安らぎ
静まり返った廊下にコツコツと響く足音を立てながら、クロノは自室へと戻ろうとしていた。軽く体を動かすために部屋を出ていたが、これ程戻るのが遅くなるとは思ってもいなかった為、その足はいつもよりも少しだけ早く動いていた。
ヴィゼン王国に来た目的である使徒クォンと出会ったのは、ありがたかったが、まさかクォンとあのような話になるなど思ってもいなかった。
話し合うと次第に変化していく予想外の展開に思わず言葉が出てこなかったが、あの場面で何と言おうが今の僕には知らないことが多すぎる為、どの言葉を言ったとしても、クォンに響くことはなかっただろう。
それにクォンの話からしてクォンが使徒でいる時間もどれだけあるか分からないが、僕には辞める前に、知らないことを全て知っておかなければならいという使命に似たようなものを感じていた。
クロノは考え事をしながら、明かりで照らされた廊下を歩き続け、部屋に入ると消したはずの明かりがついていた。
「あれ? 部屋の明かりがついている?」
リフィアでも来ているのかと思いきや、ベッドで身体を丸めて今もすやすやと眠っているフィリアがいたことにクロノは、少しだけ驚いたが今も気持ちよく寝ているようなので、起こさなさいように静かに近寄って、その身体に毛布をあててから、どうしようかと思ったが、一息ついて、このままだと胸の内に溜まったモヤモヤが睡眠を邪魔しそうだったので、寝ているフィリアに向かって、始めて出会ったあの時を思い出しながらクロノは、フィリアの髪を撫でながら一人話で始めた。
「僕は使徒になって後悔したことなんてなかったから、クォンの話には本当に驚いたよ。使徒の力は、あれ程足掻いていた僕をここまで導いてくれた。そして、ここに来た僕を含めてみんなを救ってくれた。だからこそ、クォンの考えは同意できない。それにクォンの与えられた能力が『共存』であれば尚更だよ」
『共存』それがサリメナの能力であれば、僕が持つリフィアの能力は一体なんだろうか。それに、クォンはピュリファのことをかなり気にかけていたし、あの二人の様子からして必ず何かあるに違いないだろう。
だけど、その二人から情報を直接聞きだすのは、簡単ではないだろうから、他に誰か知っている人はいないのか。
ふと、今もすやすやと眠っているフィリアのことを見る。
「フィリアなら、どうする?」
返事はもちろん帰ってこない。
その代わりに、眠ったその顔に癒されたのか、随分とモヤモヤも薄まってきた感じがした。
戦いはまだ続く。この平穏な時間もどれだけ続くのか分からない。だからこそ、状況に応じて自らが切り開くこの力は、僕にとって大事な力である。
だからこそ、力を手放すということは、ありえないのだ。
気がつけば、かなり時間フィリアの事を触れてしまっていたようだ。クォンからもらっていた飲み物のせいだろうか、今まで気にすることなく触れていたことに、少しだけ恥ずかしくなってくる。
クロノは思わず、周囲をキョロキョロと見渡すが、誰かがいる気配は全く感じられないことに安堵した。
安心すると、急に眠気が襲って来きたので、この部屋のベッドを占領するように寝ているフィリアの隣で横になれるスペースは残されていないので、今日は久しぶりに床に布をひいてその上に寝ころんで静かに目を瞑るのであった。
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