朝の特訓
朝日が照らす特訓場の中で一人の男の声が響き渡っていた。
いつもよりも早く起きてしまい、二度寝でもしようとしたが、目が冴えてしまったのか、目を瞑っても寝られそうになかったので、朝日が昇るよりも早くこの場所に来ている。
力を解放させその男が手に持つ黒い長刀が空を斬り続け、その振るわれた剣圧により周囲に風を発生させると、特訓場の壁面を圧迫していた。
「ハアアアアアアアアアッ‼」
特に型を決めずに、本能に従って振るい続け、体を動かしながら連撃を繰り出す。
構えた姿勢から打ち出す技は、今までの戦いの中で男を助けてくれた大事な相棒である。
「ハアアアアアアッ! シッ! ルアアッ‼」
気合が混じった声と共に振われる剣だが、その剣はいつもの冷静さが感じられず、荒々しく振るわれ続けた。
しかし剣を振り続けていると次第に胸の内が落ち着いてきたのか。男は剣を止め、切っ先を下に向けたまま、目を瞑って呼吸を整える。
気を高めたままにしていたので、僅かな音に反応した男は音がした方へと視線を移すと、視線の先にはよく知った顔が覗くように眺めていた。
「今日も朝から絶賛稼働中ね。クロノは体力が豊富なの?」
「クォンこそ、どこかに行っていたの?」
ひょこっと現れたクォンが、今着ている服装は、出会った時とは違い整ったシスター服のような服であったが、個々のシスターの服装とは異なることから分かっていたが、あえて聞いてみた。
「わかっているくせに、これは私の使徒としての服装よ。どう似合う?」
ひらひらと腰から伸びる帯を手に持って見せつける。クォンは容姿も悪くないので、その姿は一言で言えば可愛いと言えるが、この時のクロノはその一言は言いたくなかった。
「悪くないんじゃない」
「あら、いじわる。そして、なんてつまらない答え。女の子に囲まれている生活を送っている人とは思えない」
くるりとその場でまわって着ている使徒専用に作られた制服を見せつけてくるクォンに対して控えめに返事するが、クォンは唇を尖らせてながら適当に受け流す。
「それでここに何をしに来たの?」
「それは、朝の日課を終わらせて、特訓場の前を通ったら、昨日の夜と同じように音がするから、これはもしかしてと思ってみてみたら、予想通りこれから教えこむ新米使徒君がいたから見ていたのだよ。まぁ、しっかりと見たところクロノの動きは、思った以上にブレブレだったね」
「ブレブレってどういうこと」
クォンの言葉に珍しく苛立ちを見せたクロノだが、対して冷静にクォンは話続ける。
「剣が昨日の夜よりも荒いのよ」
クォンの指摘にクロノは何も言い返せなかった。確かに言われた通り、剣を振るう時にいつも以上に力を込めてしまっていた為、昨日には感じなかった疲労があった。
「感情に左右されすぎるかしら。昨日の夜はまだいい振りしていたのに」
「ちょっと今日は集中できていなかったみたいだったから、上手くできなかっただけだよ」
「そう。それなら次は集中してやることね。適当にしている鍛錬ほど無駄な体力の使い方はないから」
「わかっているよ」
誰のせいで僕がこうなってしまっているかを、わかっているという意味で。
「それならいいけど。さて、そろそろ朝食の時間になるから朝の特訓はやめにして一緒に行くわよ」
「そっか。もうそんな時間なのか」
「そういうこと。ほらっまずは顔を洗って来なさい」
クォンからタオルを投げられて受け取る。
「ありがとう」
「あ、それあたしの使ったやつじゃないから、気にしなくていいからね」
クォンはクロノをからかうと、クロノはムスッと不機嫌そうにしながら、ありがたくフワフワとしたタオルに顔を埋めるのであった。
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