振りまわされるクロノ
「あなた達は仲がいいはずなのに、どうしてこうなってしまうのでしょうか」
「それは僕も知りたいよ。それでイフルさんの要件ってなんだったの?」
「もう期限切れの要件ですよ。はぁ……」
ため息をついてイフルが残念そうにしていることから、どうやらフィリア関係の話だったようだ。
「イフルさん。僕は今すぐにフィリアに謝りに行けばいいのかな」
「それは止めておくといいと思います。フィリアは理不尽に怒る時もありますが、基本的には興味がない時に怒ったような態度をとります。なので、あのように感情的に怒ったときはそれなりに理由があったときです。その為、いま会いに行ったとしても、なんであのような態度を取ってしまったかを理解してからじゃないと、更に良くない方へといってしまうかもしれませんよ」
「そうだよな。うーん」
イフルの話にクロノは顎に指を当てて考えた。
言われた通り、フィリアとなぜ口論になってしまった理由を分からないままフィリアに会ったとしても、さっき話の延長になるか、こじれてしまう可能性が高いので少し落ち着いてから、もう一度話をしたほうがいいだろう。
「イフルさんの言う通り少し時間をおいてから会うとするよ」
「わかりました。おそらくフィリアは私の部屋にいるでしょうから、上手く相手をしておきます」
「ごめん。フィリアの相手をよろしく頼むよ。それにしてもなんでフィリアは僕の部屋に来ていたんだろう」
フィリアは歓迎会でそれなりにお酒を飲んでいたし、僕ともそれなりに話をしていたから、すぐに話す事だってなかったはずだ。
「そのことについては、フィリアにも考えがあったのでしょう。それにフィリアはたまに読めない行動をしたりしますので」
イフルはフィリアから話を聞いていたので、どうしてクロノ部屋に向かったのか知っていたので上手く誤魔化した。また、どうやらクロノが言っていることからして、何もせずに先に寝てしまったようだ。
そのことに胸をなで下ろしていいのか、わからないがとりあえず男女関係の方は、進展なしのようで、新たなトラブルにはならないだろう。
「確かにそうだけど、わざわざ代わりの鍵を借りてまで部屋に来たんだよ。それなら何か大事な用事があったかもしれないし……。あ⁉ もしかして、フィリアも何か悩んでいたりするのかな。本当は朝にフィリアから聞こうと思っていたけど、さっきの話で聞きそびれちゃったな」
クォンも悩みを抱えていたし、もしかしたらフィリアも悩みがあるのかもしれない。もしシスターを辞めたいとか言い出したらどうしよう。
「クロノ様? も、とはどういうことですか?」
「そ、それはちょっと言い間違えただけだよ」
「そうですか。あとフィリアのことならあまり気にしなくていいと思いますよ。あなた達の関係ならまたすぐに仲良くなると思っていますから」
「だといいけどね」
「それにクロノ様は、リフィア様の使徒なのですからもっとリフィア様の力を与えられている者達のことを気にかけてあげないといけませんよ」
「そうだよね。よし。そうしたらまずはフィリアに会う時に話す内容を決めないと」
ようやく、今後の見通しが立ったその時だった。
「こらー! クロノ!」
扉を勢いよく開いて入って来たのは、クォンであった。
「ク、クォン⁉ なんでここに⁉」
驚くクロノを壁へと追い込むように、クォンは近づき左手を壁へと突き出し、その顔を近づける。なんだ。このデジャヴ。
「へー。あたし言ったよね。先に特訓場にいなさいって。それなのにここで、おしゃべりをしているとは……まずはそのたるんだ根性から鍛えないといけないわね」
クォンは笑顔で話しているが、フィリアと同様になぜこれほど恐怖を感じるのは考える必要もないだろう。
「ご、ごめん! ちょっとこっちでいろいろあったんだよ」
「言い訳無用! クロノも第一の使徒なら、ちゃんと日ごろからシスターやモンク達の事を把握しておかないといけないのに、してないとはだらしない!」
「全くもってその通りです」
「ちょっとイフル⁉」
確かにそうかもしれないけどそこは、味方をしてくれてもいいじゃないか。
「ほら、そこの金髪さんも言っているし、クロノには使徒として自覚を持たせないといけないわね。仕事が増えてあたしも困るんだけど、同じ使徒がこのまま堕落してしまうのは見過ごせないから、しっかり稽古をつけてあげるから覚悟しなさいよね!」
「クロノ様―。頑張ってくださいー立派な使徒になってくださいね」
「なんで、こうなるのー!」
がしっと腕を掴まれ引っ張られるようにしてクロノはクォンに連れられて行くのをイフルはささやかな声援を送りながら見送るのであった。
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