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サリメナの使徒 クォン

「よし、ここか」

 

 クロノは目的地である特訓場に無事到着し、その扉に手をかけて中に入ると、第一学園と変わらない広さの開けた場所が用意されていた。

 

 いつもであればすぐに、力を解放して動きだすクロノであったが、今日はいつもよりも腹が重いため。ゆっくりと特訓場内の外周を歩いて体を温め、念入りにストレッチをして体を整える。


「なんか、おじさんみたいだったな」

 

 改めて行った調整方法を振り返ってみると少しばかり嫌気がしたが、誰も見ていないので忘れることにする。そして集中力を高め、気持ちが整ったその瞬間にコクウを手に取り力を解放し、そのあふれ出す力を握りしめ、剣を振るう。


「シッ、ハッ、ハアアアアアアアアアアアッ」

 

 クロノは今までの冥獄凶醒(めいごくきょうせい)との戦いを思い出しながら剣を振っていた。ヴェドの時は、攻撃が決まらずにいたが、その中でも模索し続け、核を見つけ出すとヴェドの連撃に対して同じく連撃で対抗した。そしてフィリアが持つ白剣の力も借りて見事打ち倒した。


 クロノはその時の感覚を思い出して剣を振るい続け、その一振り、一振りが空間を切り裂くように放たれ続ける。


「ハアアアアッ、ハッ!」

 

 クロノは更に感情を高め続け、次に思い起こしたのはアルチベータと戦闘である。見えない糸を見つけ出しながら隙をついての戦闘となり、攻撃を回避しながら距離を詰めていくという戦いに苦戦を強いられたが、アルチベータの攻撃の癖を見つけ出し、倒すことが出来たが、最後の油断により、絶命の危機にさらされてしまった。

 

 あの時は本当に死んだと思ったが、どうやら生きていたようで今があるのだが、あの時目を覚ました直後は、現実とは一瞬思えなかったぐらいだ。また、あの戦いでは一瞬の油断が死につながることを知らされたことに、クロノは胸の内に何かが込み上げると、今も振るわれるコクウが更に荒々しく振るわれる。


「ハッ! ハアアアアアアアアアアアアアアアアッッ‼」

 

 その剣圧は、特訓場の壁面を押し込み続け、軋ませていたが、クロノはその高ぶった剣を止めることなく振るい続けていると、任務終えた後にお風呂を堪能し、気分よくペタペタと廊下を歩いている最中に、その特訓場の異変に気づいた少女が気になって近づいて確認すると、今も剣を振り続けるクロノを目視し声をかける。


「ねぇ、あんた! ここ壊す気?」

 

 気持ちを高ぶらせていたクロノの耳に突き刺さるように聞こえた突然の声に、驚いて後ろを向くと、呆れた顔でクロノを眺めるバスローブを着た少女と目が合い、剣を止めた。


「あ、ごめんなさい。ちょっと感情が高ぶってしまって……」

「ふーん。感情が高ぶってしまってか……」

 

 少女は、ペタペタと足音を立てながらゆっくりとクロノに近づき、その細い指でクロノの手に触れる。


「あ、あの、ちょっと」

「そのままにしていなさい」

 

 少女はそのまま手の甲から腕から肩のまでなぞらせるように触れていくと、何かを確認し終え静かに頷いた。


「いったい何を……」

「ちょっと確認ってところかな。こんなに細いのにこの力を出せるってことはもしかしてあんた、例の第一学園から来た使徒?」

「そうだけど、それがどうかしたの?」

「ふーん。自分が使徒だってことにそんな反応するんだ。さすがは冥獄凶醒とやら二体も倒した使徒様ってところかしら」

 

 少女に感心されているような言葉と視線を向けられたが、その少女が向けたものには他にも何かを含んでいそうな気がしながらも、それらを正面から受けてしまったクロノは言葉を返せずにいた。


「しっかし、こんな時間にこれだけ動いているとか、あたしには考えられないわね」

「ねぇ、君は誰なの?」

「ああ、紹介が遅れたわね。あたしは一応この学園の使徒のクォンよ。あんたの名前は?」

「僕の名前はクロノだよ。それにしても使徒って……君が聞いていたあの使徒なの?」

「そうだけど、それになによ。その残念そうな眼は」

「だって、あれだけ豪華な食事を食べられなかったんでしょ。そうすると可哀想だなぁって」

 

 クォンはいつの間にか、クロノに哀れに思われていたことに、少し不機嫌になりながらむっとする。


「はっ、別にいいのよ。あれぐらい頼めばいつでも食べられるし、それに食べる前の挨拶とかも面倒じゃない」

「でも、使徒の役割ってそういうのも含まれるから、面倒って思っていると辛くない?」

「ちょっとクロノ。そこに座りなさい」

 

 クォンは自身の青みがかった髪を撫でながら、クロノの言葉にやれやれといった感じで、クロノをその場に座るように促し、クロノもすんなりと従って使徒の力を解除して腰をおろす。


「いい、私達は使徒だけどもっと自由があってもいいと思うの。それに与えられた役割とか任務はこの年齢でする事じゃないわ」

 

 クォンはクロノを見下ろしながら、早速、愚痴を言い始めるが、クォンとは違った意見を持つクロノは反論しようしたが、どこか威圧的なクォンの目を目視出来なかったので、足元を見ながら言い返す。


「でもさ、神様たちは僕たちに期待を込めて選んでくれているし、年齢とかじゃなくて期待に応えようとは思わないの?」

「いやいや、分かっていないなー。いい? あたし達はまだこんなにも若いのにこうして命をかけて戦っているでしょ。それに同年代の子達なんて修練こそあるかもしれないけど、あたしから見れば楽しそうな事この上ないわ。クロノもそう思ったことはあるでしょ?」

「まぁ確かにあるけど……」

「でしょ! それにあんたは冥獄凶醒とやら二体も倒したのだからこの短期間で、使徒の嫌な所も感じたでしょ」

「うん、でも僕の場合は自分一人で使徒になった訳じゃないし、感謝もしているから」

「そ・れ・で・も。大変なのは間違いないわよね」


 共感を求めるように熱弁するクォンだが、それでも意思が変わらないクロノは、クォンに向かって自分の意思を伝える為に、目線を上げると、目の前にはバスローブから下から覗きこむようにクォンが履いているピンクの下着がモロに見えてしまい、思わずすぐに顔を逸らすが、クォンはこの事に気づいていないのか一人で話を続けている。 


「あんたにも意見はあるとおもうけど、それでもあたしたちにももっと自由はあると思うの。ていうか、ここちょっと寒いわね。このままだと湯冷めしてしまうわ」

 

 クォンは腕を組んで寒そうにしており、クロノは先ほど見てしまったパンツにより、火照った頬を隠そうとするが、クォンはそのクロノの手を取って移動しようとする。


「どこに行くの?」

「あんたにまだ話の続きがあるからこの続きは、部屋でしましょう」

「でも、もう遅いし明日でもいいんじゃないか」

「明日だと明日で忙しいから今なの! ほら、こっち来なさい」

「あっ、ちょっと!」

 

 クォンはクロノの手を取って引き連れるようにして自室へとクロノを招くのであった。


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