相談役イフル~セラ編~
「空は透き通るような青空ですし、海は輝いて綺麗ですね。第一の方は夜景が綺麗ですが、こちらもこちらで風景がとっても綺麗でいいですね」
イフルは部屋へと案内されると窓を開けて外の風景を堪能していた。潮の香りがする海風と心地の良い日差しに淀んだ何かも、吹き飛んでしまいそうであったが、部屋に入っても未だに元気を取り戻せていない二人を、眺めてしまうと、爽快な気分も上塗りされると同時に、喉元まで来ていた言葉をなんとか出さないように飲み込んでから、今もどよん状態の二人に向かって話しかける。
「二人共。そろそろ落ち着いてきましたか?」
『……』
返事がない。どうやら返事をする気がないようだ。
イフルはその事に、またしてもこの場にふさわしくない言葉を吐いてしまいそうだったが、なんとか押しとどめると、その代わり今度は確実に二人に響く言葉を選出し声にする。
「二人共聞いているかどうかわかりませんので独り言のように話しますが、今日はこの後に私達の歓迎会を開いてくれるそうですが、参加は自由だそうです。ただ、ここで参加しないで、この場に残ればクロノ様の評価ああああああああああああああっ! 二人共おちつ、落ち着いて下さい!」
「それはダメよ! でもどうしたら分からないのよ!」
「セラもクロノ様とはいたいけど、今のセラの状態だと、フィリアと同じでどうしていればいいか分かんないのよ!」
「ふ、二人共、どいてください。重いです……」
イフルは二人の下敷きになっており、今もその重さで苦しそうにしていた。
☆
「イフルったらひどいわね。私がまるで重いみたいな言い方をしてくれるなんて」
「そうですよ。セラ達がちょっと乗る場所が悪かっただけで大袈裟なのよ」
「いや、まさか急に襲いかかってくるとは予測していなかったので……それで二人は、現状を見られてクロノ様に嫌われたくないということですね」
イフルの問いかけに二人は、こくんと首を縦に振る。
この時イフルは二人を見てクロノが、そんなことで嫌うはずがないと言おうとしたが、今この二人に言ったところで何も響くものはないだろう。
それならば、まずは二人が抱えているものを吐き出させて、出来る限りの提案をするのが現状では最も適している。
「それならば私が二人の相談相手になりますから、その気になることを教えてください。もちろんここで話した内容は絶対にクロノ様に伝えませんから」
イフルが優しく二人に向かって寄り添うように問いかけると、先に口を開いたのは、セラであった。
「あ、それじゃ、先にセラの話を聞いてくれるかな?」
イフルは思わず一瞬顔を緩めそうになるが、緩めずにゆっくりとした口調で返事をする。
「もちろんです。でもセラさんについてはある程度知っているので、セラさんはこれからどうしたいと思っているか教えてくれますか?」
「セラは、クロノ様と一緒にいたいけど今のセラは本当に何にもないの。一緒にいてくれた雷麟を含めた札も、教わる為に手に入れた短剣も、失ったものを取り戻すためのお金も全部なくなっちゃったの。そうしたら、セラの代わりなんてすぐに見つかってセラはいらない子になってしまうの! でも、セラはクロノ様の傍で頼られたいの! どうすればいい!」
セラは秘めていた想いを包み隠さず全て話し、イフルは聞き漏らすことなく聞き終えると、ゆっくりと声を出し始める。
「セラさんは本当にそれだけ辛い思いをずっと一人で抱えていたのですね。でも、その事については平気です。セラさんはクロノ様の傍に、望む限りずっといられますよ」
「なんで、イフルがそんなこと言えるのよ。それじゃセラは収まらないよ」
「それは、クロノ様がそんな人ではないからです。もしそんな人であれば私達はこうしてクロノ様について来てはいませんし、今も本来は任務という役目でこちらに来ていますが、それを感じさせないほどです。だから、この後、クロノ様に会ったら普段みたいに声をかけてみたらどうですか? きっとクロノ様は安心して普段と変わらず話をしてくれますよ」
「そうかなぁ。セラ本当に何も無いんだよ」
「先ほどからセラさんは何もないと言っていますが、無いだけで負債があるわけではないですし、今までして来たことを更に頑張れば、きっとクロノ様について行けますよ」
「そうかなぁ。セラ出来るかな……」
「出来ますよ。というか、それは私達もこれから強くなることが必要となります。そうしなければ、凶や冥獄凶醒と戦うことすら出来ませんし、そうでなければ、一緒にいてもクロノ様の足手まといになるだけですから。それにお金なら少しですが貸せますし」
「ううううううう。イフルうううううう、あなた本当にいい人ね。セラも頑張るから、一緒に手伝ってね!」
「はいはい。これでもう平気ですね」
イフルは抱き着いてきたセラの銀の髪を優しく撫でながら、セラの調子が戻ったことに少しだけ安堵すると、その視線をいまも口を紡いでいるフィリアに向ける。
「さぁ、次はフィリアの番ですね」
「そうね。ここにいる二人はこれからも一緒に戦う仲間だから、伝えておかないといけないわね」
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