どうする、どうする?
「以上の話が、セラさんが現状になってしまった理由になります。ちなみにこの時あまりにも可哀想なセラさんに、せめても救いということで、結局昼食を奢りました」
イフルは話終えると、クロノに淹れてもらっていたお茶をすすって、渇いた口腔を潤した。
「そうだったんだ。あの短い時間にまさかそんなことが、起きているなんて知らなかったよ。あと、ブラックスターの件についてはセラも気にしなくていいからね」
セラの方を見ると、今も顔を下に向けているが、ブラックスターという単語に反応したのか、その顔は耳まで赤くなっており、クロノに気にするなと言われても簡単にできそうになかった。
あと、聞いた話によると、ブラックスターのクエストについては、その後に発生したレイドアウトブラットによるクエストが緊急に発生し、ギルドでの話題が変わり、すでにかき消されているらしい。よかった、よかった。
「それで、セラは現状、武器も失ったし、恥ずかしい思いもしたし、お金も失ったっていう訳か……。それなら、こうなってしまうのも分かる気がするよ」
「そうなのです。カードに記載されている履歴を見たところアルチベータはどうやら、最初にあの二人に指示をしてセラさんの貯金を全て手にしたようです」
「本当に厄介な奴らだよ」
クロノは苦々しくコロンとメレルの顔を脳裏に浮かべる。
直接戦った事は無いが、あの二人も今もアルチベータに付き添い、共に行動していると考えられ、どこかに身を隠しているはずなので、探して凶の状態から救わなければならない。
「セラさんの話はここまでにしておくとして、フィリアはどうしてこうなったのですか?」
「それについてだけど――――」
「言わないでクロノちゃん……私耐えきれる自信ないから……だって、出来ない女だもん」
フィリアが小さな声で呟くと、イフルもさすがにそれ以上は聞く気が冷めてしまい、大人しく二人をそのままにしておくこということで、クロノと結論を出すのであった。
それからは、静かに出発の準備が整うまで、四人共部屋で待機していたが、誰も言葉を発することなく、いつもよりも時間が流れるのを遅く感じながらクロノは三人を見ると、フィリアとセラは、ほとんど変わらず静かにしており、イフルに関しては、それ程二人のことを気にしていないのか、今では縦ロールをみょんみょんと伸ばして遊んでいる。
遊んでいるイフルは別として、今も沈んでいるフィリアとセラを連れていっていいものなのか。連れて行ったとしても沈んだままなら、辛いだけだろうし。
時計を見ると時間もそろそろ出発の時間に近づいているので、クロノはどうしようかと額に手を当てて悩んでいると、みょんみょん遊びを止めたイフルが提案する。
「クロノ様。そろそろ予定時間ですが、その、どうします?」
「今も考えていたところだよ。二人共調子はどう?」
クロノ問いかけに、こくこくと頷く二人だが、どう見てもダメそうである。
「そうしたら、せっかくあちらに待っていただいているので、二人は落ち着き次第ついて来てもらうとして、先に私達二人でヴィゼン王国に向かうとしますか?」
「うーん。そうだね。そうするしかないのかな」
そのクロノの言葉に元気のない二人は同時に顔を上げると、すごい剣幕で口を開く。
「ダメ! 絶対にそれだけは嫌! イフルに取られるぐらいなら、私今からどれだけ火傷してもいいから、それだけはやめて! クロノちゃんとの夜を過ごすのはフィリアだけなんだから!」
「セラも絶対に嫌です! お金も力も失ってさらに、クロノ様の信用まで無くなったら、セラはこれからどうやって過ごしていけば、いいか分かりません!」
「ちょ、二人共! 落ち着いて!」
二人は椅子から立ち上り、クロノにしがみ付くと、その勢いでクロノは椅子から転げ落ち、二人に押し倒される。
「クロノちゃん! 私今度は気を失わないから! 本当は出来る女だから! 平気だから!」
「セラを捨てないで下さい! 捨てられたらセラはどうしたらいいか、ぐすっ、ひぐ」
「セラ! そこは首だから強く締められたら、ヤバいって! フィリアはシスター服を脱ごうとしないで! イフルさん助けて! ぐえええええええええええ」
「はぁ~。向かう前からこんな状況で良いのでしょうか」
イフルはため息まじりに、クロノ達の仲裁に入るのであった。
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