セラさんはこうして、いまの姿になりました。
「あら、セラさんではないですか。検査は終わったのですか?」
「まぁね。セラは凶になったということもあって、イフルよりも検査時間がかかったけど、どうやらクロノ様はまだ検査をしているようね」
「仕方がありませんよ。クロノ様は、冥獄凶醒のアルチベータと戦っていたのですから、それに体には目立った傷はありませんでしたが、負傷はしているでしょうからいろいろと終わるには時間がかかるのでしょう」
そういうイフルも軽傷を負っていたが、クロノに対して傷も成果もたいしたことがないので、自分で気にする事のない程度だとしていたのだ。
「そうよね。セラ達がこうしてここにいられるのもクロノ様のおかげだし、今は検査に引っかかることが無いように祈っておきましょうか」
「そうですね。そうしておきましょう。それで戻って来たら一緒にお礼を言いに行きましょうね」
「うん。そうしましょう」
「あ、そうだ。セラさんよろしければお昼を一緒にしませんか?」
「いいよ。それじゃ、向かいましょうか」
二人は学園に内で食事をそれぞれ選んで今は外の景色が見える窓際の席で、今回の回顧をしながら昼食を取り始めていた。
「今日は、ちょっと高めの注文をしてしまったけど、一仕事終えたし、少しぐらい贅沢をしてもいいわよね」
セラは気分よくちょっとお高めの昼食を注文し、イフルは今日の日替わりを注文していた。
「昼食をとるのであれば、フィリアも一緒に呼べば良かったですね」
「確かにそうね。でもまぁ、たまには二人でもいいじゃないの」
「そうですね。セラさんとは一緒に鍛錬などもしてきましたが、こうして二人っきりになるのは初めてですね」
「そうね。お互いに名前は知っていたけど、こうして一緒に行動するまでになるなんて思ってもいなかったわ」
「私もセラさんと同じです」
二人は、こうして出会う前はお互いに名前を知っている程で、詳細までは良く知らなかったのだが、クロノとフィリアの出会いにより、二人もこうして昼食を取る程にまで仲を深めているのだ。
その後もガールズトークをしながら仲良く昼食を進めていると、話題はあの共通の話題となる。
「そういえば、セラさんは凶になった時のことはどれくらい覚えていますか」
イフルも過去にヴェドの手によって凶となった過去を持つので、今回アルチベータによって凶となったセラについて興味があったのだ。
「それが、ほとんど覚えていないの。そういえば、イフルの時は覚えていたのよね」
「私は覚えていますが、凶にされる冥獄凶醒でも違いがあるのですかね」
「まぁおかげで、余計な記憶も覚えていないし、今後の生活にも支障が出なさそうだから助けるけどね。でも、武器を失ったのは痛かったわ」
アルチベータとの戦いによって持っていた全ての武器を失ったセラだが、今もパクリと美味しそうにパンを口へと運べるほどであるので、それ程気にしていないように見えた。
「しかし、セラさんも、凶になってしまうとは大変でしたね」
「それは仕方がないわ。それにセラが凶になったおかげで、冥獄凶醒も倒したし、セラが言っていた目立つ人間が凶になると、こうして簡単に見つけ出すことが出来たじゃないの」
セラの声音はいつもと変わらないものであったが、その表情にイフルはどこか寂しさを感じ、思わず抱きしめてあげたくなるほどだった。
だが、ここでイフルにはとある疑問が発生する。覚えていないのであれば、あの事も覚えていないことになるのか、気になってしまう。
聞こうかどうか悩むが、ここで聞いておかないと、聞けるタイミングを失ってしまいそうなので、勢いで聞いてしまうことにした。
「そういえばセラさんは、凶になった時の記憶が無いと言っていましたよね」
「うん。そうだけど?」
「そうすると、クロノ様、もといブラックスターの件や、その後の件などは覚えていないのですか?」
そのイフルの問いかけに、一瞬セラの表情が固まる。
「え、何? そのブラックスター様の件や、その後の事って」
「やっぱり、知らなかったのですね。だから、そんな振る舞いが出来ているのですか。でもあの事を覚えていないとなると、それはそれで良かったですね」
イフルは食事を口にしながら納得したように頷いた。
「ちょっと待ってイフル。え⁉ まさか、あの服装になっていたのもそれが関係しているの?」
「そうですが、ってああ! セラさん! 暴れないで水がこぼれます!」
「ああああああ、恥ずかしいぃー! てっきりあの冥獄凶醒が着せ替えただけだと思っていたらまさか、そんなことがあああああああああああっ! いったいセラは、クロノ様に何をしたのよぉぉおおおおお!」
「だから、それを教え、いたっ、痛いです。セラさん落ち着いてください。私の足を蹴らないで下さい!」
「聞けるわけないでしょぉおおおおお! バカなのイフル!」
「バカとはひどいですよ!」
セラはこの時すでにあの時の服装から、凶状態の自分が何をしようとしていたかおおよそ予想がついていた。
だからこそ、こんな話知りたくもなかったが、この話をクロノと出会う前に聞けてよかったと必死に言い聞かせていた。
もし、久しぶりに出会ってクロノから聞かされていたら、卒倒していたに違いない。
「でも、セラにはお金はあるから! セラにはこれまでに溜めたお金があるから武器だっていっぱい失ったけど、お金の力で武器も札も作り直して、すぐに強くなってやるんだから! そうすれば挽回だってすぐに出来るわ」
セラは基本必要以上にお金を使わず、ちょっとずつ貯金をしていたので、アルチベータとの戦いで、札も武器である短剣も失ってしまったが、今までに溜めたお金は充分それらを補えるほどあるので、完全に戻るまでには時間は少しかかるが、問題はない。
「それなら良かったですよ。もしこれでお金まで失っていたら、どうなっていたことやら」
「そうね。それこそ、絶望ってやつを味わっていたのかもしれないわね」
セラは少しだけ表情を緩ませられる程、心の余裕が戻っていたことにイフルは安心したのだが、すぐにこの平穏は崩れ去るのだ。
「あ、いました。セラさん。今よろしいですか?」
「うん? どうしたの?」
「さっき、頼まれた素材を買いに向かったら、セラさんの預金無くなっていましたよ」
その言葉にセラは頭が真っ白になった。
「……え?」
「なんか、セラさんに言われた場所で注文用紙を渡して指定の金額を支払おうしたら、払えなかったので、戻って来たんですよ」
セラはそのシスターの言っていることが、理解出来なかったのではなく、理解したくなかった。それでも言葉を絞り出して声に出す。
「嘘でしょ? ねぇ嘘でしょ? 嘘って言ってよ」
「嘘じゃありませんよ。渡されたカードを返しますから、確認してみてください」
セラはシスターから印字された注文用紙とカードを受け取ると、魔法を起動しカード残高を確認するとそこには、一つだけ丸が記されていただけで、履歴を見ると、数日前に全額引き出されていた。
「ふふっ、ふふふふふふふふふ」
「あの? セラさん? どうかしましたか?」
それらを全て飲み込み、すでにボロボロなセラは急に笑い出し、心配になったイフルが声をかけると、とうとうセラは壊れた。
「嘘よっ! 全部、嘘なんだわああああああああああぁぁぁぁぁぁ……。なんで、凶になっただけでこんなに失ったのよ! 返して! 全部返してよぉ! うわあああああああん! ……イフルぅ、お金貸して下さい……」
身も心も傷つき更にお金までも、奪い取られたセラは、この昼食の間だけで満身創痍となり絶望していた。
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