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気を抜いていた象徴とも共に

「さて、到着―。さぁ中に入りなさい」

「お邪魔します」

 

 クォンによってここまで連れて来られたクロノであったが、ここまで来たらどうすることも出来ないので、クロノは言われた通りに従ってクォンの部屋の中へと入ると、ベッドの上にうつ伏せで足裏を天井に向けながら何かを読んでいたピュリファが中にいた。


「クォンお帰り……ってクロノ様⁉」

 

 ピュリファは予想外の展開に急いで本をどこかに投げすてて、体裁を保とうとしたが、ほとんど始めから見ていたクロノにとってはすでに遅かった。


 「あららー、ピュリファのだらしないところ、見られちゃったわねー」

 

 意地悪そうに口元を押さえるクォンを横目で見ながら、わたわたとしているピュリファは、始めは誤魔化そうとしていたが、できないと判断すると口を尖らせて、クォンに向かって文句を言う。


「誰のせいでこうなったと思っているのよ。というか連れて来るなら先に言ってよね!」

「ごめん、ごめん。クロノとは偶然会ってさ。それで話も盛り上がったけど,あたし。この格好だから特訓場だと寒くてこっちに来てもらおうことにしたの。それにクロノならピュリファの事を知られても立場的にも問題ないし、知られておいたほうが後々ピュリファも楽になるって」

 

 クォンはピュリファに伝えるだけ伝えて、部屋の奥へと向かって行く。


「確かにそうかもしれないけど……。でも、もうどうしようも出来ないし。あの、クロノ様。今の私の事はなるべく内緒でお願いします」

「ピュリファ様⁉ 頭を下げることなんてないですよ」

 

 ピュリファが頭を下げてお願いすると、クロノは慌てて頭を上げるように伝える。


「クロノ様は優しいのですね。あともう一つ。私とこの部屋で話すときはできれば敬語は使わないでしてほしいのですが、お願いできますか?」

「え? まぁピュリファ様がそう言うなら。あと、そうしたら僕も様付けとしなくていいから普通にクロノって呼んでくれるかな」

「はい! わかりました!」

 

 ピュリファはお願いを聞き入れ、クロノもピュリファのお願いに首元に手を当てて受け入れると、部屋の奥から出て来たクォンが、ニヤニヤしながら二人を眺める。


「ピュリファー。あたしのことは今日は特別にクォン様って呼んでもいいわよ」

「うるさいですよ。クォン大王様」

「あっはははは。違和感しかないからやっぱりやめてー」

 

 けらけらと笑うクォンの表情はとても楽しそうに見え、手に持ったお盆を机の上に置いてどかっと椅子に座る。


「ほらほら、クロノもピュリファもこっちに来なさいよ」

 

 クォンは先に座って、こっちに来るように手招きをしている。


「分かったよ。ピュリファ様も一緒にどう?」

「ええ、ご一緒させてもらいますね」

「ふっふふ。クロノ。言っているそばからピュリファに対してまだ様付けだけど、いきなりそう言われて順応するのも難しいわよね。でもヴィゼン王国の象徴ピュリファ様も普通の女の子だからちゃんとお願いを聞いてあげなさいよ」

 

 クォンは、手に瓶を持ちながら、もう片手で持っていたグラスをクロノへと差し出す。


「クォン。誰のせいでこうなったか分かっているの?」

「怒らない、怒らない。あ、クロノ。あんたもあたしと同じのでいいよね?」

「うん。構わないけど、もしかしてそれってお酒?」

「違うわよ。これは柑橘系のジュースよ。でもたしか少しだけアルコールが入っていたような……。まぁ気にしない、気にしない」

 

 持っているグラスに注がれていく液体は、爽やかな香りがして興味をそそったが、その液体はジュースのようでお酒にも見えなくはないが、グラスに満たされるほど注がれてしまったので、クォンの言う通り気にしないことにした。


「ピュリファも飲むー?」

「私はもういいわ。でも水だけはちょうだい」

「それなら、キンキンに冷やしたヴィゼンの水があるわよ」

「お腹に悪いから、普通の水でいいよ」

「あっそう。なら、はいどうぞ」

 

 クォンはグラスに水を注いで、ピュリファに渡し、残ったキンキンに冷えたヴィゼンの水の使い道は、クォンが持つジュースを薄める為に使うようだ。


「はい、じゃあ二人共グラスを持って」

 

 クォンの合図に二人はグラスを持ち上げ、チンッとグラスを合わせて静かな夜会を始めるのであった。


                  ☆

 

「こうして、またクロノ様とお話しできるとは思っていませんでした」

「僕も同じだよ。ピュリファさーんとお話しできてうれしいよ」

「さーんだって。ぷひゅ。クロノも頑張っているね」

「う、うるさいな……」

「ごめんなさい。私もちょっとツボに入りまして、くひゅ」

 

 クロノは恥ずかしくなり、クォンから顔を背けると、その隣でピュリファも必死に笑いを堪えているのを見て、クロノは目を細めて、今すぐにこの部屋から出て行きたいと強く思ったが、もちろん出て行くわけにもいかないので、グラスに口をつけてチビチビと飲んで、恥ずかしさを紛らせていた。

 

 その後、しばらくしてピュリファは落ち着いたのだが、クォンは未だにくすくすと笑っていたのでクォンの事は放っておくことにした。


「ピュリファ、落ち着いた?」

「あ、はい。もう平気です。先ほどは申し訳ございませんでした」

「ううん、気にしないで。僕も悪かったし、クォンなんてまだ笑っているからね」

 

 クロノはじとっと、クォンを見るがクォンは気にすることなく一人楽しくグラスにジュースを注いでいた。


「クォンは、仕事を終えるとこうして一人で楽しむことが多いけど、今日は特に楽しんでいるように見えますね」

「そうなの?」

「そりゃそうよ。いつもあんな大変な仕事しているんだから、これぐらい楽しみがないとやっていられないわよ。それよりもクロノ。あんたの話を聞かせてよ」

「え? 僕の話?」

「そうよ。あんた。使徒になってからすでに色々と経験しているんでしょ。それを聞かせなさない!」

「出来れば私ももう一度聞きたいので、お願いできますか?」

「ピュリファも聞きたいのなら、話せるだけ話してみるよ」

 

 クロノはすぅと小さく息を吸い話始めるのであった。


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