サグレサグレ
「はっははははは。哀れねぇ。さっきもふらつくあなたを見ていると、つい可哀想に思ってしまいますわぁ」
覚悟を決めたクロノはアルチベータの発言に対してそれでも口を開くことはなかったが、この後のアルチベータがとった予想外の行動により、クロノは、しようとしていた行動を保留する。
そのアルチベータのとった行動とは、クロノの返事を待つことを止め、その余裕からなのか、アルチベータの口が止まらないことであった。
「そうだわぁ。その姿を見ていたら気が変わりましたわ。あなたに選択肢を与えましょう。あの、赤髪と金髪の女をそしてセラさんを連れてくれば、全員助けてあげましょう」
その口ぶりからしてアルチベータは、完全にクロノを見くびっているのだが、それはクロノ自身も目立った行動をしていないので仕方がない事だろう。
だが、この余裕の態度にクロノはまだ判明していない不安材料を、払拭できると見込みあえてのっかることにした。
「あの三人を連れて来ることが出来たら、本当に助けてくれるのか?」
「ええ、私は人間が大好きですし、更に私をここまでにした実力者であれば、一応評価はしてあげましょう。それにその実力者を殺してしまうのももったいないですし、セラさんの悲しむ顔を見たくはありませんから」
ここまで舐められるとクロノもさすがに腹の下から込み上げてくるものを感じたが、それを耐え抜いて、その提案に乗る構えを見せたのだ。また、アルチベータが出した提案には、多くの選択肢があるのだ。
その選択肢を一つ選べば次の選択肢へと派生していくが、この提案は最初がまず肝心となるので、返答をわざと遅らせる。
「どうしたのですか? 悩むことは無いのですよぉ。早く行ってあの三人を連れてなさい。そうすれば、助けてあげますから」
アルチベータはうふふと声をもらしていることから、余程楽しいことを考えているのか、その表情は異形の姿になったことでより一層不気味となっている中で、クロノはそれらを理解しながらも拒否する。
「いや、やっぱりそれは出来ない。仲間を売ることなんて……」
その言葉を吐いたとほぼ同時に、アルチベータは右腕を振り上げると、破裂音に近い音共にクロノの足元を何かが打ち抜いた。
「別に売れとは言っておりません。私の下で暮らすのですから、あなたは仲間を売ってはおりませんので、安心してください」
アルチベータは絶えず説得を続けることから、それ程クロノ達を手中に収めたいのだろう。ただ手中に収まった時、どうなるかはおおよそ予測が出来る。
「でも……」
クロノは、再度口を開こうとした時、またしても足元を何かが打ち抜く。
「いいから、早く行け。私の気が変わる前に」
口調が荒々しくなっていることから、それ程猶予は残っていないようだが、クロノはそれでも、動こうとはしなかった。
なぜなら、目の前にいるアルチベータの謎を掴みきれたからである。
そのせいか、不思議と笑いが込み上げてきて、表情を緩めてしまい、アルチベータ更に不愉快そうに問いかける。
「あなた、何が可笑しいのですか。それとも何か探っていまか?」
「そんなことないよ」
クロノはこの時嘘は言ってない。もう。探ってなんかいない。
「まぁ、探ったところで意味はありませんが、ここは一つお仕置きをしておきましょうか」
「そんな⁉ やめてくれ!」
クロノはわざと怯えたような声を出し、アルチベータから視線を離さずに後ろへ、一歩下がった。
「ダメですよぉお!」
その行動にアルチベータは試されているとは、知らずに一番上の右腕を振り上げ、勢いよく振り下ろすと、クロノはその瞬間を見極めコクウを天に向かって振り上げ、感じた感触を捉えたまま振り抜くと、クロノの頭上から繊維のようなものが舞い落ちる。
「何⁉」
アルチベータはそのクロノの行動に驚きを隠しきれずにしており、クロノはこの答えに頷いて、アルチベータに対してコクウの切っ先を向けて宣言する。
「これで、全て分かった。そしてお前を倒す準備は出来た‼ 覚悟しろ! 冥獄凶醒アルチベータッッ‼」
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