始まる歓迎会
「はくしょん!」
「クロノ様、大丈夫かみゃ?」
「急に鼻がムズムズしてきたら……うん、もう大丈夫」
「そうなのかみゃ、もしかしたらクォンちゃんのせいかもみゃ」
「誰のせいだって?」
「いやいや、一人ごとだから、気にしないでほしいみゃ」
みゃみゃとシュメルは誤魔化してその後も準備が整いつつある歓迎会の会場で、クロノはシュメルと世間話をしていると、背中の方から、良く知った声がして振り返る。
「クロノちゃん! 待たせたわね」
「フィリア。こっちに来てからは初めてだね」
「もちろん。私は、クロノちゃんの始まりにいるからね」
よく知った明るい声音と、いつもどおりの表情にクロノは自然と安堵する。
「フィリアが来たってことは……あ、やっぱり。おーい、二人共こっちだよ!」
クロノが手を振ると、見つけた二人が近づいて来る。
「クロノ様。セラも到着しました」
「うん。待っていたよ」
「ここまですごい会に参加できるなんて嬉しいです」
先に案内されていた三人が、到着しようやく第一学園組が全員揃うと、シュメルが三人に向かって頭を下げる。
「三人共、お待ちしていたみゃ。みゃーの名前はシュメルと言いますみゃ。早速で申し訳ないけど、これから皆さんの歓迎会の流れについて説明させてもらうみゃ。まずは、クロノ様と皆さんの挨拶と、もう一つこの国の象徴となっておられるピュリファ様のご挨拶になりますみゃ。それで終わり次第、食事を取っておしまいですみゃ」
シュメルは、袖から四枚の紙を配ると、四人共そこに書かれている内容に目を通した。書かれていた内容は、先ほどシュメルが説明していた流れについてであった。また、クロノの紙にはシュメルが用意した参考までの挨拶が書かれてあり、この手配にクロノは密かにシュメルに感謝していた。実のところシュメルの挨拶という言葉に内心ドキッとして焦っていたのだ。
「ふーん。まぁ、楽しめそうだから、私はいいけど。とりあえずお酒と、美味しい料理を期待しているわ」
「ヴィゼンと言えば、新鮮な魚介類ですから、セラも楽しみにしています」
「任せてほしいみゃ。調理場は今もみんなの舌を喜ばせるために、必死に腕を振るっているみゃ」
シュメルは、みゃみゃと身振り手振りフィリアとセラに説明しており、その姿を見て二人も楽しそうにしていた。
その隙にクロノは紙を眺めているイフルの傍に寄り、静かな声で話しかける。
「ねぇ、イフルさん。二人共、調子が戻っているようだけど、何かあったの?」
「そうですねぇ。とりあえず、相談に乗ってみたところ、二人共、目的を見つけて前進しようとしているだけでしたから、クロノ様も期待に応えられるように、これからも頑張ってくださいな」
イフルはクロノ背中をポンと叩き、見せたその笑顔からクロノは「なんだよ。それ」と返すのであったが、イフルはとりあえず自分が出来ることは全て終えたので、残りの始末を全部クロノに責任を取ってもらうことにした。
☆
その後も談笑を続けていると、予定通りに準備が整ったということなので、四人は用意された席にすわり、順次、第二学園に所属するシスターやモンク達が会場へと入場し続けると会場が更に賑やかになるが、その中でも通る声で一筋の声が響き渡る。
「では、定刻になりましたので、これからヴィゼン王国建国記念日及び、ラグナロク第一学園からいらしているみゃー達の同胞であり、代表であるクロノ様達の歓迎会を開始いたしますみゃ」
シュメルの挨拶が終わると同時に、割れんばかりの大拍手に包まれると、シュメルは視線をクロノへと向け、その合図にクロノは席から立って壇上に上がると、一呼吸おいて声を出す。
「今日は、このような会を開いてありがとうございます。僕たちも皆さんと交流を深めること望んでいますので、これからもよろしくお願いします」
クロノが挨拶を終えると、先ほどと同じぐらいの盛大な拍手がクロノ達へと送られてから、シュメルに席に座るように促され、腰を下ろすと気づかれないように胸を撫でおろす。
「お疲れ様、クロノちゃん」
「うん。ありがとう」
「さて、お次はこの国の象徴である、ピュリファ様の入場みゃ。皆様お近くにあるグラスを持って、扉の方へとご注目下さいみゃ」
シュメルが示す方へと視線を向けると、開いた扉の奥にドレスの裾を持ち上げて、盛大な拍手と共に入場して来たのは、長い蒼髪の少女であった。
蒼髪の少女はシュメルに促されて壇上へと上がり、挨拶を始める。
「みなさま。本日はこの国が建国されためでたい日であることと、第一学園から使徒であるクロノ様及び共に戦うシスターのみなさまが来ております。この国もまだ問題を抱えておりますが、より一層よくなるようにしてまいりたいという気持ちはみな同じです。それでは、ヴィゼン王国の発展を祈って乾杯」
『乾杯!』
ピュリファは、素早く近づいてきたシュメルからグラスを受け取り、そのままグラスを上げて乾杯の合図をすると、この会場にいる全員がグラスを持ち乾杯し、この歓迎会が始まるのであった。
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