お仕事帰りのみなさん
「くしゅん」
移動中の馬車の車内で、はっきりと聞こえた一人の少女がくしゃみによってその周辺にいた仲間が、その方へと視線を送る。
「あらら、クォンちゃん寒い? 寒いならお姉さんが後ろから抱いてあげましょうか?」
「ううん。平気だよ、タルティー」
「そう、残念」
タルティーは、その背中に生えている羽を広げクォンを温めようとしたが、断られたので、静かに羽をたたみ、潤った唇に指を当てて残念そうにしていると、その隣で目隠しをした少女が大声で笑っていた。
「あっはははは。タルティー。どさくさに紛れて、その羽でクォンを包んだ後に、追撃のおっぱいでダメにしようとしていたのに残念っすね。まぁ、そう言っているうちに関しては何度もダメにされているっすけど」
「アビッソは簡単だから、暇な時に誘惑しちゃうのよね。隠しているその目も綺麗だから目隠しなんてしなければいいのに」
アビッソは行動するときは常に、目隠しをしており、その理由も目を見られていると感じてしまうと、恥ずかしくなってしまうからだ。
「いやいや、うちはこれ外したらきついっすから、いくらみんなの前でも無理すっよ」
「えー、慣れれば平気でしょ! ほら、ここにいるのは知っている人だけだし、ちょっとだけ外しましょうよ」
「やめるっすよ! こら、くすぐるなっす! くすぐったい!」
「うりうり、お姉さんに可愛い声を聞かせないな。 ほら、クォンちゃんも手伝って!」
「えー。やだぁ」
きゃいきゃいと馬車の中で、三人は声を弾ませていると、もう一体の同乗者が注意する。
「皆さぁ。ここにはおいどんもおるから、そう言う話は控えてほしいどん。それに暴れてはいけないどん。馬さぁがびっくりするどん」
「あらあら、スラドンはこういう女の子の話が苦手だったわね。ごめんね~」
「プニプニしているくせに真面目っよね」
アビッソは、タルティーのくすぐり責めから何とか抜け出し、また襲われない様に今はクォンの傍に寄っている。
また、真面目と言われているスラドンは、全身がスライムの魔人で、プニプニの腕を組んで静かにしていたが、弾んでいく苦手な女子の会話に耐えきれなかったのだ。
「そうどん。おいどんは、そういう、ふわふわした話は苦手だどん。だからみんなも気を使ってくれると助かるどん」
「スラドンは体は常に弾んでいるっすけどね」
「ちょっと待ってスラドン。あなた今、あたしもその話題にいた一人にしなかった?」
「え? もちろん……いやいや、だってクォンさぁも……ってそんなに睨まないでほしいどん」
「あっはははははは。クォンちゃんも一緒っすね!」
「なんか複雑」
クォンはスラドンの認識に、ぶすーと頬を膨らませる。
「いいじゃない。クォンちゃんも女の子だし。あとはクォンちゃんも夜の腕と技を磨いておけば、将来絶対に役に立つわよ。お姉さんが保証してあげる」
「えー、そうなのかなぁ」
「そうよ、きっとそう。ほとんどの男は楽しみにしているわよ」
「あたしはいいかなぁ。多分上手く出来ないし」
「そんなことないわよ。使徒の役割が出来ているならできるわよ!」
「使徒さんは大変っすからね~」
「使徒の役割だってみんながいないと出来ないよ。それにさっきの話もあたしには相手だっていないし、まだいらないし」
「えー! クォンちゃんももっと自由にならないと、将来旦那さんに、つまらない女だと思われちゃうわよ~。それにシュメルもそう言うに違いないわ」
「確かにシュメルも同じことを言ってくるどころか、この間も下着とは思えない下着を私に買ってきたわ。あれってどうにかならないの?」
「他に人ならともかくシュメルならギリセーフっす」
アビッソは、両腕を水平に伸ばしてポーズをとる。
「そうねぇ。私も一部の人以外なら通報するけど、それならセーフね」
「でもいったいどうにかならないかしら、私の部屋って私だけの部屋じゃないし、何か悪い影響があったら困るし……本当にシュメルのあの性格だけが厄介なのよね」
「あの、本当にもう少し声を小さく話してくれるかどん?」
「だからスラドン。私を一緒にしないでって言っているでしょ」
「クォンさぁもわかってくれどん。どうしても、分けることが出来ないどん」
スラドンも本当に困っているようだったので、それを察したアビッソが話題を変えて話し出す。
「それにしても結局このままだと、お祝いと今日来ているらしい、第一の新しい使徒さんには会えそうにないっすね」
「そうね。予想以上に時間がかかってしまったから、到着は遅れそうね。お姉さんも豪華な料理食べたかったなー」
任務は王国周辺にいるモンスターの討伐であったが、標的を発見するのに時間を予想以上に消費してしまったことにより、任務は完了したが、予定時間を大幅に超えてしまったのだ。
「料理なら、シュメルがとっておいてくれるらしいから多分平気だよ」
「そうなのかしら、それならお姉さんはいいけど」
「しかし、歓迎会も大事だけど、その第一学園から来ているクロノさぁとかいう新しい使徒さぁは、例の冥獄凶醒とやら二体も倒した強者と聞いているどん」
「その冥獄凶醒とやらも知らないし、そんなに強い使徒様はこっちに何をしに来たのかしら? あんまり面倒事を持ってこられると困るんだけど」
「シュメルから聞いた話だと、サリメナ様のお告げで、その使徒様を鍛えて欲しいそうっすよ」
「鍛える?」
クォンは、その話を聞いて表情を曇らせた。
「クォンちゃん嫌なの?」
「うん。まぁ正直面倒かな。それに今日も歓迎会で仕事が無くなって良かったと思っていたし」
「クォンさぁは、意外と面倒事を嫌うどん」
クォンはスラドンに指摘されると、前髪をイジリながら、バツが悪そうに口を尖らせる。
「だって面倒くさいもん。それにその冥獄凶醒を二体も倒しているならあたしが鍛える必要なんていらないじゃないの」
「でも、この依頼はサリメナ様のお告げだから、しないとそれこそに面倒になるっすよ」
「あの、女神が関係しているとしたら、きっと他にも何かありそうね」
「それにしても、その使徒様ってどんな人かしらね。お姉さん気になるな~」
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