表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/177

アルチベータ戦開幕


 アルチベータが両腕を交差するように振り上げると、先に着弾しようとしていた火球が全てかき消されたことにクロノとフィリアは数舜思考を巡らせたが、二人はそのまま互いに持つ剣を振り降ろす。


 その息の合った攻撃に対してアルチベータは交差させたまま振り上げている両腕を、勢いよく地面に叩きつけるように振り下ろすと、クロノの目に一瞬、紅い糸のようなものが映り、反射するように糸に剣を当て滑らせるようにして回避するが、アルチベータの右側に位置していたフィリアは、その紅い糸を目視していたが、クロノよりも更に速い速度で接近していた為、回避しきれず剣で受け止めてしまい、その勢いを殺すことが出来ず、地面へと体を打ちつける。


「ぐっ!」

「フィリア、無事ですか!」

「ええ、問題ないわ。まだ戦える」

 

 倒れたフィリアに駆け寄ったイフルの手を借りることなく、フィリアは白剣を地へと突き刺して立ちあがると、未だ余裕の笑みを浮かべているアルチベータを敵視する。


「これでは、私を倒すことなど、ついえたのでないのでしょうか?」

「黙りなさい! 冥獄凶醒(めいごくきょうせい)!」

 

 フィリアは再度、鋭い眼光でアルチベータを捉えると、大きく足を開き、柄と切っ先から少し下ほどの峰を指で押さえ、クロノが見た事ない構えを取る。


「フィリア! その技を使うのですか⁉」

 

 対してイフルはその構えが何を表しているかを理解しているようで、クロノは攻撃こそ失敗したが、アルチベータがフィリア達に気を取られている隙に、気を失っているセラを回収し、イフルの下に駆け寄る。


「イフルさん。フィリアは何をしようとしているの⁉」

「説明は後です! とにかく今は伏せて下さい!」

 

 イフルの指示に従ってクロノはセラに覆いかぶさるようにして身を屈めると、フィリアはその構えのまま極限まで集中し、アルチベータただ一点狙いを定め打ち放つ。


白閃一掃(はくせんいっそう)‼」

 

 切っ先から放たれた純白の超弩級の破壊光線が周囲を破壊しながら、アルチベータに衝突すると爆発し同時に部屋中に暴風が吹き荒れ、必死にクロノ達は収まるのを待ち続けた。


 ようやく風が収まったのを確認し、ゆっくりと頭をあげて前をみると、そこには、肩で大きく息をし、額には大粒の汗をにじませていたフィリアが今に崩れそうに立っており、その足はすぐに限界を迎え、崩れるように倒れる寸前に、クロノがその疲弊したフィリアを抱き抱える。


「フィリア! なんで、あんな攻撃をしたの⁉」

「どうしてだろう。私でも分からないや。でもね。早く冥獄凶醒を倒そうと思ったら先に体が動いちゃった」

「それでも! ……いや、フィリアのおかげで助かったよ」

「うん。良かった」

 

 クロノは全ての疑問飲み込み、一言お礼を伝えた。


 フィリアは自身で考えた今出来る最高の技を使ったのだ。それに今はそのことに感謝するしかない。


 結果的には力を使い果たしたが、それでも今出来る精一杯のにこやかな笑顔で笑うフィリアを目の前にしてクロノはこれ以上何も言うことは出来なかったのだ。


 クロノはそのフィリアの身体を抱きしめ、視線を崩壊した部屋の奥に向けるとそこには、何やら人影には見えない大きな影が蠢いていた。


「フィリア。後は僕に任せて」

「うん。おねがい。あ、そうだクロノちゃん。ちょっといいかな」

「どうしたの?」

「死んだらダメだよ」

「うん。分かっているよ」

 

 その言葉に安心したのか、フィリアはゆっくりと瞼を閉じて気を失ったが、安定した息をしているので、問題はないだろう。

 

 フィリアをそっと下ろして、目の前で蠢いているあれを、どうするかと腕を組んだその時だった。


「ク、クロノ様! イフルも加勢……微力ながら……加勢致しますっ!」

 

 クロノは加勢を申し出たイフルを見ると、その手は震えていて表情もいつもよりも固くなっていた。


 イフルは今も奥で蠢いている異形の姿を目視してしまい、その異形の姿にヴェドの姿が重なり、突然あの時に刻まれた恐怖に襲われ、今すぐにでも逃げ出したいと一心に思うが、それでも歯を食いしばって加勢を申し出たのに対して、クロノはイフルの勇気ある加勢の申し出に感謝して断った。


「イフルさん。大丈夫。ここからは僕一人が戦うよ」

「クロノ様! お一人で戦うというのですか⁉」

「うん。そうだよ」

 

 クロノは落ち着いた口調で呟くように口にして、それを聞いたイフルは、その言葉を受け入れることが出来ずクロノを問い詰めてしまう。


「あの姿を見て怖くないのですか⁉ あの異形の姿を見て逃げ出したいと思わないのですか⁉」

 

 今も姿を変化させている異形を震える指で示しながら、イフルはその溢れ出る感情に任せて声を震わして訴えるように、クロノに言い寄ってしまっていたことに気づくと、申し訳なさそうに「ごめんなさい」と小さく呟き、自身を出来る限り落ち着かせて己の未熟さを恥じるように小さな声を出す。


「クロノ様…ごめんなさい……私は何も役に立てなくて……本当にごめんなさい。今だってわたし……」

 

 イフルは自身のその力の無さに、どうしようもなく悔しくて、気づいた時にはその凛とした目から大粒の涙を流していた。


「イフルさん。泣かないで。イフルさんがいてくれたおかげで、フィリアもこうして戦えたことだし。あとは僕に任せて欲しいんだ」


 クロノはそっとイフルに近づいて涙を拭いてあげると、イフルは縋るように問いかける。 


「そうしたら私はどうすればいいのでしょうか?」

「あの二人を無事にここから遠くに連れて行って欲しいんだ。僕を倒したイフルさんだから、きっと出来るよね」

 

 そのお願いを聞き届けたイフルは、それが今出来る最大の役目であることに自信に言い聞かせ、必ず遂行することに闘志を燃やし、先ほどまで身体中にまとわりついていた緊張が和らいだのか、落ち着きを取り戻して返事をする。


「ええ、そうですね! なんとしても私が連れだしてみせます!」

「うん。よろしくね」

 

 イフルはすぐに加護で自分を強化し、フィリアを背負ってセラも抱えて撤退する支度を整える。


「クロノ様。それでは撤退します」

「うん。気をつけてね」

 

 イフルは一歩踏み出そうとした直前に、振り向いて静かに呟く。


「また会えますよね」

「もちろん」

 

 その言葉を信じたイフルはそれ以上何も言うことなく、全力で撤退した。

 

 クロノは撤退するイフルを見送ると、目の前で未だ蠢いているそれに話かける。


「それがお前の本当の姿か。アルチベータ」

 

 この姿でその名前を呼ばれたことにこの日で一番、不快感を抱いたアルチベータは、その怒りをぶちまけるように吠える。


「黙れぇ‼ 私があの姿になれるまでにどれだけ時間を費やしたと思っているッッ‼ ああ、アアアアアアアアアアアアッッッ‼」


 異形の姿となったアルチベータはその自身の姿に愕然とし、絶望の声を上げているが、それでもクロノはコクウを構えて、目を離さなかった。


「アルチベータ。お前を倒す!」

「許さない。あの赤髪もお前も絶対に許さないッッ‼」 

 

 アルチベータは、六本の刺々しい腕を大きく広げ臨戦態勢とり、二人の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます! ブックマークをしていただいた方ありがとうございます! 引き続きブックマーク、評価、感想をお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ