クォンの考え
「サリメナは、どうやらあたしが使徒になる為の相性が一番いいからって理由だけで、使徒に選んだの。そして、その時のあたしはただただ状況を打破する力が欲しかったの」
「それで、クォンは使徒になってしまったわけか。あとは、そのクォンが追い込まれるほど状況っていったい何があったの?」
「あ、ごめん。それは言えない」
クォンは聞いてすぐに返事をした。
「どうして?」
「それは、あたしだけの判断では話せないの。先に聞いておいてごめん」
クォンは気まずそうに下を向いていることから、どうやら本当に話せないようなので、ここは無理に聞かないことにした。
しかし、ここまでの話からしても、クォンも過去になにかあったのは、間違いないだろう。それにサリメナという神様について今度リフィアに聞いてみるとするか。
「なるほど、そしたら、もし話せる機会があったら教えてもらうとして、そうしたらクォンの能力ってその『共存』ってことになるの?」
「そうよ。あたしに限らずサリメナの能力を与えられている者は全員に『共存』の力は与えているから戦う時、基本チームを組んで戦っているの。それで、その『共存』を一番使えているあたしも今は最大六人で戦っているけど、状況によって増えたり減ったりするの」
「へー。チームか。僕たちも今も四人で行動してたけど、四人で戦った事はないなぁ。でも本来はモンスターとかとも戦う時もそうだけど、ギルドメンバー内で戦略を決めて戦うし、出来ればそのほうが僕もいいんだよなぁ」
僕もチームを組むとしたら、フィリア、セラ、イフルとなる。全員が特徴のある戦闘スタイルを持っており、実力もあると言えるのだが、上手く纏まる気がしないのは気のせいではないだろう。
「あ、そうだ。あたしは単騎で戦うのは、ずっとしていないから勝負となると、どうしても馴れていないからやりづらいけど、弱くはないからね。で、その『共存』だけどその能力が一番引き出せるのがあたしだから、今と同じような立場になって、結果普通の少女じゃなくなり、サリメナの唯一の使徒になったわけ。はい。話し終わり」
クォンは話を終えて空になったグラスをもう一回満たそうとしたら、中身がほとんどなくなっていた為立ちあがって新しい瓶を取りに行ってしまった。
「クロノ。クォンの話を聞いてどうでしたか?」
「うーん。なんだろう。なんて言えばいいのか分からないけど、クォンの言っていることってどこか理解出来ないところがあるから……うーん」
クロノは首を傾げて唸りながら、クォンの言っていた言葉を繰り返し思い出していた。
「確かに、あの話だけでは分かりづらいですよね。ごめんなさい」
「ピュリファが謝ることなんてないよ」
「いえ、これは私も関係しているので」
ピュリファが申し訳ないと言わんばかりの表情でうつむいてしまったので、クロノは賭ける言葉を考えていると、後ろから明るい声が飛んでくる。
「なーに辛気臭い空気にしているのよ! ほら、新しいのを持ってきたから、クロノもグラスを出しなさい!」
クォンに指示されるとおりにグラスを差し出すと、こぼれそうなぐらい注がれてしまったので、慌てて口をつけて中身を減らす。
「いろいろ、分からないこともあるけど、とりあえず、明日からクォンにはいろいろと教えてもらうからよろしく」
「ええ、そうね。出来る限りしてあげるけど、次の使徒が見つかったら、クロノが先輩になるから教えてあげてね」
「……へ?」
次の使徒が見つかったら? それは、サリメナの二人目の使徒ということなのか?
「何変な声出しているのよ。あたしはもうじき使徒を辞めるから、次が見つかったらよろしくって言ったのよ」
「使徒を辞める⁉」
「そうよ。辞めるの。このことはサリメナに何度も伝えているけど、今度は現れなくなったのよ。おかげで面倒事は減ったけど、あいつのことだから裏で何かしているに違いなし、本当に不気味だわ」
クロノは言葉の意味が理解出来なかった。ここまで来て出会った先輩使徒であるクォンから多くを学ぼうとしていたのに、とうの本人が使徒を辞めるとは……。
茫然としているクロノをよそにピュリファが静かに話しかける。
「やっぱり、意思は変わらないの?」
「うん。やっぱり辞めようと思う。あたしの役割はもう終わったし、仮に使徒の力を失ったとしてもBクラスぐらいの力はあると思うし」
「そっか。それがクォンの意思だもんね」
「ごめんね。でも、ピュリファのそばにはずっといるから安心してね」
「うん……」
「ということだから、あたしの役目はクロノを出来るだけ強くするだけで、その冥獄凶醒とやらは、次の使徒に任せるとするわ」
「次って……誰になるかは決まっているの?」
クロノは困惑しながら、話を続ける。
「まだよくわからないけど、サリメナも話をしてこないってことは次について考えているんじゃないの」
クォンの言葉にクロノは、胸の内に違和感があり、そのまま声にしてもよかったのだが、押しとどめる。
「そっか。でも、とりあえず、教えてくれるなら本当に助かるから明日からよろしく」
「ええ、頑張ってね」
クロノはクォンに向かって握手し終えてから、ゆっくりと立ち上がる。
「さて、そうしたら僕はもう寝るとするよ」
「あれ? そうなの。せっかく新しいの持ってきたのに。でも、眠いなら仕方ないか。それじゃおやすみー」
「今日はありがとうございました。おやすみなさい」
クロノはクォンとピュリファに手を振りながら、部屋を出て行くのであった。
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