけ恥ずかしく思いながらもフィリアと並んでベッドへと入る。
「ふふ。二人だとちょっと狭いけど、それが今はいいかも」
「僕はむしろこのままでいいから問題ないかな」
「そう言って私に触れすぎるのはダメだからね!」
「分かってるよ」
それでもすぐに肩が当たりそうなぐらい二人の距離は近いので、お互いに触れあってしまうのは時間の問題だろう。
慌ただしい一日がようやく終わろうとしたその時だった。
「あれ? クロノもう寝ちゃっているの?」
部屋の入口の方からよく知った声音が聞こえる。この声はクォンの声だ。
なんで部屋に入って来ているのかと思ったが、そういえば、部屋の鍵を閉め忘れていたことを今になって思い出す。
「そうだけど、どうかしたの?」
クロノは入り口の方に向かってなるべく焦らない様に声を発し、じとーと見てくるフィリアと目があっていた。
だが、その事を知らないクォンはそのまま話を続ける。
「寝ようとしていたのにごめんね。明日の事だけど明日はあたしと組み手を予定しているから覚えておきなさいよ」
「分かったよ!」
フィリアが早く終わらせろと言わんばかりに目を細めて見つめてくるので、たまらずクロノも会話を切り上げようとしていたが、ここでクォンが予想外の言葉を発してしまう。
「あたしが使徒を辞めると言っても明日は手加減しないからしっかり体力を回復しておくのよ。それじゃ、おやすみなさい」
クォンはそう言って部屋を出ていってしまうと、フィリアはその疑問を口に出さずにいられなかった。
「ねぇクロノちゃん。あの声って朝のあいつよね。それに使徒を辞めるってどういうこと?」
フィリアはやはりクォンが使徒を辞めることについて疑問に思っていたようだ。
それにここまで知られてしまっては誤魔化すことは無理だろう。
「実は僕が隠していたことがその事なんだ」
クロノは観念してフィリアに隠していた話を打ち明けるのであった。
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