フィリアの刻印修復
すでに門すらなくなっている元アルチベータの屋敷の周辺には多くのシスターが集結しており、クロノ達は無事に向か入れられ、厳重に学園へと輸送されると、すぐに四人共検査室に案内され、検査嫌いのフィリアも前回の検査を覚えていたのか、すんなりと受け入れ順調に四人は検査された。その中でも最も入念に検査されたクロノが開放されたのは、アルチベータとの戦いから二日後であった。
ほとんど寝てばかりで退屈であった為、今回のアルチベータ戦をクロノなりに振り返っていたが、あの致命傷を受けてからの記憶が無いので、果たしてアルチベータを倒したのかも分からない。
全てを出し切っての総力戦となり最後の油断によりあのような事態を招いた。
今はこうして息をして生きていることを実感しているが、自分の弱さにも気づかされる課題が多く残った戦いだった。
出来れば戦いなどしたくもないが、まだ冥獄凶醒との戦いは続くだろう。課題を片付けることも大事であるが、この時間も次はいつあるか分からない。
それならば、最近の忙しい日々から離れたこの時間を利用して、検査終了までたっぷりと休養をとることにした。
「クロノ様。お疲れさまです。検査の結果は特に目立ったものがありませんでしたので、そのまま経過を見て行きたいと思います」
「分かりました。ありがとうございます」
ようやく検査が終わり窓の外を見るとすでに外は暗くなっており、自室へ戻るとそこには、椅子に座って手に本を持ったフィリアが既に部屋にいた。
「あ、クロノちゃん。やっと戻って来たわね」
フィリアは本を閉じて、視線をクロノの方へと向ける。
「僕もようやく検査が終わったよ。結果も特に問題無さそうだよ」
「それは良かったわね。私なんか、白閃一掃を使ったせいで今も力が入りにくくて困ってしまうわ」
フィリアが放った白閃一掃は、周囲を破壊する光線でその威力は確かに絶大であったが、反動も大きかったようだ。
「あれ、すごかったよね。どうやってあの技を身につけたの?」
「あれは、イフルと一緒に特訓している時に、剣に奇跡を纏えるようになって思いっきり纏わせて戦ってみたら、力に振り回されて使えなかったから、いっその事、撃ってみたらどうかと言われたから、その通りにやってみたら、まぁ使えたのよね」
「そうだったのか。あ、そうだフィリア刻印はどう? だいぶ減っていない?」
「うん……実は結構使っちゃっていたのよねぇ。またリフィアに合わなきゃダメかしら」
フィリアは不安そうに無意識に刻印が、刻まれている下腹部に視線を向け、クロノは元気がないフィリアに励ますように声をかける。
「それなら、任せて! リフィアに合わなくても僕が治せるから!」
「そうなの⁉ そうしたらクロノちゃんにしてもらえるかしら!」
フィリアは、曇った表情から嬉しそうにしているので、僕もその期待に応えようとしたが、そういえばフィリアの刻印も結構際どいところにあることを忘れていた。
それでも、フィリアには元気になってもらいたいので、内容を説明する。
「でもね、フィリア。実はこの回復の仕方は、刻印に直接触れて力を送るから、フィリアの刻印ってどこにあるのか教えてくれないかな?」
全てを知っているくせにあえて伏せて言ったクロノは、自分に対して嫌悪を抱いたが、直接言う勇気はまだ持ち合わせていなかったので、どうしても言うことが出来なかった。
「私の刻印って結構恥ずかしいところにあるけど……いいか! 別に! クロノちゃんになら見せられるし、うん、そうだよね!」
フィリアは平気そうにしているが、その頬はほんのりと赤くなっていることから、やはり恥ずかしいのだろう。
お互いにちょっとだけ気まずいが、それでもしておいた方がいいと分かっているので、気持ちが変わらない内に、準備を進める。
「それなら、始めるからベッドに寝てもらってもいいかな」
「え、もうやるの⁉ ちょ、ちょっとやっぱり待ってもらえるかしらクロノちゃん」
フィリアは珍しく戸惑っていることから、やはり抵抗があるのだろう。それなら無理にすることはないし止めておいた方がいいかもしれない。
「やっぱり、やめておく?」
「ち、違うの。準備が…まだなの、ちょっと間、クロノちゃんは後ろを向いてもらってもいいかしら?」
「え? あ、分かった。準備出来たら教えて」
クロノはフィリアに背を向けると、後ろの方で何やらごそごそと服が擦れる音がすると白い光が差し込んできたので、恐らく残った力を使って加護を発動し清めたのだろう。
フィリアも女の子だし、やっぱりいろいろと気にしているようだし、気にかけてくれてもいるなら僕も嬉しく思う。
「クロノちゃん、準備が出来たから振り向いていいよ」
「うん。それじゃ、始めるから刻印を僕に見えるように、してもらってもいいかな」
「うう、恥ずかしいわね」
フィリアは、更に頬を赤くしてシスター服を下げて、自身に刻まれている刻印を見せた。
「ごめんね。すぐに終わるから」
フィリアは羞恥心で頬をほんのりと赤く染めていたおり、クロノもそんなフィリアを眺めていたら頬を赤くしてしまっていた。
「う、うん。優しくお願いね。……ひゃあ!」
刻印に触れた時に驚いてしまい、フィリアが珍しい声を出し、その可愛い声に表情を緩ませてしまいそうになるが、なんとか堪える。
「それじゃ、始めるよ」
「よろしくね」
クロノは真剣な表情でフィリアの刻印に力を注ぎこもうとした時、一瞬手に違和感があったが、気のせいだと思い注入を開始するのであった。
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